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82.星の力の顕現 前編

8月10日に第1巻発売! 感謝の毎日連載中!(8/3-8/17)

82.星の力の顕現 前編





「準備はいいか、お前たち?」


「はい!」


「いつでも良いのじゃ!」


 リュシアとラーラが元気よく返事をする。


 萎縮している貴族たちよりよほど頼りになりそうだ。


「エリン、シーもご苦労だったな。お前たちは休んでいても……」


「いいえ、マサツグ様、わたしたちもお供いたします! 氷は、あとは維持するだけですのでこれまでの様に特別集中が必要と言うわけではありませんし」


「そうよ~。ここまで来たら一連托生だしね~」


 二人とも疲労困憊だろうに、付いてくると言う。


 国土全体を透明な氷で覆い、100万のドラゴンたちの急襲から守った少女たち……聖女たちは既に十分な役割を果たしている。


 本来ならば休んでもらって良いのだが、


「それに、マサツグ様の近くが一番安全なのは間違いありませんよね?」


「まあ、それはそうなんだがな」


 それを言われるとぐうの音もない。


 確かに玉座にいれば、むしろ役立たずの、特に反マサツグ派という口だけの貴族どものお守りをする羽目になりそうな予感がプンプンする。


 それは本末転倒だ。


 ならば、まだ俺の近くにいたほうが良い。


 それが例え、俺ですら計り知れない力を持った敵相手であったとしても。


 かつての級友を相手にするとしても、だ。


「よし、では行くぞ!」


 俺の声とともに、


「分かりました! それでは天の階への扉を開きます!」


 そう言ってエリンが呪文を展開する。


 すると、俺の座る玉座の後ろの壁が消滅し、代わりに天空へと伸びる階段が現れる。


「な⁉」


「そ、そんな場所に階段が⁉」


「ま、まさか⁉」


 俺は貴族たちの言葉に頷きながら、


「天上に最も近い場所に新たな玉座の間を作らせたのはこういう訳だ。最後はイージスの氷土の上で決着をつけることになると分かっていたからな」


 俺はそう言って踵を返す。


 そして、天のきざはしを少女たちとともに登って行ったのであった。





「くっくっくっ、やっと来たか、マサツグ……。待ちくたびれた」


 氷の大地イージスの上で、ドラゴンにまたがった男が俺たちを単騎で待ち構えていた。


 そのいでたちはドラゴンライダー。


 その漆黒のドラゴンは、そこらに激突して氷漬けになっている他のものたちはとは違い、むしろ小柄だ。


 が、そこに内在する魔力は比べようもない。


 その強大な魔力の収縮率を高めるために、その身を本来の大きさから圧縮しているのだと分かった。


 そして、その最強のドラゴンの上にまたがっているのは、体中に幾筋もの光の筋を不気味にたたえ、禍々しいほど深紅なる剣をたずさえるのはその操縦者である。


 わざわざ誰か言うまでもない。


「ミヤモトか。かつての異世界の勇者が変わり果てた姿になったものだ。ふん、まあ、操られているだけか」


 俺はつまらなさげに言う。


 と、ミヤモトが途端にどす黒い炎を剣からこちらに放って来た。


 無論、その程度の炎などいなすことはたやすい。


 俺が動く前にリュシアが手の平を前に構えた。


 それだけで炎は防がれる。


「何か気にでもさわったか?」


 俺の言葉にミヤモトが憎々し気な口調で、


「それだ! それだ!」


 そう叫んだ。


「? 一体なにを言っている? 操られて普通の会話もままならないか?」


「馬鹿が! 俺は正気だと言っている!」


 ミヤモトが再度炎を放つ。


 氷の盾がたちまち俺の目の前に展開されて、炎が氷りついた。


 エリンの魔法だ。イージスを作り上げた魔力は相性など関係なく万物を永久に凍らせる。


 それよりも気になることを言ったな。


「正気、だと?」


「ああ、そうだ!」


 ミヤモトが言った。


「俺は、俺の意志でお前と戦う! 俺はお前を絶対に許さねえ!」


 ふむ……。


「許さない、とはどういう訳だ? 俺がお前に何かしたか?」


「とぼけるんじゃない!」


 ミヤモトが叫ぶ。


「俺を後方に下げるなんて嫌がらせをしやがって! 俺の活躍の場を奪いやがって!」


 そう言って、次々に火炎弾を浴びせかけてくる。


 それをいなしながら俺は淡々と、


「言いかがりだな。適材適所と言う言葉がある。単にお前が回復役としての適性があったというだけだろう。わざわざ前衛に出すような采配を王たる俺がくだすわけにはいかん」


 当然のことだ。


「それがおかしいだろうが! なんでお前が命令する! なぜお前の命令にこの俺ともあろう者が従わなけりゃならない!」


「それは俺が王なのだから当然……」


 が、ミヤモトはその言葉を遮り、


「王になるのは俺だったはずだ!」


 ……なんだと?


