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72.ヘボスキルが強スキルへ変化③

72.ヘボスキルが強スキルへ変化③



「互角程度の戦力で戦争を本気でするつもりなのか?」


 そんな俺の問いかけに、


「で、ですが王は、カツラギのスキルがこの戦争の鍵を握る、と……」


 なるほど、あの言葉が誤解を与えてしまったのか。


「無論だ。その言葉に嘘はない」


「だ、だったら」


「しかし、鍵を握ると言っただけだ。|何もそれで十分だなどとは一言も言っていない《・・・・・・・・・・・・・・・・》だろう?」


 その言葉に全員が息をのんだ。


 そう、俺はあくまで外すことの出来ない重要なスキルについて説明したまでで、それで戦争が出来るなどとは言っていない。


 そもそも、


「互角の戦力では勝つか負けるか分からないじゃないか。そんな戦争をしてたまるものか。するからには勝たねばならん。そのためには相手の3倍の戦力は確保すべきだ」


 だが、まだ互角程度しかない。


 無論、俺がいなくては完敗していただろう状況を一瞬にして互角へと導いたのだ。


 十分だと言う声が上がるのも理解できないでもない。


 だが、俺はそれでは満足できない。


 王としてある以上、勝利を目指すのがその責務なのだから。


「だ、だけど、俺たちの戦力をここから更に3倍にするスキルを持った奴なんているのか?」


「あ、ああ。王の力で互角になっただけでも凄いのに、更に相手を圧倒するほどのスキルを持つ奴なんて……」


 クラスメイトや兵士たちがざわつく。


 一方、反マサツグ派の連中はここぞとばかりに、


「やはりマサツグ王では勝てないのだ!」


「そうだ! 今からでも遅くない! 玉座から引きずり降ろせ」


 などと騒ぎ立てる。


 ミヤモトやヨシハラもそれに便乗している。


 俺は憐れんだ目でミヤモトを見下ろし、


「ミヤモト、いい加減にしろ。これ以上俺に失望させるんじゃない」


 そう言ってたしなめた。


 が、


「うるせえ! てめえの指図は絶対に受けねえ! なんで手前に命令されなくちゃならねえ! 俺はお前を王だとは認めちゃいねえぞ!」


 子供のように反抗してくる。


 俺はため息を吐き、


「別に王かどうかなど関係なく、お前に命令する理由ならあるんだがな……」


 と言った。


「何だと?」


 ミヤモトが意外そうな声を上げる。


 やれやれ、まだ分からないのか。


 なぜ先ほどから、俺がミヤモトをたしなめ続けているのか。


 本来ならば歯牙にも掛ける必要などない男だ。


 無視していれば良い、そんなちっぽけな存在にすぎない。


 が、今回俺はこいつに成長してもらう必要があると考えた。


 だからこそ、正すべき点を正してきたのである。


 そう、俺がミヤモトに命令する理由とはただ一つ。


「ミヤモト、お前こそがこの戦争を勝利に導く最後のカード《切り札》だ」


 その言葉に、ミヤモトの目が大きく見開かれた。






「な、お、俺がこの戦争の切り札、だと⁉」


 ミヤモトが上ずった声を上げた。


 それは何かの聞き間違いではないかと言った疑問が半分、もう半分はどこか喜色の混じったものだ。


 その現金さに呆れるが、しかし凡人らしい純朴さだと思いなおす。


 そんな内心はおくびにも出さず、改めて説明をしてやる。


 ……それにしても、王に二度も説明させるなと言うのだ。


 時間の浪費こそが今は最大の害悪だと言うのに……。


「もう一度だけ言おう。お前がこの戦争を互角の状態から、完全な勝利へと導く切り札だ。この王のために、ワルムズのためにその力を発揮しろ」


 そう改めて命令を下したのであった。


「お、俺にそんな力が……」


 ミヤモトが信じられないと言った様子でつぶやく。が、同時に唇がにやつくのが抑えられないようだ。


 自分に才能があると分かったことが嬉しいのだろう。


 まあ、実は他のクラスメイトと違って、ミヤモトの力とは、こいつ自身の力と言うわけではないのだが《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》……。


