93.(勇者ミヤモト編)マサツグ・ザ・ファーストコンタクト
・2/10に第2巻が発売されます!
・それを記念して、10話分ほど、第2巻で大活躍するミヤモト君を主人公にした、異世界孤児院「ミヤモト」編をスタートします‼
・もちろん、これまでのストーリーの続きとして描いて行きますので、お楽しみに!!
・マサツグに敗れたミヤモト君の、大大大復活を見届けてください‼
93.マサツグ・ザ・ファーストコンタクト
俺はマサツグと初めて会った時のことを思い出す……。
「へ、この学校の連中も大した事ねえ。どんなやつもウィークポイントがある。そこをついてやれば何でも言う事をききやがる。くくく」
今日は入学式だ。俺は順風満帆に学校生活を送れることを確信していた。
当然だなあ!
たった今、この学園で一番のワルを名乗ってたやつを締めきて来たところだ。
俺の親の権力、そして腕っぷしがあれば、できねえことはねえ!
それにだ、俺が快適な生活をするために、他の奴らが俺に貢ぐのは当然のことだ。
かしずかれ、敬われるのに値する男なのだから当然だな。
更に言うなら、もっとかしずかれるべきだ。
それが少し不満と言えば不満か。
「まあいいさ。まだまだ俺も高校生になったばかりだ。これから大きくなれば、会社の社長、議員、総理大臣、国連総長になるだろう」
できるば『王』になりたいところだが、日本じゃ王様になることはできねえ。
法律の不備ってやつだ。いけすかねえなあ‼
まあ、今そんなことはどうでもいい。
「これで頭をおさえたわけだからなあ。もう勝ったも同然よ! 中学の舎弟どもを呼んで祝杯でもあげさせるかあ?」
俺はいい気になって、舌なめずりした。
そうして、自分のクラスへと戻る。
俺はどっかりと足を投げ出して座った。
クラスメイトどもの顔を順番に見ていく。
まだ、クラスの割り当てがあったばかりで、名前は分かっちゃいない。
だが、まあ名前なんてどうでもいいだろう。
全員が俺の舎弟か女になるんだ。
あとは些事。俺がわざわざ考える必要もねえだろう。
と、俺が順番に間抜けな奴らの顔を眺めていると、独り、どうしようもなさそうなやつがいた。
顔立ちは悪くねえが、ともかく根の暗そうな、どうにも見込みのなさそうな男だ。
社会のゴミ、もしくは廃棄物、産廃ってやつだ。
社会に出てもなんにもできずに落ちこぼれることが決定した落伍者。
しめるまでもねえ。そのうち勝手に俺に部下にしてくれと懇願して来るだろう。
ああいう、落伍者ってやつは、自分独りだけだと生きていけねえからな。
(っと、いけねえ)
こんなどうでもいい奴のことを考えている暇はねえ。
俺は一刻も早く学園を牛耳らないといけない選ばれた存在なんだ。
学園の頭の言われてたやつはしめてやったが、他にもやることは沢山ある。
俺はそう思って頭を切り替えたのである。
半月ほどが過ぎた。
予定通り、学園の連中は俺の舎弟になった!
俺に逆らえる奴はいねえ。
くくく、これで俺の思いのままだ。
あとは快適に学園生活をエンジョイングするだけだな!
俺はそう思ってニヤニヤとした笑みを浮かべる。
が、
「ああ、いや、あいつが残っていやがったな……」
俺はうんざりとした声でつぶやいた。
なんていうか、アレだ。
足元に落としちまった1円玉を拾わないといけないような面倒くささと言うか、靴を履いてから忘れ物を思い出しちまった時の歯がゆさっていうか。
そういう、実に取るに足らないものをわざわざ処理しにいかなければならない、七面倒くささ、って奴だ。
俺がボヤクのも当然。
当然至極、だ。
ま、だが何となくこうなるという気もしていた。
何せ、奴は負け組のカス、だ。
だから、俺のような勝利者。優越者、上位にいる奴を見上げることしかできない。
声をかけるなんて恐れ多い、といったところか。
分をわきまえているに違いねえ。
本当なら、自分から、
「お、俺を舎弟にしてくださいませい!」
と土下座してくるのが筋だし、実際、あいつは俺にそうしたいに違いない。
が、そこは分不相応だと思って、どうしても踏ん切りがつかなかったのだろう。
ま、ここはひとつ、俺の寛大なところを見せてやるとするか。
支配とは恐怖だけじゃ足らねえ。
そう考えられるのが俺が他人とは違う優れたところだ。
時に温情も見せる。
それによって舎弟どもの求心力は一層強まるって寸法だ。
くくく、天才だな。
自明なことを考えながら、俺は自分の教室へ歩みを進めた。
取るに足らないゴミ掃除。
だが、それによって一幅の絵が完成するのだ。
半月もかかった仕事の仕上げだ。
それがつまらないものだとしても、まあ、許してやることにする。
俺は大きな気持ちで、あの男。
『直見正嗣』
と初めて言葉を交わしたのであった。
「ゴミが。目の前から消えろ。目障りだ」
「…………は?」
俺はマサツグの言葉を理解できずに、ただただ立ちすくむ。
聞き間違い?
いや、完璧である俺様が聞き間違いなどするか?
