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90.マサツグ王の復興政策

・8月10日に第1巻発売!

・感謝の毎日連載中!(8/3-8/17)

90.マサツグ王の復興政策




「王よ! 街の復興に関してご相談したい件がございます」


「おい、お前、割り込むな! ちゃんと列に並べ!」


「列ってあの階段の下まで伸びてた行列のことか? ふざけるなよ! こっちは急ぎなんだ! 今回の被害で家を追い出された市民を収容する施設を至急確保しないといけないんだ。勅命案件だぞ!」


「馬鹿野郎! この行列の中に勅命案件以外で並んでるやつなんかいないよ! 税金、法制、医療、住宅、治安、治水、全部、緊急も緊急だ!」


「くっそー」


 一人の兵士がすぐに臨時の玉座の前を出て行った。


 目の前の執事が言うように、案件はすべて緊急であるから、まったくもって正しい。


 唯一間違いがあるとすれば、


「なぜ俺がまだ王などをしなくてはならん! いい加減、退位させんか‼」


 書類の山に決裁のサインを走らせながら叫ぶ。


 が、


「いけませんよ、マサツグ王。やり始めたことは最後までやり遂げ貰わねば。いえ、私としては退位などせず、このまま末永く、玉座を温めていただくのが最良のことと信じているのですが」


