67.クラスメイトたちとの共同戦線
皆様のおかげで書籍化が決まりました。ありがとうございました。
書籍とWebでマサツグ君の辿る軌跡は結構違ったものになっていますが、引き続き、Web版をお楽しみください。
67.クラスメイトたちとの共同戦線
「じゃが、どうするつもりじゃ⁉ 100万の死者の軍団じゃぞ‼ 貴様ごときに何とかなる訳があるまい!」
元王が何かを喚いているが、俺は答えずに他の貴族たちへ語り掛ける。
既に元王には何ら権力はない。
まだ他の貴族どもの方が、自分たちの領地や領民を有しているだけ権力を持っているのだ。
今や俺が王となった以上、元王は一般人でしかない。
「ワルムズの王として軍議を始める。既に死者の軍団は明後日にはこの国に到達する距離に達している。下らない議論をしている暇はない」
「う、うむ……」
「た、確かに時間が惜しい。今は暫定的ではあるが、新しき王のもとで戦略を練るしかあるまい」
貴族たちはそう言って議論をする態勢になる。
「き、貴様ら⁉ それでも誇り高きワルムズの貴族か⁉ わ、儂は認めん! 絶対にこのようなことはッ……!」
「うるさいぞ! 誰の許可を得てこの場所にいる! つまみだせ‼」
その言葉に何人かの兵士が動き、元王を後ろ手に縛りあげ、猿轡を噛ませる。
「き、貴様ら、このようなことをして後でどうな……うぐぅ! うがぁ⁉」
「さあ、さっさと軍議を始めるぞ。あと、うるさいからせめて端っこに連れていけ」
「も、申しわけありませんワルムズ元王……。ですが、今は国の一大事。お許しください」
元王が連行されるのをしり目に、軍議の用意が整えられた。
即席の大テーブルが用意され、地図や兵数、敵の位置、数、武器、モンスターの種類などが記された資料がセッティングされる。
「敵の数と種類はこれですべてか?」
「はっ。偵察隊の報告によれば以上です」
偵察隊の隊長が答える。
「ふむ」
俺は少し首を傾げた。
「あの、何かおかしなことがありますでしょうか?」
「お前はどう思う?」
その言葉に偵察隊長は、
「は、はあ。大地を埋め尽くす死者の軍勢です。ゴブリン、ワーム、スケルトン、ゴルゴン、ワーウルフ、デュラハン。その数100万。大地を蹂躙し、通った後には生者の影すらも残しません。まさしく、死が大地を覆っています」
「なるほど」
俺は頷く。
正確な報告のようだ。
やはりおかしい《・・・・・・・》。
どうやら用意しておかなければならないようだな。
俺はいくつかの指示をこっそりと出す。
「さて、それからだ」
俺はもう一つの指示を出すために口を開く。
「おい、ミヤモト、起きろ」
俺の声に気絶して倒れていたクラスメイトのミヤモトの頬を、何度か往復ビンタして覚醒させる。
何せ時間がないからな。
それに、もともと襲撃して来たのはコイツらのほうだ。
正当防衛として気絶させたが、本来ならば救世主を邪魔した大罪人だ。殺されていても仕方ない。
随分と時間を無駄にもさせられた。
その借りだと思ってくれればよい。
ふっ、まったく甘いものだ。
そう思って自嘲気味に笑う。
「いでえええええええええ⁉ て、てめえ、何をなめたマネを……」
「静かにしろ。その口を二度と開けられない様にするぞ?」
「うぐうううううううううう⁉」
時間がないので多少手荒な方法を選択した。
ミヤモトの顔を地面に押し付けたのだ。
俺の手で口をふさぐのは気持ち悪いので仕方ない。それに、とにかく国の命運がかかっているのだから、コイツの無駄口に付き合っている暇はないのだ。
「いい加減、黙れ。この国ごとお陀仏する気か? 俺の言葉の意味が分かったのなら、地面を2回タップしろ」
