70.ヘボスキルが強スキルへ変化①
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70.ヘボスキルが強スキルへ変化①
「エヅカ、別にそう悲観するスキルじゃない」
「マサツグ王……。ありがとうございます。ですが、10パーセント程度、しかも人型に限定して強くなるスキルなど、どうやっても使い道なんて……」
「呼び捨てで良い……とはならないな。けじめが必要だ。そのまま王と呼ぶがいい。他の奴らもな。さて、そんなことよりもスキルだが、俺の『守る』範囲にお前を加えることにする。これによって、お前のスキルは『人型をはじめとする地上で活動する敵に対して、自分を含む味方全体へ1000%攻撃力、および防御力を底上げする』スキルへ変化する」
「……」
「……」
「…………はぁ⁉」
エヅカが俺の言ったことが理解できなかったのか驚きの声を上げる。
ふむ、確かに説明が長かった。
「もう一度言おうか? お前のスキルは、人型をはじめとする地上で活動する……」
「い、いや、大丈夫だ! 驚いた理由はそこじゃないから!」
そうなのか?
俺は首を傾げた。
と、エヅカがガバっと頭を下げて、
「あ、ありがとうございます! マサツグ王‼ お、俺のヘボスキルだった人型特攻スキルがこんな神スキルに生まれ変わるだなんて‼」
今にも感涙を流し始めそうな勢いだ。
俺は若干引きながら、
「そ、そうか。だが感謝する必要はない」
「だ、だけど」
「それは本来、お前の持っている才能が開花したものだ。努力すれば、もしかすればたどり着けた境地ということだな。まあ、そこまでたどり着くには、本来様々なものを対価として支払う必要がある。だが、今回は『特別』だ」
「と、特別……」
エヅカが俺の言葉を固唾を飲んで待つ。
俺は頷きながら、
「俺のスキルは『守る』ことに特化した万能のスキル。死者の軍勢から孤児院を守るためには、この国を結果として守る必要がある。もし、お前たちが勇敢な戦士として……、いや勇者としてこの国を救うというならば、俺はそれにふさわしい力を今回に限り与えてやることが出来る」
その言葉に、元・非主流派の面々が息をのんだのが分かった。
「勇者……」
「わ、私たちが……」
「クラスで馬鹿にされてた俺たちが、本当に勇者になれるってのか……」
そんなつぶやきが飛び交う。
「その通りだ。エヅカ。試しにそのスキルを使って見ろ。俺の言った意味が皆にも理解できるだろう」
その言葉にエヅカが恐る恐ると言った様子で、
「は、はい、マサツグ王。で、ですが相手がいません」
「ふむ、それもそうか。おい、誰か相手をしてやれ。何、パンチを一つ受けるだけでもいい。違いが分かるはずだ。ああ、いやそうだな」
俺は首をめぐらせると、
「適材適所だ。ミヤモト、お前がエヅカの攻撃を受けてやれ。何、怖がることはない。エヅカも手加減するだろう」
その言葉にミヤモトは、
「はあっ⁉ な、なんで俺がそんな役をしなくちゃならねえ⁉」
そう言って反論する。
だが、別に俺は意地悪で言っているわけではない。
「当たり前じゃないか。お前は味方ではないからだ《・・・・・・・・・・・・》」
「…………は?」
ミヤモトが呆けた声を上げた。
エヅカが申しわけなさそうに口を開き、
「いや、その通りです、マサツグ王。なぜか分からないのですが、ミヤモトには味方にかかるはずの強化が一切反映されていないんです」
不思議そうに言う。
だが、それは当然のことだ。
「不思議がる必要はない。俺の反対勢力である非主流派のミヤモトたちを、俺の『守る』スキルの庇護下にあるお前たち主流派が味方だと位置づけることは論理的に矛盾する」
「なるほど」
言われてみればそうだと納得する。