 ニコニコとした笑顔で男は言う。


 この男は初老で、いかにも執事といった風情の男だ。


 思わずセバスチャンと言いたくなる風貌と言えば分かるだろうか。まあ、そんな男だ。


 非常に優秀で、それがゆえに疎まれて閑職にあったところを、前任者が全王と一緒に退任したため、繰上がりで異動してきたのだ。


 優秀ではあるが、こいつのせいで俺はまんまとこうして王としての仕事を続けさせられているという点をかんがみれば、その才能が疎ましい。


「さあ坊ちゃん、仕事はまだまだございますよ。本日中に失われた兵士の補償金について方向性を決めませんと」


「誰が坊ちゃんか。俺は院長だ」


 そう言いながらも各種の政策について方向性を起案する。


 調整は部下どもがやる。方向性さえ決めてやれば、勝手に大臣たちがそれを行う。無論、難航する場合もあるが、その時は王権で決める。


 幸いながら元の世界の知識は、この中世と言える世界とは一線を画している。俺の政策は画期的なものとして受け入れら、即座に実施されていく。


 まあ、邪神たちから国防を成し遂げた王、というのが権威をもたらしているのだろう。今の俺の位置づけはまさに救世主である。


 一部の国民や部下からは、神格化されつつあり、吟遊詩人どもが1000くらい歌を作って練り歩いている。


 俺としては顔をしかめるばかりだが、勝手にやっていることに口をはさむことはできない。


 俺をたたえる歌を作ったら牢屋にぶち込むと言っても、恐らく奴らはそれを止めないだろうからな。


 周辺の国々からも、俺の武勇をたたえる祝いの言葉や、同盟強化といった胡散臭い話まで、様々な打診が来ている。


 外交部局はてんやわんやな様子であり、実はこの部局が一番を俺を退位させまいと粘っている。


 ワルムズ王国史上、これほど外交力が確保されたことはないそうだ。


 まあ、それはそうだろうが。


 たった一人の王が邪神の勢力を打ち負かすなど神話に等しい。


 まあ、俺だけの力ではないと言っているのだが、民衆は分かりやすい物語を好む。


 俺の名前が今後、歌や本として残っていくことは確実で、やはり俺は顔をしかめるしかない。


「幸いなことに顔までは知られていないのが救いか」


 そう、そのことだけが幸運だった。


 俺の顔を知っているのは城内のわずかな者たちだけで、一般の市民や外国の者たちは知らない。


 だから、俺が退位しても、いちおう日常の平穏は約束されているというわけだ。


「だが、そろそろ休憩するぞ」


「そうですな。働きづめです。どうでしょうか、セバス特製のアフタヌーンティーなどは?」


 魅力的な提案ではあるが、


「結構だ。行くところがあるのでな」


「ああ……なるほど、はいはい、分かりました。そうですな、お嬢様がたもおさみしく、ああ、いえ、お暇にしているでしょうからな」


 執事は微笑んで頷いた。


 俺は思わずため息をついてから玉座を立ち上がった。





「お帰りなさい、ご主人様!」


 はじけるような笑顔で尻尾を振って、俺の姿を見つけたリュシアが駆け寄って来た。


 お帰りなさい、と言っても、城の中の一室だがな。


「大人しくしていたか、お前たち?」


「はい、マサツグ様、それはもちろん。なんといっても元王女ですので」


 そうエリンが言う。


「わたしもいい子にしてたよ~。だからナデナデして~」


 シーがそう言っていつの間にか背中におぶさって来る。


 と、ラーラがクックックと笑い、


「お前たちはベターハーフになるという自覚が足らんのう。わしなんか、ほれ、マサツグ殿が公務で疲れて帰って来た時のために、食事を用意しちゃったりなんかしてるというのに!」


 そう言って、シチューを出して来る。


「げ」


 が、思わず俺の口から声が漏れる。


「って、マサツグ殿、本音が口から漏れすぎじゃのう」


 そう言ってラーラがやはり笑う。


 魔族の娘のくせにカラっとした少女である。


 俺が呻いたのには理由があり、実はラーラが料理が超絶下手である。


 なぜか妙な隠し味を一つ入れてしまうという悪癖があり、もうちょっとで美味いのに、絶妙に不味い、という不思議な料理を出して来るのだ。


 俺をしばらく機能停止に追い込んだことすらある。


「あのマサツグ様にダメージを与えるんだから」


「すごいわね、ラーラちゃん」


「うんうん、、そうじゃのう。じゃが、さすがのワシもちょっち傷ついてきた!」


 それなりに気にはしているようだ。


「あ、ですが、そこはご安心くださいませ、ご主人様」


 と、リュシアが口を開き、


「今回はこの血の盟約の第一等たるこのリュシア=オールドクラインが、監修をつとめさせて頂きました」


 なるほど、それなら安心だな。血の盟約とか何とか物騒な名称が、常識人であるリュシアから出たことが気にならないでもないが無視する。


「確かに小腹がすいたからな。頂くとしよう」


 俺は席に着くと早速スプーンですくい、口に運ぶ。


 そして、


「ぐっは!」


 そのままテーブルに突っ伏したのであった。





「申しわけありませんでした、ご主人様……」


 ベッドの横になった俺の隣で、椅子にすわったリュシアが、耳をうなだれさせて謝った。


「別にリュシアのせいではないが」


「いいえ、まさかラーラちゃんがスプーンに隠し味を塗布しているとは思いもよらず……。これでは監修責任者失格です!」


完全に暗殺の手法である。


「今度からは銀のサジを用意するとしようか」


「?」


 リュシアが首を傾げるが、俺は特に説明しない。


 それより、


「女神はもう出てきてないのか?」


「はい」


 リュシアがまじめな顔になってコクリと頷いた。


 そう善神オルティスはMIYAMOTOとの戦いの後、『ある言葉』を残してリュシアの体から姿を消した。


「オルティス様が顕現されている時は私の記憶が曖昧です。もっと、邪神のことを色々聞くことができればよかったのですが」


 気に病んだようにリュシアが言う。


 しかし、


「別に、そんなことはどうでもいい」


「え?」


リュシアが首を傾げた。


「別に邪神がどうであろうが、今後それによって何が起ころうが、院長の俺には関係がない話だ。院長である俺はお前たちを守るだけだ。リュシアの体に異常がないならそれでいいさ」


