96.(勇者ミヤモト編)囚われのミヤモト。そして幼児退行へ
・2/10に第2巻が発売されます!
・それを記念して、10話分ほど、第2巻で大活躍するミヤモト君を主人公にした、異世界孤児院「ミヤモト」編をスタートします‼
・もちろん、これまでのストーリーの続きとして描いて行きますので、お楽しみに!!
・マサツグに敗れたミヤモト君の、大大大復活を見届けてください‼
96.囚われのミヤモト。そして幼児退行へ
「外せ、外しやがれええええええええええ‼ 俺は、この俺を誰だと思ってやがるぅぅうぅうううう⁉」
俺は大声で正論を喚き散らす。
だって、そうだ。おかしい、おかしすぎる!
勇者であり、英雄であり、輝かしいまでの光輝をまとうこの俺様、ミヤモト・ライズ様が、こんな目に遭うなんて、なにかの間違いだ!
これは夢!
出来の悪い悪夢!
そうに違いねえんだよお!
「もう、ライズ様ったら、そんな風に張りつけ台で鎖をじゃらじゃらとさせて♡ ぼくのことを誘ってるのかにゃあ?」
「ひい、や、やめろ。よるな。もう俺にさわるな‼」
俺はこの世界に呼び出されたときに与えられた力、そして邪神の端末体になったときに手に入れた力の残滓をフル動員して、この一生で一番の困難から脱しようとする。
だが、古ぼけただけの張りつけ台だと思われた代物は思いのほか頑丈で、この俺の力をもってしてもビクともしねえ。
「なんでだ! この俺様の力をもってして何でピクリともしねえ⁉」
「むふふ、それはこのサキュバス界に伝わる銘ある一品だからねえ~。そう簡単には逃れることはできないよ~。何より、ぼくの体液を体に沢山とりこんじゃった後だからねい。ぼくの意に反する行動は基本的にNGなのだよう」
「サ、サキュバスだとう⁉」
サキュバス。淫魔。
その肉体と色香によって男を蠱惑し、操ると言うモンスターのことだ。
そういうものがいるという話は、城の奴らから聞いたことはある。
だが、
「てめえは男だろうが⁉」
「男サキュバスだっているよう。珍しいけどねえ。レアなんだよう。喜んでよう?」
「ふざけるなあ! もう俺に触んじゃねえええええ!」
「いやよいやよも好きのうちぃ。そろそろ癖になってきちゃったんじゃないかにゃあ?」
「も、もうやめてくれえええええええええええええ‼」
ぐにょんぐにょ、ごしょごしょ、ちゅるりちゅる、と。
俺が泣き叫ぶほど、この男サキュバスの野郎は火がつくらしく、その手管は激しく、だが繊細に、精密に、男がどこをどう突けば悦ぶのか、すべてを知り尽くした蛇のごとき動きを見せてくる。
「ほうれ、ここでええんか? ここがええんやろ?」
「うひいいいいいいいい」
「もうもう、なんて恥も外聞もない叫び声。はぁはぁ、もうぼくも止まらないよお」
「やめろ、頼む! 頼むから! 頼むからやめてくれ! わ、悪かった! おれが悪かった!」
「んん~? ぼくは何も悪い事なんかされてないよぉ? 恐ろしいモンスターたちから襲われかけていた僕を、ライズ様は身を挺して助けてくれたんじゃないかぁ♡ そして、ライズ様から僕に覆いかぶさって……その後は、こうして懇ろの仲に。いやん、ハッピー、ハッピーエンディング!」
「ち、違う! 俺は、お前が女だと思ったから、だから!」
「些末なるかな性別なんて♡ どぅわいじょうぶ! これが終わったらそんなこと気にならなくなってるからねえ! むしろ、ああ、こんなことも出来るんだ、男同士なら、って。そう考えを改めることになるよ。お互いに学び合い、高め合おうじゃないかあ」
「ひっ、やめろ! やめろ! 触るなって言ってんだろおおおおおおおお!」
「そんなこと言って体は正直だ、それー」
「ぎゃああああああああああああああああああああああ⁉」
俺は涙と唾液を飛ばしながら絶叫するが、気絶している間に連れてこられた地下牢のような場所であるため、その悲鳴は誰にも届くことはなかった。
それからも地獄だった。
それは舌筆に尽くしがたい。
体を自由にされたのはもちろんのこと。
泣き叫び、許しを請う俺は、あろうことか結婚の約束までさせられて……。
だが、それでも許されずに幾時間、幾日、どれくらいの時間が流れたか……。
絶望の時間が何時間も、何日も過ぎた頃、俺はやっと一時的に開放されたのである。
と言っても、張りつけ台には拘束されたままだが。
「うううん、ひどい。ぼくの体をもてあそぶなんて……あんまりだ。ママぁ……」
「まさか幼児退行するなんて。ほうら、男だけどあなたのママでちゅよ~」
