88.女神との共闘
8月10日に第1巻発売! 感謝の毎日連載中!(8/3-8/17)
88.女神との共闘
「なんと破廉恥! なのじゃ!」
「きゃー! リュシアちゃんったら大胆ね~!」
「わ、私もいつかマサツグ様と……ドキドキ」
少女たちの嬌声が上がる。
いちおう目の前には邪神の端末体がいるという、いわゆる絶体絶命の状況なのだがな……。
と、俺が呆れていた所に、
「こんな時までお前はぁぁぁああああああああああああ‼」
邪神MIYAMOTOが襲い掛かって来る。
ちっ、いきなり激高してどういう訳だ?
「なんだ、ボスらしく高みの見物かと思えば、とたんに余裕をなくして襲い掛かって来るとは。情緒不安定か?」
未熟な精神までは邪神の係累となっても変わらないのか。
俺が鼻で嗤うと、
「そうするつもりだった! だが、やはりお前だけは許せねえ! なんでお前ばかりが愛される! そうなるのは俺だったはずなのに!」
愛される?
「一体何を言っている?」
「てめえ、とぼけてんじゃっ……!」
「そうです、何をおっしゃっているのですか」
「ぐわっ⁉」
俺に攻撃を一方的に仕掛けて来たMIYAMOTOの横面を、どこからか取り出した刀の柄で殴り飛ばした。
それをやったのは、
「オルティスか」
「え、ええ、マサツグ。よく分かりましたね」
「まあ、何となくな」
そう言うと、オルティスがなぜかむくれたような表情になる。
「どうした?」
「なんでもありません」
「そうは見えないが……」
「それよりも、マサツグ」
女神リュシア、オルティス端末体リュシア、なんでもいいが、その少女は目線で敵の存在を告げる。
「私……いえ、リュシアさんとのキスによって、ラインはつながりました。結婚の契りとしては申し分ないもの。わたしが本当はしたかったのですが…………、それは過ぎてしまったこととして置いておきましょう。ええ、順番が近づいたと考えれば留飲も下がると言うものですから」
何を言っているんだ?
「それにしてもまさか私の意識を抑え込むとは……。一瞬のこととはいえ、さすが最古の王冠の名をいただく一族の末裔といったところでしょうか」
俺が怪訝な表情を浮かべていると、女神はため息を吐くようにして、
「何でもありません。さあ、それよりもマサツグ。今のあなたなら、邪神MIYAMOTOにも抵抗できるはずですよ?」
女神は言った。
その通り。
その証拠に先ほどの邪神MIYAMOTOの本気の攻撃を、俺はしのいでいた。
先ほどまでの俺ならば、つまり、人間としての基底ならば到底しのぐことが不可能であったはずの攻撃をしのぐことが出来た。
このことは俺が一時的ではあるにせよ、女神の眷属として世界に認知されたことを意味する。
「とうとうマサツグ様は神様になられたんですね!」
「やれやれ、そんな大したものじゃない。少しばかり本気になったというだけだ」
「それでもすごいのじゃ! あとリュシアがうらやまなのじゃ!」
少女たちがはしゃぐ。
「ですが、マサツグ」
女神が口を開く。
「相手は邪神の本当の意味での端末体。一方のわたしは月を一時的に投影することによって生じた幻影のようなもの。仮初の存在としてここに現界しているに過ぎないシャドウ。その私と契りを結べたとしても、それは少しばかり人の器を出たと言うだけのこと。溢れたみうを少しばかり使えるようになったというだけの話。ですから」
女神はそう言うと、ふわりと浮き上がり、カタナをするりと持ち上げる。
「この私と共闘といきましょう。それでも勝てるかどうか微妙なところかとは思いますが……」
少々口淀んでから、
「愛が……ええ、愛があれば乗り越えられない障害はありません。さあ、参りましょう!」
そう言って最後は早口に言い捨てるようにして突撃しだす。
「こら、いきなり突撃するな!」
俺も慌てて追いかけた。
と、MIYAMOTOが哄笑する。
「ぐはははっははは! その女神、いや、女神の残滓が言う通りだ! 所詮はルナ・ドロップによって一時的に表れた影でしかない! そんな奴らがいくら集まったところで、この俺に勝てる訳がなかろうがああああああああああああ‼」
絶叫して相手もこちらへ突撃して来た。
早い!
「左陣絶対防御!」
女神リュシアは叫びとともに、カタナをひるがえす。
ベキィ!
信じられないことにカタナが一瞬にしてMIYAMOTOの拳に手折られて消失する。
「はっははっははははっはは! ぎちぎちぎちぎち!」
MIYAMOTOは不快な笑い声を立てながら、防御のなくなった左側面を再度襲おうとする。
が、
「左陣絶対防御!」
失われたはずのカタナが再度現界し、今度こそMIYAMOTOの拳を止めた。
「どうした! どうした! 俺の攻撃を防ぐだけで精一杯かぁ!」
その通り。
防ぐだけでは勝負にもならない。MIAYMOTOが嗤うのも無理はない。
まあ、それも、
「おい、MIYAMOTO、ところでお前の額にあった角はどこに行った?」
「ぎちぎちぎちち……は?」
「その足元にあるのがそうじゃないのか?」
「……は?」
MIYAMOTOの笑いが止まる、そして、
「ん、んん、んんんんんんぎいいいぁいいあああああああああああ⁉」
絶叫がこだました。
「なぜだ⁉ いつの間に! 誰だ⁉ 誰が俺の大事な角に傷をつけやがった! 邪神の眷属たる証を折りやがったああああああああ⁉」
一体、何を言っている?
「俺に決まっているだろう?」
「ありえない!」
再度首を激しく振る。
その拍子に、忘れていたかのように額からどろりとした黒い血が流れだし、氷の大地へとしたたり落ちた。
「俺は端末体! いわば邪神の分体そのもの! その権能、その機能! 影響力も神そのもののはず!」
一方で! と続けた。
「貴様らなど紛い物でしかないはずだ! 女神などと名乗るのもおこがましい! いわば燃えカス! ルナ・ドロップという偽物がもたらしたフェイクと言って差し支えない型落ちのはずだ! なのに、なのになのになのに!」
なぜ、俺に傷をつけることが出来る! と叫んだ。
「上位神たるこの俺には傷すらつけることは出来ないはず! そうでなければ理屈が合わない! ルイクイ様は確かにそうおっしゃったはずなのに!」
が、俺は逆にMIYAMOTO……いや、ミヤモトの言っていることが逆に不思議だと首を傾げる。
「お前は本当に馬鹿だったんだな、ミヤモト……」
憐れむように言った。
「何だと⁉ 何が馬鹿なものか! 最強の俺が貴様らごときに負ける道理がどこにあると……」
「自分で言っているではないか、馬鹿めが」
「なん……だと……」
ミヤモトは息をのむ。
「貴様ら、と、お前は今自分で言ったではないか。お前は今、誰と戦っている? そして何より」
俺は奴の目を見て、
「お前はなぜたった独りで戦っている?」
そう告げたのである。






