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【書籍化&コミカライズ】異世界で孤児院を開いたけど、なぜか誰一人巣立とうとしない件  作者: 初枝れんげ(『追放嬉しい』7巻3/12発売)


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76.MIYAMOTO into the DARK Sider

・8/10 第1巻発売です。

・その本の口絵を来週活動報告で先行掲載しますのでお楽しみに!

・発売日の1週間前後(8/3-8/17)は、第1巻発売記念に、毎日連載を開始します。そちらもぜひお楽しみに!

76.MIYAMOTO into the DARK Sider



「くそ! くそ! なんであいつらマサツグに謝りたいだなんてッ……」


 男は独り城の裏手で毒づく。


 この世界に来てから最初の方はうまくいっていた。


 聖剣の担い手という固有のスキルを得て、王から特に目をかけられた。


 贅沢もし放題。


 まさに我が世の春を謳歌していたのだ。


 それがおかしくなったのは、あのマサツグと街中で出会ってから。


 与えられたはずの聖剣の担い手が実は自分ではなかったことが判明してからだ。


 それ以来、男の威信は地に落ちた。


 無論、聖剣使いというスキルは残っている。


 だから、他の聖剣を使うことはできた。


 が、真の勇者にしか使えないと言われた聖剣を使えない、という事実は、男のプライドをひどく傷つけるのに十分だった。


 だから、誓った。


 次に憎いマサツグに会った時は、必ず復讐するのだと。


 が、事実はどうだ。


「この俺が、俺様が、あいつの命令のもとで働くだと⁉」


 奴はどういう訳か強力なスキルを手に入れていた。


 守るなどという、いかにも弱そうなスキルだ。


 本来ならば味方を少しばかり高い防御力で守るだけというヘボスキルである。


 そのはずだったのにッ!


「くそ! くそ!」


 男の怨嗟は終わらない。


 ゆえに、


「どうなされましたかな。そこな御仁」


「ああッ!」


 男は……ミヤモトはすごんで見せた。


 今は苛立ちで冷静さと言うメーターは0に等しかった。


 だから気づかなかった。


「おっと、これは申し訳ございませんでした。かの有名なミヤモト様でありましたか」


 そう言って頭を深く下げる男の表情に、舌なめずりするような笑みが隠れていたことに。






「お、俺のことを知っているのか?」


 ミヤモトが意外そうな声を上げた。


 自分は今、前線にも立てないサポート役だと言われたばかりだ。


 本来ならば前線で武勲を上げ、異世界の勇者としてたたえられるはずあった。


 それが地味な回復役なのだと烙印を押されたのだ。


 無論、ミヤモトとて、その役割が重要なことはよく理解している。


 だが、認められない。


 それが子供らしい肥大した自尊心だということにも若干ながら気づいている。


 だが、理解していたからと言って、行動に反映できるかどうかは別問題だ。


 その点、ミヤモトはまだまだ頑是なき子供でしかなかった。当然だろう。まだ16歳の少年でしかなく、また家も裕福な、何も不足が無い環境で育てられたのだから。


 「ある」ことが当然なのだ。


 「無い」ことは悪であった。


 彼は初めて異世界で足りないことを経験していたのだ。


 本来ならばこれを契機に大人になるはずなのであった。

 

 つまり、使い古された言葉で言えば、世の中思い通りにならない、と。自分の限界を知り、また同時に自分の可能性を知る時期でもあるはずだった。


 が、悪魔とは心の隙間に住まう。住もうとする。


 悪魔とは邪悪なる神の使いである。


 それはマサツグという万能と思われた救世主のかいなの中に生まれた、たったひとかけらの隙だったのかもしれない。


 ミヤモトの質問にその男……、神父の恰好をした初老の男は優しく微笑むと、


「もちろんですよ。聖剣使い、異世界の勇者たるミヤモト卿? 城下の者で貴方様の尊名を知らぬものなどおりません」


 ミヤモトは一瞬その言葉に喜ぶが、すぐにそれが単なるおべっかであると思いなおした。


「やめろ。俺はそんないいもんじゃない。聖剣使いと言ったって、あいつの方がよほど使いこなして……」


「はっはっはっははははははははハははっははははっははははっはははははっはははっはははっはははっはははっはっははっははははっはははっはっはっはははっははははっははははハっはっははははキキキキキキ」


