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【書籍化&コミカライズ】異世界で孤児院を開いたけど、なぜか誰一人巣立とうとしない件  作者: 初枝れんげ(『追放嬉しい』7巻3/12発売)


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91.邪神の言祝ぎ(ジャシン ノ  コトホギ)

・8月10日に第1巻発売!

・感謝の毎日連載中!(8/3-8/17)

・今回で第2部終了になります。

91.邪神の言祝ぎ(ジャシン ノ コトホギ)




 黒髪を長く伸ばした女が、鋭くとがった崖の上に座っていた。


 眼下には沼のような、闇の様な、よく見れば死霊が蠢く地獄の底のようなものが見える。


 そこをその女は悲し気に見ていた。


 禍々しくも神々しい笑みは、その女が邪神とかルイクイとか、世界を終わりに導くものとか言われるにはふさわしいものであった。


 神性と悪性の融合は、善性のそれの裏面。


 その邪神ルイクイは、善神オルティスとうり二つであった。


 と言っても、神に顔などあってないがごとく。


 言えるのは、その邪神が哀艶とした表情をしていたということ。


「うえええ、マサツグ様に振られちゃいました。せっかく虚無の世界を一緒に作ろうってお誘いしたのに……思い切って告白したのに」


 そう言って一粒涙をこぼした。


「よ、よ、よ」


 わざとらしいような気もするが、とりあえず泣いていたのは確かである。


 涙は崖の下へと落ちていく。


 と、それに触れた悪霊の塊が、たちまち具象しはじめた。


 体から幾つもの首を生やしたその竜は、谷底から飛び立っていく。


 それは現界に降り立ち、破壊の限りを尽くすつもりである。


 邪神の玄室の奥底より、邪神の一部により生み出された黒き竜だ。


 現れれば国一つを簡単に平らげてしまうだろう。


 が、


「こら、勝手をしてはいけません! 秩序ある破壊をしろといつも言っているでしょう!」


 そう言って、呪いの混じった言葉を八首の龍に放った。


 たちまち爆発四散して、周囲に臓物がまき散らされる。


 ただの呪詛によって、国一つ平らげる竜を屠った。


 が、ルイクイにとって、そんなことはどうでもよく……、


「きゃー! せっかく昨日、片付けたところなのにぃ⁉」


 邪神の間と言われ、恐れられる玄室に、その主神は絶叫を上げたのである。


 と、彼女の後ろにいた若い青年風の、ひどく疲れた表情をした青年がため息を吐く。


 臓物を谷底に投げ捨てながら。


「ルイクイ様、そろそろ加減を覚えてください。放散される魔力でまた周りの土地が損なわれてしまいます」


「あら、エイクラム、お久しぶり。でも、しょうがないじゃない……」


 はぁ、とルイクイはため息を吐いた。


「破壊こそが私の性質なのだし。というか仕事なのだし。それを否定することはこの邪神を否定することになるのよ?」


 くっふっふ、と暗い笑みを見せる。


 が、青年は肩をすくめて、


「秩序ある破壊、でしょうに。子供の遊びではないのですから、制御できない力を放逸させて周囲を腐らせてしまうのはいかがなものかと」


「うぐ、わ、分かっています」


 そう言ってルイクイはむくれる。


 理解しているからだ。そう、ルイクイとは神。


 神とは基本的に放逸的で散漫的で楽観的で無責任な存在だ。


 が、ルイクイは違った。


 破壊は創造の前段階。


 創造は管理の前段階。


 すなわち、ルイクイに始まり、オルティスが運営し、再びルイクイが終わらせる。


 要はサイクルである。ゆえに、ある時代によっては善神と言われたこともある。その時はオルティスが邪神だった。あの奔放な、野卑な女神にはちょうど良いと、委員長気質のルイクイなどは思う。