そうじゃない。
多分、今の言葉は俺が言ったのだろう。
実際、ゴミカスなのは目の前の男の方だ。
生意気にもこちらを真っ直ぐに見てきて、傲然と、くだらなさそうな、汚物をみやるがごとき視線を向けてくる目の前の男。
この男に、俺は言ったのだろう。
ゴミめと。
目の前から消え失せろ、と。
そうでないはずがない。
俺が、この世界の覇者となるべくして生まれた王の資質旺盛なるこのミヤモト様が、こんな奴に罵倒されて言い訳が……、
「目障りだと言っただろう。いい加減にそこをどけ。俺は今日の夕飯のレシピ検討に忙しい。このゴミが」
ふん、タイムセールスとの戦いといったところか。
そんな訳の分からない呟きも聞こえて来たが、どうでもいい。
大事なのは、この俺が、この俺様が、こんな、こんな負け組の落伍者に侮られちまったってことだ‼
「てっめええええええええええええええええええええ‼ この俺様がだれだかわかってんのかあああああああああああ⁉⁉⁉」
思わず絶叫を上げて掴みかかろうとした。
が、マサツグのクソ野郎は何をしやがったのか、既にその場にいなかった!
いつの間にか教室の端の方で、俺を呆れた顔で見てやがったのだ。
「てめえ、いつの間に!」
「カスがやろうとすることなど、よく分かる。ふん、俺の近くにも同じような奴がいるものでな」
「卑怯者が、逃げんじゃねえええええええ‼」
「馬鹿の相手をしろというのか? それこそ馬鹿の妄言と言うものだ。無論、お前がその馬鹿の親玉だがな」
フッ、と嘲笑を漏らしてから、マサツグは教室を抜け出す。
と、その時、
キーンコーンカーンコーン。
授業開始のベルが鳴った。
「はーい、席についてくださいねー、授業ですよー」
「はあ⁉ 今はマサツグが⁉」
「あらあら、マサツグ君と喧嘩ですか?」
「ち! ふん、別に喧嘩でもなんでもないです。突然、マサツグの奴が教室を飛び出そうとしたんで注意しようとしただけですよ」
「まあ、まあ、困ったわねえ。ご家庭も大変みたいですしねえ。先生の言う事も全然聞いてくれませんし。さぼりもおおいですし」
「育ちが悪いと、やっぱりああなっちゃうんですね」
「ふふふ、だめですよ、そんなこと言っちゃ」
「「「ははは、本当にマサツグは困った奴だなあ」」」
周りから漏れた笑いに、おれはやっと留飲を下げる。
そして大人しく席につく。
だが、俺の内心は煮えたぎっていた
殺す。
いや、殺しちまったらさすがに俺も捕まるだろう。
だが、絶対に許す訳にはいかねえ。
なぜなら、クラスメイトどもの前で恥をかかされたんだからなあ。
この俺様が恥をかくなんてことがあっていいはずがねえ!
何よりも。
そう、何よりも、だ。
クラスメイトどもの目に、わずかなりとも、俺への侮りの目線が光ったことを、俺は見逃さなかった。
そう、マサツグは一方的に逃げただけだ。
だから、一見すれば、俺がアイツをいじめただけのように見える。
だが、マサツグ、奴の態度がいただけなかった。
一番最悪のことをやっていきやがったのだ!
それは、俺をコケにしたことでも、罵倒の言葉を吐いたことも出なかった。
それくらいのことで、この寛容たるミヤモト様は、このミヤモト・ライズ様が激高するはずがない!
奴が行った禁忌。
それは『俺のことなど歯牙にもかけていない』という事実を、公然とクラスメイト前で表明したことだ!
言葉にしたわけじゃない。
だが、伝わるッ……‼
いやがおうでも伝わってくるのだ。
奴にとって、俺などどうでもいい、と。
もっと言えば、取るに足らない者にすぎないのだと。
そんな心が透けて見えてくるのである。
奴の目は俺など見ていない。
奴が見ているのはもっと別のものだ。
それは仕方ないのかもしれない。
奴は落伍者だ。家は貧乏で、噂に聞いた話だと家庭環境も最悪らしい。
ならば、余裕がないのも分かる。
が、違う!
違う、違う、違う、違う、違ううううう!
あいつは余裕がないんじゃない!
本当に俺を歯牙にもかけていない!
興味すらないのだ!
何よりも、俺のことなど見向きすらしていない!
「……そんなことが許されるわけがない」
俺はこの世界を将来支配するもの。
そんな俺が、こんな扱いを受けていて良い訳がなかった。
「ゆるさねえ、ゆるさねえぞ、マサツグウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ‼」
俺は内心で絶叫を上げるのであった。
こうして、俺、ミヤモト・ライズとナオミ・マサツグの因縁は始まったのだ。
へっ、いつ思い出しても反吐が出る。
俺は殺意を抱きながら回想を終えようとした。
と、そんなときである!
「きゃああああああああああああああああああああああああああああああ‼」
人のいるはずのねえ悪魔の森に、女の悲鳴が届いたのだ‼
好評をいただいたおかげで、第2巻に続き、第3巻の発売も決定しました!
皆様のおかげです、ありがとうございます!
Web版、書籍版で大きくストーリーが異なりますので、どちらも楽しんで下さいね‼






