74.No2 バロン・ゴーレムの急襲 後編
第1巻(8/10発売)の書影(ロゴや帯入りの表紙)が来週には公開できそうです。お楽しみに!
74.No2 バロン・ゴーレムの急襲 後編
「いくぞおおおおおおおおおお! うおおおおおおおお!」
「ミヤモト卿に続けええええええええええ‼」
「ミヤモト君! 私の火炎魔法で支援するわ! 安心して!」
「くらえ、この化け物がああああ!」
バロン・ゴーレムへミヤモトを筆頭に反マサツグ派の兵士たちが突撃していく。
士気は高く、さすが城に詰めている兵士たちだけあって技量も申し分ない。
しかも、彼らは今、窮鼠猫を噛むの状態。いわば背水の陣の状態だ。
無論、彼らを追い詰めてしまったのはバロン・ゴーレムではない。
本質的には、ここで勝利を得なければ俺という存在に、今までの利権や権力、影響力をすべて奪われかねないという、そんな疑心暗鬼、恐怖、生存本能が彼らを、城ほどの巨大さを誇る化け物へと走らせているのだ。
こればかりは俺がいくら誤解だと言っても聞く耳を持つことはないだろう。
なぜなら、彼らは権力のために生きている。
俺からすればまるで興味のないものだが、彼らにとってそれは信じられないことだろう。
ゆえに説明は無意味だ。
かわいそうだとは思うが。
だってそうだろう?
なぜなら、彼らが盲目でさえなければ、
「ぐああああああ⁉ だめだ、まったく刃が通らない!」
「ぎゃあああああ!」
「く、くそ、少し手で薙ぎ払われただけで、前衛が全員吹きとばされたぞ!」
「衛生兵、衛生兵はまだか!」
このような惨状を引き起こすことはなかったわけだから。
「ご主人様、一瞬にして壊滅してしまいました」
「口ほどにもないのう。真の勇者の名が泣くわい」
リュシアとラーラが言った。
まったく、呆れるほどの惨状だ。
本番を前に貴重な戦力を削られるわけにはいかない。
というか、俺はさっきちゃんと戦い方を説明したやったはずなのだがな。
「ミヤモト! 何をしている! お前の役割は既に伝えたはずだぞ!」
改めて命令を伝える。
「お、俺の役割……」
一人、前衛で通じもしない剣技で鋼鉄にも勝るバロン・ゴーレムの皮膚に斬りかかるミヤモトが我に返ったように言った。
「そうだ。お前の役割は後衛での自軍全体の回復。それによる継戦力の持続だと何度言えば分かる!」
「ぐっ、だ、だが、俺は俺の力で世界をまも……」
「自軍が崩壊しつつあるのに、何を言っている! ガキのママゴトなら自室でやれ!」
「⁉」
俺の叱責にハッとした表情になる。
そして、悔しそうに俺を睨み付けると、大きく後ろへ後退した。
やれやれ、やっとか。
「ナイチンゲールに力を込め、天高く掲げろ。そうすれば回復魔法が発動する」
「うるさい! 俺に命令をするな!」
ミヤモトは反抗しながらも、俺の言った通りに天へと高く聖剣を掲げる。
すると、
「お、おお!」
「温かな光が降り注ぐ…………」
「すごい、折れたはずの腕が動くぞ!」
「傷が、傷が治っていく! 奇跡だ‼」
一瞬にして崩壊し、傷だらけになった兵士たちが回復する。倒れていた者たちも意識を回復し立ち上がりはじめた。
「これがマサツグ王の力、なのか……」
「ぐ、く、悔しいが認めざるをえんのか……」
「ち、違う! これは俺の力だ」
何やらこんな状況でも言い争っているようだが、些事も良いところだ。
俺は事態はここに極まったと玉座から立ち上がる。
そして、部下たちに対して命令を下した。
「全員配置につけ! 言った通り、我がマサツグ軍の練習台にしてやるぞ! ミヤモトは聖剣の加護を引き続き引きだせ! エヅカ、カツラギ、準備しろ!」
「お、おう!」
「分かったよ、王様!」
エヅカとカツラギも片腕を突き出して、スキルを発動させる。
「|人類最後の砦を守りし剣‼」
「|穏やかななる天空からの風‼」
二人がスキル名を叫ぶ。
その瞬間、爆破的な力の渦が玉座の間に満ち渡った。
「わははははは、何をしようとしているのか知らんが、焼け石に水よ! アリがいくら気を張ろうが踏み潰されて終わりなのと同じこと!」
哄笑しながら、先ほどワルムズの兵士たちを一撃のもと薙ぎ払った腕の一振りを放ってくる。
先ほどは手加減していたのだろう。
今度の一撃は玉座の間ごと倒壊させようかと言う、凄まじい攻撃だ。
「ふはははぁ、瓦礫にまみれ、惨めたらしくひしゃげ死ぬがよい!」
ブォン!