「ご、ご主人様ったら! わ、私のことを心配して」


 リュシアが耳をピコピコと動かす。


 いや、院長ならば当然の配慮だと思うが。


 と、急にピタリとリュシアの動きが止まる。


 そして、まじまじと俺の方を見てから、何やら慎重を期すようにゆっくりとしゃべり始めた。


「ご主人様、じつはほとんどの記憶は曖昧なのですが、ひとつだけ覚えていることがあるんです」


「へえ、そうなのか」


 なんだろうか。熾烈な戦いだったから、やはりその記憶だろうか。


「わ、わたしご主人様と結婚したんですよね⁉」


「ぶはっ」


 俺はまたしてもつっぷす。


「あ、あれはだな、MIYAMOTOを倒すためには仕方なかったというか」


「分かっています」


 と、リュシアは真摯な表情で、


「わたしごときがご主人様のお嫁さんにしていただけるはずありません……。あれは異常事態だったからこそ、わたしと結婚してくれたんですよね?」


「いや、うーん、別にお前がどうというわけではないのだが……」


「ほ、本当ですか⁉ で、でも!」


「あ、ああ……」


 今日のリュシアは饒舌だ。


 こんなに積極的に話すリュシアは珍しい。


 俺の言う事が耳に届いているのか怪しいくらいに。


「あの結婚は、あの時だけのもの。つまり、私たちはまた元の関係に戻っている、ということでしたよね?」


「ん? ああ、まあな。だが、すまなかった気もするな。成り行きとはいえ、俺と結婚したなどという事実が出来てしまったんだ。さぞかし嫌に」


「とんでもありません!」


 と、リュシアが俺の言葉を大声で遮った。これもまた珍しい事である。


「む、むしろ幸運、ああ、いえ、なんでもありません……。そ、それに成り行きではありませんよ、ご主人様。ああいうのはですね」


 と、耳をピコピコ、尻尾を振り振りしながらリュシアが言う。


「運命というのですよ」


 そう言ってほんのりと頬を染めた。


 そうなのか?


 成り行きとどう違うのか分からんが……。


 まあ、リュシアが許容してくれているというのならよしとするか。


「あ、ただですね」


 と、リュシアが言葉をつづける。


 やはり気にしていることがあるのだろう。


「わたし、バツイチになってしまいました」


「は?」


 俺は唖然とする。


 バツイチ?


「はい、そうです。神様と神様の戦い、そこに虚偽があってはいけませんから、あの結婚は本当のことになります」


「いや、そうなのか。仮初のことだったとか、なかったことにしておいても……」


「神前婚ですから」


「む、確かに」


 この世界をめぐる二人の神を前に結婚したのだ。


 つまりあれは、正真正銘、まごうことなき本当の意味での『神前婚』だったわけである。


 一人は邪神だったが……。


「だ、だからですね」


 と、リュシアがゴクリとのどを鳴らしながら、


「バツイチになってしまった私を、もらってくれるような方はいないと思うのです……」


「あ、ああ」


 そういう事情は異世界でも同じなのだろうか。


 いや、異世界でこそそういうのにうるさいのかもしれない。


 言われてみればそんな気がしてきた。


 もしや俺は大変なことをしてしまったのか……。


「つ、つまりですね、ご、ご主人様。責任をとっていただけるのは、この世界にもはやご主人様しかいません!」


「へ?」


「で、ですのでご主人様、リュシアはリュシアはもう一度ご主人様とっ……!」


リュシアが何かを言いかけた、その時だった。


「がさ入れよー!」


「抜け駆け禁止条約に著しく違反してますねー、リュシアちゃーん」


「はい連行、なのじゃ!」


 キャー、と言いながら、リュシアが連れ攫われてしまった。


「……なんだったんだ一体」


 よく分からない。


 が、よく分からないままにしておくとしよう。


 何かから助けられたような気もするしな。


 リュシアのことはどこかで真剣に考えるとしよう。


 それに他にも考えることがある。


「エイクラムの奴は最後まで姿を現さなかったな」


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