 破壊には労力が必要だ。やりたくてやるのではない。維持、管理のほうがよほど楽である。


 ゆえにルイクイの気質は、勤勉、秩序である。 


 一方の維持管理をしているオルティスは停滞や怠惰といった具合。


 世間では随分勘違いが進んでいることを、まじめなルイクイは嘆いている。



 自分はちょっと世界を終わらせるだけの存在で、それに一生懸命に取り組んでいるのだと言うのに。


「それよりもルイクイ様」


「何よ、エイクラム」


「さきほどおっしゃっていた告白とやらですが」


「うん、一世一代の告白よ……。マサツグ様ったら、照れていたのかしら。ミヤモト君っていうお友達に思いを託したんだけど、返り討ちにあっちゃった。振られちゃったのかしら……」


「いいえ、神よ。おそらく全然届いていないかと」


「え」


「はい」


「え?」


 エイクラムは咳払いをすると、


「どんなメッセージを託されたのか知りませんが、あのミヤモトという男はマサツグに襲い掛かり返り討ちにあっただけです。そこに何かメッセージがあったとは到底思えません」


「う、うそ。私、ちゃんと言ったのに……」


「はあ。一体、どうおっしゃられたのですか? はっきりと、お付き合いしたい、と伝えたのですか?」


 すると、ルイクイはボン! と顔を赤くして、


「はしたないわ! エイクラムったら、はしたない! そんなのはしたないじゃない。だから、少し古語だったかもしれないけど、神言で伝えたわ。一緒にお茶をしましょうね、って! 具体的には、▽■■■■■■—01948▽◇◆◆◆◆♡♡♡ってね♡ 連絡先だって伝えたんだから!」


「残念ながら神よ、現代の人間たちは神言をたしなみません。むしろ、呪術となって理性を消し飛ばしましょう」


「そ、そんな⁉」


 ガーンという表情に邪神はなった。


 が、すぐに顔を上げてまじめな表情になると、


「わかったわ! 今度は直接わたし自ら、告白しに行っちゃう! 世界を一緒に滅ぼして、新しい世界の萌芽をまきましょうって!」


 はぁ、とエイクラムはため息をつく。


「神よ。あなた様みずから世界に轍を刻めば、世界は終わるのではなく崩壊するでしょう。それは邪神の役割とは違っており」


「分かってるわよ! だから、分体! 分体を向かわせるわ。ええ、分け身ならば問題ないでしょう、エイクラム⁉」


 エイクラムの深いため息が玄室にこだました。


 何せ良いはずがない。


 神の降臨など神話の話だ。


 それは世界のシステムが安定していないからこそ成り立つ。要はこっそりバグを利用しているようなものである。


 が、


「それくらいでしたら、構わないと思いますよ」


「でしょ⁉ ん、ん、こほん。ではエイクラム準備をなさい。早速分け身の儀式を執り行いますから」


 エイクラムはニコニコとしながら、こっそりと、またしてもため息を吐いた。


 この生真面目な、しかし切れると何をしでかすか(それこそ自ら走ってマサツグとやらの元へ行ってしまうかもしれない)分からないからだ。


 ならば、分け身を向かわすくらいは構わないだろう。


「では、場所を変えましょう。というか、なんでこんな場所にいたのですか? ちゃんとイスとテーブルのある部屋にいらっしゃったほうがいいのでは?」


「だって、ミヤモト君が力が欲しいって言うから。あそこからじゃないと実界に力を行使できないのだし」


「ですが負けましたね」


「しょうがないわよね、マサツグ様がお強いのだし。ああ、本当に強いわ」


 あの頃と同じよ♡


 そう言ってルイクイは微笑んだ。


 そう言って彼女は分け身を行う。


 力もスケールも何もかもがちり芥の様な存在、しかし、もう一人の自分だ。


 彼女はそれによって世界を直接見る。


 だが、だというのにそれによって世界の崩壊は一気に1万年ほど早まった。


 秩序を愛する彼女は普段ならば絶対にしない野放図な破壊だ。


 だが、仕方なかった。


 恋は盲目なのだから。


ありがとうございました。次回から第3部になります。

しばらく2巻の作業に専念しますが、Web版はちょくちょく更新はしたいと思っています。

お楽しみに!

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