突風を巻き起こしながら、何十メートルに及ぶ腕を旋回させる。
その風圧だけで玉座の間にあった机やいす、何百キロとありそうな華美な装飾も吹き飛んで行く。
人間の作ったちっぽけな造作など一瞬で灰燼に帰す、神話を再現するかのような一撃だ。
が、
「な、なんだと⁉」
その腕は玉座の間の壁を崩壊させる手前で、まるで万力に押さえつけられたかのように、ピタリと制止していた。
と、狼狽するゴーレムの腕の下から、小さい、しかしながら、希望に満ちた声が幾つも漏れた。
「す、すごい、さっきは触れただけで吹きとばされた化け物の一撃が……」
「お、俺の剣が受け止めてる!」
「そ、それだけじゃない。そうりゃあああああ」
ワルムズの兵士たちが岩石の塊ともいえる、何百トンにも及ぶ腕を受け止めていた。
いや、それだけではない。
受け止められるという事実……自分たちにそれだけの力が今まさに備わったことをいち早く理解した兵士たちの中には、更に力を込めて、ゴーレムの腕を押し返し始める。
「ば、バカな! た、たかだか人間の! しかも一兵士の力で我の腕が⁉ 大地を崩壊させ、海を割り、天にすら衝き立つとまで言われた我が拳が押し返されるだとおおおおおお⁉」
バロン・ゴーレムの悲鳴が玉座に轟きわたる。
「マサツグ王‼ こ、これは⁉」
貴族の一人が狼狽した様子で俺に問いかける。
やれやれ、何度説明すればよいのか。
「言ったろう。1000倍だ。お前たちは1000倍の力を得ている。やる気になれば一人でそのバロンなんとかと言う雑魚モンスターも倒せるだけの力がある」
「ひ、一人で⁉」
「お、俺一人でこの城ほどの大きさの化け物を倒せるってことなのか⁉」
「た、確かに見てくれはすさまじいが、この腕だって、ちょっと重い程度だ! よ、よし、一番の手柄を俺が立てる!」
「おい! ずるいぞ貴様! 俺が一番槍だ!」
ふ、勝てると分かった途端に現金なものだ。
まあ、勝ち戦で士気が上がらないのもおかしいと言えばおかしい。
「さあ、ワルムズの兵たちよ。俺に化け物の首級を授けよ」
「はは、マサツグ王! かしこまりました!」
「うおおおお! この国を守れ! 邪悪なモンスターの首を刈り取れ!」
「遅れをとるな! 褒美は思いのままだぞ!」
そんな叫び声をあげて突撃していく。
勝ち戦、これまで得たことのない圧倒的な力、そして有能な指揮、国の存亡のかかった戦い。まさに護国のための聖戦だ。
一丸となったワルムズの勇者たちの力を前に、先ほどまで余裕たっぷりであったバロン・ゴーレムは悲鳴を上げる。
「こ、こんなバカなことがあってたまるものかああ!」
そんな叫び声とともに腕を振り回すが、その巨体が仇となって全く兵士たちに当たらない。
いや、当たったとて、まるで軽症だ。
無論無傷ではないが、ミヤモトのナイチンゲールが即座に傷を治療する。
「ぐううう、と、止まらん! 人間ごときがああああ」
いくら攻撃しても効かず、それどころか次々にその巨体へととりつき、剣を槍を突き立てる。
と、ついに屈強な戦士の一人が剣を大きく振りかぶり、
「うおおおおおおお、跳べえええええええええええええ‼」
思い切り振り下ろしたのである。
バツン!
という鈍い音とともに、数メートルの太さを誇るゴーレムの右腕が切り落とされた!
「ぎゃあああああああああああああああ⁉」
バロン・ゴーレムの絶叫がワルムズ城下へと響き渡った。