「うぐううう、マサヅグウウウウウギザバアアア」
はぁ、と俺はため息を吐いて、
「ならば、本当に昇天するのだな」
俺はそう言って、更に力を込めてミヤモトを床に押し付けた。
「ぎゃあああああああああああああああああ」
必死に床をタップする。
許してやるか。
「いいから話を聞け。国の危機であることは、お前でも理解できるだろう。ならば、この後俺に対してどういう態度を取るべきか分かるはずだぞ?」
その言葉に肩で息をしていたミヤモトが、
「ど、どういうことだ!」
と叫んだ。
「決まっているだろう」
俺は馬鹿にして言う。
「俺のスキル『守る』でお前たちを守ってやると言っているんだ。ふ、お前たちと共同戦線を張ることになるとはな」
「なっ⁉」
俺の言葉にミヤモトが心底驚いた声を上げたのだった。
「て、てめえの支援なんているものか! 俺は、俺たちは自分たちの力だけでこの国を守ってやるよ!」
「そうよそうよ!」
「マサツグの助けなんざいるか!」
他に気絶していたクラスメイトたちも起き出して、軍議に加わり始めた。
正直、寝ててくれていた方がよかった。
ミヤモトだけでも度し難い愚か者だが、他のクラスメイトたちも概ね、似たり寄ったりの馬鹿だからだ。
俺はため息を吐く。
「お前たちは何を勘違いしているんだ……」
心底呆れた声を出した。
「な、何が勘違いだ! お前の助けなんか邪魔なだけだ! 俺には聖剣の加護が……」
「だから、それが勘違い《・・・・・・》だと言うんだ」
「なっ⁉」
絶句するクラスメイトに俺は滔々《とうとう》と、
「お前たちに選択肢などない。これは王として命令しているのであって、相談をしている訳じゃない。いい加減、立場を理解しろ。お前たちはワルムズ王国の一兵士にすぎない。出撃を断る権利も、俺の命令に背く権利もない」
立っている位置が違うことをはっきりと告げた。
まったく、何が悲してくこんな当然のことを伝えなくてはならないのか。
「め、命令だと……。だ、だが俺たちは無理やりここに連れてこられたんだ」
「そ、そうよ! いわば被害者よ! なのに、どうしてそんな理不尽な命令を受けないといけないのよ‼」
「それは、この城を出なかったお前たちの選択の結果だろう」
「なっ⁉」
クラスメイトの一人が悲鳴じみた声を上げる。
何を被害者ぶっているのか。
どんな状況であれ、今の状態を選んだのはこいつらだ。
むしろ、こいつらは自分たちが選ばれた勇者だとなんだと言われいい気になっていたばかりか、国から随分甘い汁を吸わされていたのだ。
そのことはシルビィからの報告で知っている。
街で犯罪としか思えないような横暴なふるまいをした者もいたらしい。
無論、突然日本と言う平和な国からこんな異世界に呼びだされたのだ。
多少気の毒な面があることは否定しない。
だが、一方で俺の様に城を自らの意志で出た者もいるのだ。
それを踏まえれば、すべてはコイツらの甘い考えがもたらした状況にすぎない。
「さあ、分かっただろう? いい加減、子供の様に駄々をこねるのはやめろ。お前たちは俺の部下だ。大人しく兵士として指示を聞け」
「ぐ、ぐぐぐ、だ、だがマサツグ、てめえの言う事だけは……」
ミヤモトがギリギリと歯ぎしりをする。
どうして俺にそこまで敵愾心を向けるのか心底不思議だが……、
「俺が許したとしても、周りが許さんと思うがな」
「な、何だと⁉」
ミヤモトが驚いた声を上げた時である。
「ミヤモト卿! いい加減、マサツグ王の命令を聞かんか! 聞けないならば死刑じゃぞ‼」
そんな怒声が貴族から上がったのだった。