「ひいいい。ちがう、ちがうよお。お前はママじゃないよう……」
「まだ少しは理性が残ってるっぽいなあ。残念」
まあいいや、と男サキュバスは言った。
「今日はちょいと野暮用があるので、少し席を外すよ。戻ったら続きをしようね、ラ・イ・ズくん?」
チュッ♡
「やめてよお……」
「にゃはははは、ではでは~」
そう言って男サキュバスは地下牢から立ち去っていくのであった。
「うう、ぐすぐす」
ぼくがこの世界の理不尽……。
選ばれた者であるボクですら、こんなひどい拷問を受けることがあるんだと、ママ助けてと叫びながら泣いていた。
その時である。
『選ばれし者よ。この世の理不尽を救わんとする誠の者よ』
「ぐす……ぐす……」
『嘆いてはならぬ。選ばれし者に嘆きの時は許されぬ。その身はその御身の物ではない。世界の命運を担う神の御業なれば』
「ぐす……ぐす……えっ?」
俺はどこからか聞こえて来た声に、驚きの声を上げた。
何よりも、まさに俺への呼びかけに、幼児退行していた意識が浮上した。
選ばれし者。
宿命を受けた者。
ままならない世界に現れた一寸の光……希望。
それはこのミヤモト・ライズ様をおいて他にはいない。
マサツグなどでは断じてない。
この俺こそが選ばれた者。
神に選ばれた世界を救うべき勇者‼
「俺の、俺のことか!」
幼児退行していた意識は瞬時に切り替わり、もとの俺へと立ち戻る!
いや、そもそも幼児退行なんてしていなかった!
あれは男サキュバスを油断させるためのフェイク!
俺すらも意識せずに行った神業に違いねえ!
「どこだ! どこにいる! どこからこの俺様を! 勇者ミヤモトを呼びやがる‼」
『我は封印されし聖剣。我は我を扱える真なる選ばれし者を……』
「聖剣! 聖剣か! やはり俺が聖剣に選ばれた勇者だったんだな⁉」
『…………その通り。そなたは選ばれた者……勇者。そう勇者である。聖剣……えー、神々に鍛えられし聖剣、世界を守る剣に真に選ばれた者。勇者。勇者である』
「やはりそうか!」
俺は確信を得たことで、更に勢いづく。
本来の調子を取り戻してく。
『……いま世界は未曽有の危機にさらされている。それを救えるのは真に選ばれし勇者、そなたしかおらぬ』
「なるほど、そうか! しゃあねえなあ、俺しかいねえんだから、骨を折ってやることもやぶさかじゃねえ!」
『選ばれし者よ、この選定の剣たる我の元まで来い。我は……ピピ……ガガ……ザザァ……』
「お、おい! どうしやがった⁉」
『精神……染の……深度が回復しや……。ふむ、なんでもない勇者よ。悪魔が真なる勇者であるそなたへの言霊を阻もうとしている。そなたへの連絡はこれで最後じゃ。我は確かに頼んだぞ。そこより南にある封印城『ガラケフの古城』へと参れ。頼んだぞ、真なる勇者、えー、選ばれた者よ‼』
それを最後に声はとだてた。
くそ、真なる勇者たる俺に聖剣を渡すまいとする敵がいるようだ。
だが、絶対に負けるわけにはいかねえ!
俺は勇者! 最強の存在!
「封印城ガラケフだな! よおし、分かったぁ!」
その声にこたえる聖剣の声はない。
だが、既に俺の宿命は定まった。
俺はやはり選ばれた勇者!
その俺に聖剣は悪魔の隙をついてメッセージを飛ばして来た。
選定の剣たる我のもとまで来い、と!
そう、この俺を頼って来たのだ。
世界を、このワルムズを、大陸を、秩序、平和を、この英雄に救えとすがったきたのだ!
ならば。
「こんなところでまごまごとはしてられねえええええええええええええ!」
俺は男サキュバスに色々されていたときに何千回と試したように、拘束台から抜け出そうともがく。
これまではいくら試しても無駄だった行為だ。
だが、今はこれまでとは違う!
「勇者‼ 英雄! この世界を救う選定されし者! それこそがミヤモト・ライズ様だあ‼」
ベッキイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ‼
俺の正義の心が最高潮に達したからだろう。
いや、聖剣の選定者たる俺の潜在能力がついに開花したのだ。間違いない。
俺は、俺以外の誰にも打ち破ること不可能なサキュバスどもの拘束具を引き千切り、
「ミヤモト・ライズ・ザ・シュバリエ‼ ここに降臨んんんんんんんんんん‼」
そう宣言したのであった。
好評をいただいたおかげで、第2巻に続き、第3巻の発売も決定しました!
皆様のおかげです、ありがとうございます!
Web版、書籍版で大きくストーリーが異なりますので、どちらも楽しんで下さいね‼