「何を言っている?」


「うるせえ! てめえのせいで俺の計画はメチャクチャだ! まずは勇者として魔王国からこの国を守って立身出世する。そして、王女を妻にもらったら、後は勇者としての力をバックにこの国の王になる予定だったんだ! それをてめえはむちゃくちゃにした!」


 俺は若干、いや、本気で驚きながら、


「それほど王位などというものが欲しかったのか?」


 そう無意識に呟いた。


 それはある意味、この世界に来て、初めて感じた本気の驚きであった。


 俺はこいつを単なる馬鹿か、はたまた誇大妄想の過ぎるガキだとしか思っていなかった。ただの目立ちたがり屋の若造だと。


だが、そうではなかった。


 こいつは俺の予想をはるかに超えて来たのだ。


 上長ゆえの誇大妄想だが、それだけではない。


 だれが異世界に来て、王位を奪ってやろうなどと計画するだろうか?


 度し難い馬鹿さ加減である。だが、それは一歩間違えれば英雄だ。


 魔王国から国を守り、その実力と民意によって王位を得ることに悪い理由など何もないのだから。


「ならば、そうすればいいだろう?」


 俺はやはり淡々と言う。


「何だと?」


 ミヤモトが怪訝な表情を浮かべた。


「この戦いが終われば、俺は王位を返上する。好きなものがまたくだらん政ごっこに明け暮れればいい。お前が欲しいのならばくれてやる。せいぜい善政を敷く事だな」


「ふざけるな!」


俺の提案にミヤモトは首を振る。


「貴様に譲られる王位に何の意味がある! おれは自分の実力で王位を得る! お前から譲られる王位などいらん!」


「ならばどうするんというんだ?」


 俺は呆れた調子で言う。


 ミヤモトは口の端を釣り上げ、


「無論、お前から王位を奪う(・・)。そして、ワルムズ王国の王に俺はなる! そのためには……」


 漆黒のドラゴンが高度を上げて行く。


 そして、光の早さと同等の速度で突っ込んできた。


「ちっ」


 俺はリュシアを抱えて跳び退る。


 その場所をドラゴンが通過する。そのまとった熱量だけで周囲の氷が溶け始めた。


 追撃しようにも、一瞬にしてはるか上空数万メートルへと飛翔したドラゴンを捕えることは出来ない。


「はっ、ははははっは! どうだ、どうだマサツグ! 地を這う虫のお前たちでは俺を捕えることはできない! いくら強くても捕えられない相手を倒すことは出来ないはずだ! そのまま虫のように這いつくばったまま死ぬがいい‼」

 

 死ねええええええええええええええ‼


 怨嗟の声とともに、漆黒のドラゴンが通過する。


 怨念と収縮したどす黒い魔力が光の速度を保ったまま命を狙撃して来る。


 かわすことは可能だ。


 だが、かわした後にはすぐに上空へと飛び上がってしまっている。


 奴の言う通り、地を這う虫には空を舞う蝶を捕えることは出来ない。


「どうだ! マサツグ! 空を飛べる俺に勝つことはお前では絶対に出来ない!」


 そんなミヤモトの叫びが天空から降って来た。


 その言葉に俺は、


「ふっ」


 思わず笑みを漏らす。


 どういう理屈か、俺が嗤ったことが奴には分かったらしい。


「何がおかしい! もうすぐ死ぬことが恐ろしくなったか!」


 俺は更に笑みを深めながら、


「ルナ・フェアリーの指輪だ」


 俺は右手の人差し指にはめた指輪を掲げる。


 それはオリジナルの妖精の雫をはめ込んだ指輪であった。


かつて、妖精の女王パルメラは言った。


『我々妖精族は月の力を借りて生きる一族ですが、そんな私たちが数万年をかけて体内で生成、凝縮を繰り返して作り出すのが、妖精の雫なのです。すなわち、妖精の雫とは、月の魔力の結晶体(ルナ・ドロップ)です』と。


 すなわち、


「ルナ・ドロップとは星の力そのものを封じ込めた秘石であり、その力の解放とは星そのものを顕現させることと同じことだ!」


 俺は指輪に魔力を集中させる。


 パルメラより教わった方法により、ルナドロップの力を解放するためだ。


「馬鹿な、こんなことが⁉」


「ご、ご主人様! あれはなんですか⁉」


「ま、まさかあれは⁉ なのじゃ!」


 ミヤモトだけでなく、リュシアとラーラが同じく驚きの声を上げた。


 仕方ないだろう。


 誰だって驚くはずだ。なぜなら、


「マサツグ様、星が……星が……」


「天空に、こんな近くに……月が……」


 そう、ミヤモトの背後には、先ほどまでなかったはずの(ルナ)が一つ、浮かんでいたのだから。



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