 が、真実を知れば現金なこいつのことだ。モチベーションを維持することは不可能だから。


 かわいそうだが、今は非常時だ。非情に徹するとしよう。


「ミヤモト、お前のスキルは『聖剣使い』だったはずだ。そうだな?」


 俺の質問にミヤモトは張り切った様子で、


「おう! そうだ! へへ、真の勇者である証‼ 『聖剣使い』! 聖剣の持つ様々な力を振るい、万物を切り伏せる万能のスキルだ!」


 俺は内心でため息をつきながら、


「そうか。ならば、この聖剣ナイチンゲールを使うがいい」


 俺はそう言って、先ほど城に来る途中で拾って来た《・・・・・》聖剣ナイチンゲールを取り出す。


「なっ、そ、そいつは⁉」


 ミヤモトが目を剥いた。


「なんだ、もう忘れてしまったのか?」


「忘れる訳がねえだろうが! そいつは……そいつは‼」


 そう、それは、


「お前が捨てた聖剣だな」


「てめえが奪った俺の聖剣だろうが‼」


 忘れた日は一日たりともねえ! と、ミヤモトが絶叫するように言った。


 そして、なぜか俺の方を睨み付けてくる。


 ……が、これは言いがかりにも程があるな。


「俺はお前に返却しただろうが? だが、お前が重たすぎて持てないなどと言って、道端に捨てたのではないか」


「て、てめえ……」


 ギリギリとミヤモトが歯ぎしりをした。


 が、こんな下らないやりとりをするために、わざわざ聖剣を拾って来た訳ではない。


「ミヤモト、いいから持ってみろ」


「は? てめえおちょくってんのか。そいつはお前に奪われたせいで、俺が持つと重すぎてとても持てなくなっちまって……」


「いいから言う通りにしろ」


 少しすごんで言う。少しイライラとしつつだ。何せ時間がない。


 ミヤモトは俺が本気で苛立っているのが分かったのか、ごくりと喉を鳴らしてグッと押し黙った。そして、少しして「ちっ」と舌打ちをすると、渋々と俺の差し出した聖剣を受け取ろうと手を伸ばす。


 が、その仕草は恐る恐るといった様子で、ますます俺を苛立たせる。


 本当に状況が分かっているのか?


「まったく、面倒な奴だ」


 俺はそう言い放つと、ポイ、と聖剣をミヤモトに放り投げる。


「うわあっ⁉」


 ミヤモトは目の前で腕をクロスするようにしてガードの姿勢を取る。恐らく、押しつぶされるとでも思ったのだろう。思わずしりもちをついて身を守るようにする。


 が、


「へ?」


 そんな間の抜けた声と、聖剣がミヤモトの手に当たるこつんと言う乾いた音だけが玉座の間に響いたのであった。


 俺にしか持てない聖剣など、そこには存在していなかったのである。




「こ、これは一体……」


 ミヤモトは何が起こったのか分からない、と唖然とした調子で言った。


 なに、簡単なことだ。


俺に所有権のある聖剣だ。ならば、聖剣を担える者に与えることも可能というだけである。


が、そんなことまで説明する義理はない。


「お前の思いが通じたのだろう。あれほど焦がれていた聖剣だ。今度こそ上手く使ってやれ」


 俺が適当にそう言うと、ミヤモトは最初驚いた表情をしたが、徐々に喜びが表情に現れ始め、


「そういうことか!」


 ミヤモトが納得の声を上げる。


 そして、


「ようし! この聖剣使いである異世界の勇者ミヤモトに任せておけ! 死者の軍団がいくら来ようと、この聖剣ナイチンゲールで敵を塵に変えてやる!」


 そう気を吐いたのである。


 が、俺は首を傾げながら、


「は? 何を言っている。お前は前線に出ることはないぞ?」


 と言う。


「なんだと⁉ どういうことだ、俺が切り札なんだぞ! この国を、世界を救うのは俺しかいねえ! この俺が聖剣で地上を這う害虫どもを根絶やしにするんだ‼」


 などと叫ぶ。


 俺は頭痛を感じながら、


「何をガキのようなことを言っている。勇者だのなんだと、夢みたいなことを言っているんじゃない」


「何が夢だ! 聖剣があるのに前線に出ないなんて……」


「そもそも」


 俺はぴしゃりと言う。


「お前に剣の腕前など期待していない。その聖剣の効果を引き出せるのが俺を除いてはお前だけだから、仕方なく任せるだけだ」


「は? 聖剣の効果、だと?」


 ミヤモトが目を白黒とさせた。


 なんだ、その聖剣の本当の力も理解できていなかったのか。


「そうだ」


 俺は頷いてから、


「聖剣ナイチンゲール。剣自身が語るところによれば、自軍に対し継続的に回復を行うという、まさに生者のための剣だ」



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