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89.家族

8月10日に第1巻発売! 感謝の毎日連載中!(8/3-8/17)

89.家族




「お前はなぜたった独りで戦っている?」


 その俺の問いに対して、ミヤモトは目を見開いた。


 気づいたようだな。


「なるほど、確かにお前は邪神の力を振るうことのできる強大な力を手に入れたのかもしれない。だがな」


 俺はそう言って背後を振り返る。


 そこには女神リュシアと精霊神のシーが両翼にふわりと浮かび、ハイエルフの王女たるエリンと魔王ラーラが両脇を固めるように控えていた。


 その視線の先には守るべき者、その刃の先には倒すべき者が明確に映る。


「分かるか、ミヤモト? お前はたった独りだ。守る者も守られる者もつくってはこなかった。そんな奴が俺に勝てると思うのか?」


「ほざけっ! 雑魚がいくら集まろうとも雑魚でしかっ……!」


 ミヤモトがそう言って両手を変化させて暗黒の剣を生み出す。触れた対象を蒸発させるほどの強大な魔力を感じる。


「くらええええええ!」


 ミヤモトが有無を言わさずに斬りかかる。


 が、


 ギィイィィィイイイイイイイインンンンン……。


「なっ⁉」


 ミヤモトの驚嘆の声が響いた。


 当然だろう。なぜなら、奴自慢の刃が俺の目の前に展開された光の壁に阻まれたのだから。


「言ったはずです。マサツグ様を傷つけさせはしないと!」


 エリンがそう宣言する。


 これは彼女が展開した魔法氷壁だ。


 だが、ミヤモトは腑に落ちないとばかりに声を上げる。


「たかがっ、たかが魔力の込められた、ちょっとばかり固いだけの氷に、大地を切り裂くとまで伝承される邪神の刃が受け止められたってのか⁉」


 まったく、何を言っているんだ?


「まさか何も見えていないのか?」


「なにっ⁉」


「魔法を展開しているのはエリンだ」


「そんなことは分かっている! たかだかハイエルフの小娘の魔法でっ」


「そして、その水魔力の供給源はシーだ」


「……は?」


 ミヤモトが怪訝な表情を浮かべる。


 訳が分からないと言った顔だ。


「そして、魔法自体には現在、神聖属性が付与されている」


「そ、それはもしかして!」


「無論、オルティス神の加護によるものだ」


 それによって邪神に対する最高の抵抗力を保持することになる。


 だが、何よりも、


「俺たちはルーナ孤児院に集った行き場のない者たちばかり。だが、だからこそ身を寄せ合って生きて来た。それは、見る者によっては家族そのものだ」


「家族、だと⁉」


 そうだ、と俺は頷く。


「家族を傷つけられるのを許す奴がいるわけがないだろう? お前はたった独りで戦っているが、俺たちは家族で戦っている。そんな誰も心配もしてくれないお前と言う男に、俺たちが負ける理由があると思うか?」


 そう、


「|たかだか、邪神ごときの加護がある程度で?《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》」


 その言葉にミヤモトが目を剥いた。


 そして、ぎりぎりと悔しそうに歯を食いしばる。


「認めねえ! 俺は貴様を! 貴様らを絶対に認めんぞ、マサツグぅぅぅううううううううううう‼」


 ミヤモトが力を最大解放する。


「ぐがあああああああああああああ‼」


 と、同時に辛うじて保っていた人の形すらも失われていく。


 背中からは褐色の7枚の左右非対称の翼が生える。口蓋は歪み、元の体の肉体を中側から別の肉……おぞましいほどの真っ黒な蠢く何かが食い破りながら、拡大、増殖していく。


 その体は一気に膨れ上がりビルほどの大きさになる。


「そこまで堕ちるか、ミヤモト……」


「ぐふふふふ、我が真の姿を見て驚いたか、マサツグ」


 ミヤモトが嗤った。


 だが、俺は憐れみの視線を向ける。


「馬鹿め、逆だ。今までお前はただの邪神の端末に過ぎなかった。だが、今やお前はただの怪物になり果てた。人間をやめてしまったんだぞ、ミヤモト」


 そう告げる。


 それはつまり、


「お前にはもはや、誰も同族はいない。誰もついてこない。誰とも契りを結べない。たった一人のモンスターになり果てたということだ。さっき言ったはずだぞ、一人で俺たち家族に勝てるわけがない、と」


「う、うるさい‼」


 突き出た牙を鳴らしながら、悪魔が咆哮する。だが、その叫びは断末魔のように俺の耳には聞こえた。


 悪魔ミヤモトは俺を薙ぎ払おうと、その巨体から溢れる魔力を集中させ、口から魔力の衝撃波を繰り出して来る。


 だが、


「哀れな奴だ」


 俺は悠々と片手を天に掲げる。


 それだけで、ミヤモトが全力を込めたはずの魔力衝撃が消失してしまった。


「馬鹿な! こんなでたらめが⁉」


「何がでたらめなものか」


 狼狽するミヤモトを鼻で嗤いながら、俺はため息を吐く。


「神域の戦いに、強大な魔力、国一つを消滅させる程度の力。たったそれっぽっちの攻撃がきくと思っているのか?」


「な……に……」


 呆然とするでかぶつを放っておいて、俺は言葉をつづける。


「たった独りで、邪神の走狗となったお前程度の魔人が、この善神と邪神の戦いに何か影響を与えられると思っていたか!」


「ならば!」


 ミヤモトが悲鳴を上げるように口を開く。


「ならば、なぜお前はそれほど強い! 俺は邪神の力を行使している! 人間すらやめた! なのに、なぜだ! なぜなのだ!」


「馬鹿が」


 俺は淡々と告げる。


「俺の力が『守る』だからに決まっているだろう?」


「え?」


 ミヤモトのポカンとした声が響いた。


 俺は手に魔力を込め始める。


 それは俺だけの力ではない。


 女神リュシア、エリン、シー、ラーラ、彼女たちの力、孤児院に集った縁のある者たちの力が集合した奇跡の顕現であった。


「守る者がいなければ力に何の意味もない。お前はなぜその力を振るう?」


「そっ、それは!」


「何もなかろう? 理由のない力に何ができる?」


 俺はそう告げながら、掲げた腕を振り下ろす。


「ならば、お前の力の理由はなんだ! なんなのだ!」


「決まっている!」


 俺は即答する。


「孤児院の家族を守る! それだけが俺の力の理由だ!」


 そう、それだけだ。


 俺の力はそれ以外の時に発揮されたことはない。


 だが、もしも家族を守る必要があるのならば、世界を一匹で平らげてしまう目の前の魔人ですら、屠ってみせよう。


 腕から放たれた魔力は最初、ごくごく小さなものであった。


 が、その輝きは徐々に広がり始め、辺り一面を金色に満たす。


「ぐ、ぐわああああああああああああ! 体が! ルイクイ様にいただいた俺の魔人としての完璧な身体がああああああああああああああ‼」


「最後まで目が覚めなかったか。悲しい奴だな」


 光の中消滅していく悪魔MIYAMOTOを見ながら、俺は少し寂し気に呟いたのであった。


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