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81.水明なるイージス

8月10日に第1巻発売! 感謝の毎日連載中!(8/3-8/17)

81.水明なるイージス


 その日、ワルムズ王国の国民は空を見上げたまず絶望した。


 なぜなら、上空にいつの間にか無数のドラゴンやワイバーンなど、大型の飛行モンスターが現れたからだ。


 それは数えきれないほどの数を誇り、空を覆いつくして太陽の光さえも閉ざしてしまった。


 雲霞の如く湧き出る冗談のような光景に、人々はついに終末が来たと悟ったのである。


 まもなく、大挙して上空の絶望が急降下を始めた。


 どこかに逃げようとするが、一体どこに逃げればよいのか?


 誰も口を開こうとしなかった。


 なぜなら、空一面を、向こうの空も、こちらの空も、モンスターたちに占められているのだ。


 その空襲から逃れることはもはや不可能。


 国民は絶望が帳を下ろそうとするのを大人しく見守るしかなかったのである。


 が、


 ベギィ!


 ドゴォ!


 グッシャアアアアアン‼


「……へ?」


「あ、あれ?」


「無事、だぞ。でも、なんでだ……って、うわあああぁぁぁああああ⁉」


 ワルムズは自分たちが無事なことに対する疑問の声と、そして、悲鳴に彩られた。


 だが、その悲鳴は痛みや死の恐怖に対する声ではなく、


「な、なんで……」


「どうして……」


「空が一瞬で真っ赤になったぞ⁉」


「い、いや、これは……ドラゴンどもの血か!」


 余りに意外な光景が目の前……いや、天空で繰り広げられていたからに他ならなかった。


 血まみれのドラゴンたちは再度飛び上がろうする。


 が、その羽で舞い上がる前に、氷上の冷気がドラゴンたちを包み込み、氷漬けにしてゆくのであった。


「い、一体何が起こったってんだ……」


 ワルムズの国民たちは一様に驚愕する。


 それが新しき王の行った奇跡だと知るのはもっと後のことである。


 ともかく、この水明のイージス作戦によって、敵の切り札は完全に封印された。


 敵の空軍戦力はこれによって99%が死滅したのである。





「す、すごい……」


「こ、これがマサツグ王の御業……」


 さすがの反マサツグ派の貴族たちからも、思わず称賛の声が漏れている。


 が、俺はそんな光景を面白くもなく見下ろす。


「やれやれ。平和な奴らだ」


 俺は呆れた様に肩をすくめるだけだ。


「で、ですが、これで敵の戦力の99%は撃滅できました!」


「その通りですぞ! 鳥が壁に激突すれば死ぬのと同じです。ドラゴンとて同じこと、全力下降してきた先に思わぬ壁があったのです! 首の骨を折ってほとんどが致命的なダメージを負いました! そして、動けなくなったドラゴンどもは氷上で次々に氷漬けになっていっております。我々の勝利はゆるぎなくなったかと!」


「そんなことは分かっている」


 が、俺は淡々と告げる。


「そもそも、それを狙って透明の氷で壁を作ったのだ。敵にも味方にも見えないように。敵が下降する時に激突し、二度と空へと舞い戻れない様にな」


「お、おお……」


「では、最初からここまでを読んでいて……」


「最初からそう言っている」


 そもそも、


「新しい玉座の前を最も最上階に作れと命令したのも、より空という主戦場に近いからだしな」


「すごい……」


「まさか、そこまでとは……」


 どうやら俺の作戦がうまく行きすぎて言葉がないようだな。


 が、はっきり言ってやろう。


「お前たち、ここまでは前座だぞ?」


「は?」


「え?」


 ポカンとした表情をさらす。


 やはり理解していなかったか。


「言っただろう? 主戦場に近い、と」


「は、はあ。そ、それは今のドラゴンたちの急襲をしのいだから終わったのでは?」


 ふっ、と俺は嗤う。


「何を言う。今からが本当の闘いだ。リュシアとラーラの装備を整えているのも、俺が立ち上がったのも、天空のきざはしを登り、イージスの上で敵の首魁と戦うために他ならない」


「敵の首魁⁉」


「そ、それは一体⁉」


 貴族たちが驚きの声を上げる。


 戦いの趨勢が既に決まったものと油断していたのだろうか。


そんな楽な戦いであれば、俺はとうに王位を譲っている。


「お前たちは感じないか? 確かに雑魚どもはほぼ一掃された。後は各地にいる兵士たちでも十分に対応可能だろう。だが、敵のボスは健在……。ん? これは……」


 俺は口ごもる。


「ど、どうされたので?」


 メジャ辺境伯が心配そうな声で言った。


 ここまですべて俺の計算通りであったから、今のように俺が口ごもったりしたのが初めてだったからだろう。


 なるほど、王位というのは面倒なものだ。


 その表情一つで貴族どもの動向が左右し、国の命運を決してしまう。


 俺の様な自由人には似合わない仕事だ。


 そんなことを思いながら口を開く。


「健在だったボスだが、今、そのボスの力が格段に上昇した。1000倍……いや、100万倍はアップした」


「ひゃ、百万⁉」


「は、ははっはは! まさか、まさかマサツグ王! 冗談が過ぎますぞ!」


 貴族たちが驚愕、ないしは信じられないとばかりに笑い飛ばそうとする。


 が、


「馬鹿が! 戦争の窮境でつまらない冗談を王である俺がうそぶくと思うか‼ わきまえよ!」


「ひ、ひい⁉」


「お、お許しください、王よ⁉」


 俺の叱責の声が玉座の間に響く。


 マサツグ派、反マサツグ派の貴族たち双方が震えあがる。


 やれやれ、そんな下らないやりとりこそ今は不要だ。


 俺は大人げなかった反省しながら、口調を元の調子に戻しながら、


「すまなかったな。俺も気が立っていたようだ。許せ」


「い、いえ……」


「国の趨勢を占う、重要な戦いの渦中にあるのです。マサツグ王の鬼気は当然のことです! しかし、マサツグ王にそこまでの感情を抱かせる存在とは一体……」


 俺は頷く。


 そして、


「お前たちのよく知る人物。それが敵に手を貸した。恐らくエイクラム……いや、邪神の力によって操られ、本来俺たちのために振るう勇者としての力を悪用されているんだろう」


「ゆ、勇者ですと⁉」


「そ、それでは、その人物というのは⁉」


 ああ、と俺は頷き、


「ミヤモト、いや、今はMIYAMOTOと言うべきか。異世界より召喚され、今や邪神の手に落ちた魔人MIYAMOTOだ」



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