「ゆえに、実験台には強化の影響を受けていない、反マサツグ派の筆頭の男が一番適任だ。つまりお前しかいないということだな」
「そんなこと知ったことか! どうして俺がサンドバックにならないと……」
「それくらいしか役に立たないからだろうが。いや、役に立てる、と前向きに考えるがいい。おい、兵士の誰でもいい。おさえつけろ」
「はっ! 兵士ごときが俺を取り押さえられる訳がっ」
俺は呆れた嘆息する。
「エヅカの力はそうじゃない《・・・・・・》と言ったつもりだが。俺の説明をちゃんと聞いていなかったのか?」
「何だと? くっ、お前ら離せ! 異世界の勇者である俺をお前らごとき一兵士ごときがおさえられると……あ、あれ、な、なんでッ⁉」
俺の命令に従い、ミヤモトを取り押さえようとした兵士たちの腕を振り払おうとする。
だが、
「な、なんでだ⁉ なんで振り払えない⁉」
ミヤモトが悔しそうに歯噛みした。
俺は呆れてその光景を見下ろす。
それも言ったはずなのだがな、と内心ため息をつきながら。
そう、エヅカのスキルとは自分を強化する力ではないのだ。
エヅカのスキルとはすなわち、
「味方の兵士を丸ごと攻防10倍に強化するスキル。すなわち、国家10個分の軍を生み出すのと同等の力だ」
「⁉」
クラスメイトや貴族、その場にいた全員がぎょっと目を剥いた。
やっとエヅカのスキルの有用さに気づいたようだ。
そう、エヅカはいるだけで、この国の持つ軍事力を二倍にする、まさに勇者と言える力を発揮するのである。
この大陸にある国家は大小含めれば数十あるが、大国は10程度しかない。
つまり、エヅカのスキルによって、大陸全軍の力を結集するのと同じ効果があるということなのだ。
一人優れた戦士がいても、戦争とは多方面で展開されるものだ。
その力の及ぶ範囲は限定的にならざるを得ず、戦術的勝利はあっても戦略的勝利に結びつくことはない。
だが、エヅカの能力とはその限界を突破したもの。
あらゆる方面に配置された勇者たちの力を底上げし、戦略的な勝利を呼び寄せる力なのである。
「はからずも兵士たちの力がミヤモトを圧倒していることが証明されたから、エヅカにミヤモトを殴らせるのはやめるとしよう。ミヤモトは感謝するといい」
兵士たちから解放されたミヤモトはこちらを恨めしそうに睨み付けてくるが、俺は無視する。
「ありがとうございます! マサツグ王! これなら、これなら死者の軍勢からこの国を守ることが出来ます!」
エヅカが嬉々として言う。
だが俺は首を横に振り、
「馬鹿を言うな。この国の兵士は1万。お前の力は優れているとはいえ、単純に10倍したとしても10万だ。それに対して死者の軍勢は100万。かなう道理がないだろう」
俺の淡々とした指摘に、戦勝ムードになっていた玉座の間が一気に重苦しい空気に変わる。
が、俺のことを信じ切っているリュシアとラーラは変わらぬ調子で、
「でも、ご主人様には秘策があるんですよね!」
「無論じゃよ。マサツグ殿に不可能はないのじゃからな!」
「さすが私のご主人様です!」
「うむ! わが主殿はさすがと言わざるを得ないの‼」
などと言っている。
なぜか言い合いをしているように見えるが気のせいか。
「あはははは! 何よ、あれだけ偉そうなことを言っておいて、結局勝てないんじゃない! どうせみんな死ぬんだわ!」
ヨシハラが若干狂気をはらんだ調子で言った。
まったく。動物は動物園に、だ。
「考える力がない奴は黙っていろ。どうせ役に立たん」
「なんですって⁉」
「カツラギ、前に出ろ」
「は、はい」
俺の言葉に気の弱そうな女子が前に進みでた。
だが、エヅカとともに真っ先に元・主流派に反抗したのはこの女だ。
案外、肝が据わっているということなのだろう。
「お前のスキルが、この戦争の勝利への鍵だ」