 が、その言葉は、笑い声に、いや、異常なほどの哄笑に飲み込まれた。


 げたげたと、先ほどまでの穏やかさが嘘のようなゲタゲタとした笑い声に、ミヤモトがぎょっとした表情を浮かべる。


 が、次の瞬間には神父は好々爺とした表情を浮かべて佇んでいた。


 まるで今さっきの下品な、まるで悪魔がタガを外したかのような笑いが嘘だったかのように。


 いや、マサツグのせいで調子を崩してミヤモトは、それが自分の幻覚だと信じた。


「とにかく、俺は今一人になりたいんだ。放っておいてくれ」


 そう言ってくるりと踵を返そうとする。


 が、


「マサツグ様に勝ちたくはないのですか?」


 神父の口からそんな言葉が放たれた。


「は?」


 ミヤモトは思わず聞き返した。


 聞こえなかった訳ではない。


 逆だ。


 それは今のミヤモトの声そのものであった。


 マサツグに対する嫉妬、そねみ、ねたみ。自分の居場所を取られたと言う恨み、クラスメイト達の注目を集めていることに対する羨望。


 様々な感情がミヤモトの胸中には渦巻いていた。


 神父の声はまるで鏡であった。


 自分の思いを代弁しているような、まるで自分の声がそのまま心の外に現れたかのようにすら思えた。


 だから思わず聞き返したのである。


「い、いきなり何を言い出しやがる。マサツグのことなんて俺は何にも言ってないぞ!」


「いえいえ、確かにおっしゃっておられましたよ。気づかれなかっただけではないのですか?」


「そう……だったかな?」


 よく思い出せない。


 確かに、マサツグのことばかり考えていたから、知らないうちに口に出していたのかもしれない。


 何より、なぜか神父と話していると、どこか意識がうまく保てず、物事の輪郭がぼんやりとしてくるのだ。


 思わず落ち着くと言うか、今まで何を悩んでいたのか分からなくなってくる。


 俺は一体何を考えていたんだったかな?


「おっと、少し幻惑が効きすぎてしまいましたかな?」


「げん……わく?」


「ほっほっほきききき、何でもありませんよ」


 神父は一層笑みを深めると、噛んで含めるように、


「ミヤモト卿。あなたは、あなたを蔑ろにしたマサツグを亡き者にしようとしていたのですよ」


「亡き者に? ……いや、確かに俺は恨んでいたが、何もそこまで……」


 ふむ、まだ最後の壁は取り払われていないのですな。ですが、それも時間の問題ですなあ。


「しかしミヤモト卿、このままマサツグを放置しておいては大変なことになりましょう。それはあなただけがつらい目にあうだけではないのですよ?」


「俺、だけではない?」


「左様」


 神父は困り果てたといった表情を浮かべて、


「かの者は王位を簒奪し、無謀な戦いに兵士たちを向かわせております。なのに自分は玉座に座ったまま無責任にも何もしようとしない。あなたのように《・・・・・・・》前線に立とうとする気概すら見せようとしない」


「俺の……ように……」


 ミヤモトはどこか神父の言葉に矛盾を感じた。


 だが、それが具体的な言葉としてミヤモトに認識されることはなかった。


 なぜなら、神父は……。


 いや、この邪神からの御使いである悪魔が、ミヤモトの意識レベルを通常の半分程度に抑え込んでいるからだ。


 幻惑はさほど使い勝手の良いスキルではない。


 寝ぼけている人間でもなければ効果がないことが多い。


 だが、ミヤモトは今、悪魔の幻惑に面白いほどかかっていた。


 彼が今持っているマサツグへの憎悪の気持ちを利用されたのだ。


 ゆえに、悪魔の甘言は魅惑の蜜のようにミヤモトの心を簡単にとろかしていく。


 悪魔の言う言葉が本当のように聞こえ始める。


 マサツグこそは国を亡ぼす元凶である。


 神聖なる王位を簒奪し、罪なき兵士たちを称賛もなく前線に送る。それは国を守るためなどと言う高尚な目的ではなく、あくまで自分の命を守るために他人の命を犠牲にする行為に他ならない。


 団結し、軍議を進めていた貴族たちの絆を破壊し、国王を追放し、暴力でワルムズ城を支配し、その立場の重さと責任の所在を放逐しながら、好き勝手に勅命を乱発している。


 まさに国を乱す悪魔。


 奴こそが、邪神の御使いである、と。


 そうした吹聴にミヤモトは徐々に耳を貸すようになっていった。


 そうして、じきに悪魔の言葉が真実であると認識するに至った。


 幻惑は確信に、認識は理解へと到達した。


 彼は神父に導かれるまま、後をついて行く。


 ワルムズ城を後にする彼は一顧だにしなかった。


 こうして、ミヤモトは悪魔に魅入られた。


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