86.善神の端末体
8月10日に第1巻発売! 感謝の毎日連載中!(8/3-8/17)
86.善神の端末体
「ならば、望むところだ。邪神として、善神と決着と行こうじゃねえか。さあ、オルティスよ、姿を見せろ!」
「いや、それは無理だ」
「は?」
MIYAMOTOが唖然とした様子で言った。
「その月はあくまでフェアリー族が1万年と言う年月、月の魔力を溜めて作った模造の月だ。いわば、フェイク。その程度の代物で善神が復活すれば世話はない」
「ならば、お前はただの異世界から迷い込んだ異邦人にすぎない雑魚ということだな、ナオミ・マサツグ‼」
邪神MIAYMOTOが突如、襲い掛かって来た。
手から伸びた魔力放出を固形化した深紅のブレードで切りかかって来る。
俺はその攻撃を紙一重でかわす。
が、
「ッ⁉」
俺の頬に薄っすらと血がにじんだ。
「これが邪神の魔力の力というわけか」
「くくく、驚いたようだな」
「マサツグ殿⁉」
「マサツグ様!」
「マサツグさん⁉」
ラーラとエリン、シーが驚きの声を上げた。
さもありなん。なぜなら、
「この世界で初めての負傷だ」
今の今まで俺に傷をつけた奴はいなかったのだから。
「ならば、これが二度目の傷となれ! だが三度目はないと知れええええええええ‼」
MIYAMOTOが再び斬りかかって来る。
先ほどよりも強大な魔力。
いや、邪悪なる力のこもった通常の魔力とは乖離したそれは、もはや瘴気そのものを具現化した悪夢そのものと言って良かろう。
先ほどは躱したが、今度のそれは躱したとしても瘴気に振れればただでは済まないことが直感的に分かった。
「死ねえええええええええええええええええ‼」
MIYAMOTOの一撃が俺の正面を捉える!
そして、
ガギギギイギギギイイィィイィィィイッィンンィンイン……。
まるで刃物どうしをこすり合わせたような不快な音が鳴り響いた。
原因の一つは目の前にあるMIYAMOTOのブレード。そして、もう一つは、
「間に合いましたね、マサツグ」
そう言って、俺の前に虹色の障壁を繰り広げる存在。
リュシア、いや……。
その姿はいつもの彼女ではなかった。
地面に着くまで伸びた栗色の髪は黄金に輝き、全身より光輝なオーラが立ち上っている。深紅の瞳は透き通るような紺碧へと変わっていた。
「お前は⁉」
MIYAMOTOの叫びがこだました。
リュシアはいつもと違う雰囲気で薄っすらと笑いながら、
「私が分かりませんか? ルイクイ? いえ、その端末体よ。ならば、蒙昧のうちに疾く散り去るがよいでしょう」
そう言って、障壁の圧を強める。
「ぐあっ⁉」
悲鳴を上げてMIYAMOTOが吹きとばされた。
MIYAMOTOは焦った様子でこちらを睨み付けながら、
「なぜだ!」
と叫ぶ。
「なぜだ、なぜだ、なぜだ! なぜ、その娘に憑依できる! 端末体とは言え、神が宿る依り代は選ばれたモノでなければならない! この俺は異世界からの召喚で呼ばれた異物! そして、優れたステータスがあったからこそ依り代の適格者となった! だが、そんな小娘が、孤児のガキごときになぜ憑依できる!」
俺のような選ばれたモノでもないくせに!
「なぜだ、善神オルティスよ!」
そう言ってMIYAMOTOは叫んだ。
が、その言葉にリュシア……いや、善神オルティス端末体はクスリと笑い、
「なぜもなにも、この子が正当なる王家の後継だからに決まっています」
「は?」
MIYAMOTOは聞き取れなかったのか唖然とした声を上げ、
「オールドクライン、だと?」
と呟く。
俺はハタと手を打ち、
「そうか、お前はリュシアの正当な姓を知らなかったのか」
「なんだと?」
MIYAMOTOが怪訝そうな顔をする。
「リュシア・オールドクライン」
「なに?」
「オールドクライン、だ。神話にも名が残る古き血筋。そして、神話ではオールドクライン家は獣人たちの王だった」
「王だと⁉」
俺は頷き、
「そうだ。すなわち、獣人族の元王家の正当なる後継者。まつろわぬ神々であるお前たちとは真逆の存在と言って良かろう」
ゆえに資格がある。
善なる神の端末となり、邪神をうちくだく矛になるだけの資格が。
「なん……だと……。そのガキが、世が世ならお姫さまだったってわけかよ! はっ、とんだ冗談だ!」
俺もその点だけは同意だがな。
「まったくだ、俺にとっては孤児院の家族にすぎない。ただのリュシアだというのに」
ゆえに許すことは出来ない。
「貴様のくだらない企みのせいで。そして、オールドクラインなどという御大層な血筋のせいで、ただのリュシアがこんな戦いに身を投じなければならない。俺にはそれが許せない」
俺はそう言ってMIYAMOTOをにらむ。
「ならばどうする!」
MIYAMOTOの言葉に俺は、
「どうもしないさ。単に、お前を倒し、日常を取り戻すだけだ」
そう言って鼻を鳴らす。
「ぬかせ! その傲慢! その不遜こそ打ち砕いてやる!」
邪神MIYAMOTOが襲い掛かって来る。
「マサツグ! ここは私が!」
女神リュシアが前に出ようとした。
だが、俺は首を横に振り、
「下がっていろ。奴の相手は俺がする」
「で、ですがっ」
「女子供を戦わせるわけには行かん。何せ俺は孤児院長だからな」
俺はそう言って一歩前に出た。
と、リュシアが、
「ま、まあ! そ、それは私のことが好きということですか⁉」
「……はい?」
ドゴォ!
「ぐわあああああああああああっ」
「き、きゃあ! マ、マサツグ⁉」
吹き飛ぶ俺にリュシアの悲鳴が上がった。
ダメージ自体は大したことはない。何やら聞き間違いをしたらしく、そのせいで防御が一瞬緩んだだけだ。
「だ、大丈夫でしたか? そ、それよりも私のことを愛しているというのは本当なのですか?」
「聞き間違いではなかった……」
淡い期待だった。
「どこをどう聞いたらそのような解釈に至った? それとも神にはやはり言葉は通じないということか?」
「で、ですが私を守るとおっしゃっていましたし。それに、責任を果たすとまでおっしゃってくれましたし……」
「確かにそれは言ったが……」
「で、でしょうッ?」
女神リュシアは頬を赤く染めながら、
「な、ならやはり結婚するしかありませんね。わ、わたし300億歳で行き遅れだとずっと気にしておりましたが、やっと婚期をつかむことが出来ました! お嫁さんになれるんですね!」
「なんでそうなる! というか、なんで俺なんだ⁉」
「えっ? ああ、そうでした、だって私とマサツグは……」
が、
「戦闘中によそ見とはなめられたものだな!」
MIYAMOTOが追撃をかけてくる。
さすがに冗談を言っている場合ではない。
「その話は後だ! 今は邪神MIYAMOTOを倒すことに集中しろ!」
「は、はい! 後で日取りを二人で決めましょうね!」
「くそ! 女神というのはとんだアーパーだな!」
悪態が無意識に口をつく。
「えー、マサツグさん、私は違うからね~」
シーの抗議の声が聞こえた。
だが、今はそれに関わっている暇はない。
「「はあああああああああああああああああああああああああ」」
バチバチバチ!
空間を震撼させるがごとき俺と奴の拳撃が交錯した。






