66.新しき王
66.新しき王
「久しぶりだな、ワルムズ王。さあ、何をぼーっとしている。さっさと今回のバルク帝国との戦いについて軍議を行うぞ。今、どこまで決まっているか報告してくれ」
俺がそう言うと、王はこちらに聞こえるほど憎々し気に歯ぎしりし、
「貴様ぁ・・・。王たる儂に向かって、その態度はなんじゃ!!」
と怒鳴ったのである。
だが、俺は苦笑すると、
「それはこれからお前がどの程度の報告が出来るかで判断させてもらおう。敬意を持たれるように振る舞うといい。今のお前は、国の危機に際して貴族どもをまとめることも出来ない、ただの無能だからな。それでは尊敬を集めることもできないのは当然だろう? 身分が権力を保証するんじゃない。能力が権力を与えるんだ。さあ、これ以上俺を呆れさせないように、さっさと状況を説明しろ」
と言ったのだった。
「ぐぐぐぐ、だ、誰が貴様の言う事など聞くものかぁ!!!!」
だが、王はそう叫び、玉座から俺を睨み付けたのである。
「ふむ、どうせ何も決まっていないことは分かっているのだがな。だからバルク帝国の宣戦布告先が、ワルムズ王国を飛び越えて俺になったりするのだ。まったく、呆れる程の無能だな。だが、まあ、そう言うなら仕方ない。せっかくチャンスを与えてやったというのに・・・」
本当は面倒だからやりたくなかったのだがなあ。
俺はうんざりしつつ、玉座へと近づいて行く。
俺を止めようと、数人の兵士がとびかかってきたが、邪魔なので気絶させておいた。
「な、なんじゃ!! 何をするつもりじゃ!!!???」
王が青ざめた顔でそう叫ぶが、俺はかまわずに目の前に立つ。
そうして、そのまま手を伸ばしたのである。
「ひ、ひぃぃぃぃいいいい!!?」
王の無様な声が響くが、俺はそのまま王の首根っこをヒョイ、と掴んだのであった。
「ぐえ」
と言う声が耳に届くが、気にせずに持ち上げる。
そうして、あっさり、ポイッ、と床に投げ捨てたのだった。
ベチャッというカエルがつぶれる様な音とともに、
「ぐひ!?」
という不快なうめき声を上がるが、俺は気にせずに前へと進む。
そうして、空席となった玉座へと腰を掛けたのである。
そして、
「お前から王権を一時的にはく奪する。この戦時のしばらくの間は俺が王となり、国の運営をするとしよう」
そう言って、元王と貴族たちの前で王位就任を宣言したのであった。
「ば、バカな!! さ、簒奪ではないか!!! ゆ、許されることではないぞっ!!!?!??」
王が地面に尻もちをついたまま、血走った眼をしながら絶叫した。
「そ、そうだそうだ!!」
「このようなこと、許されるはずがない!!!」
周りの貴族たちも、口からつばを飛ばし、顔を真っ赤にして声を上げる。
だが、俺は至極冷静に、
「はぁ、何か勘違いしているようだな。能力がない者が上に立つほど害悪なことはない。特に、こういった重要な局面ではな。それにそもそも、心配しなくても大丈夫だ。俺は王になることに興味などないんだからな。王位など、面倒で煩わしいだけだ。そんなどうでもよい職位につくつもりはない。俺はな、無能なお前たちの尻拭いをするために、仕方なく、一時的に王をしてやるだけだ。このたびの戦争が終われば、返してやる。分かったな?」
と言ったのだった。
すると、元王は更に顔を歪め、
「し、神聖なる王位に対して・・・」
とギリギリと歯ぎしりをたてながら言ったのである。
俺はその言葉に冷笑を浮かべると、
「何がそれほど神聖なのか理解できないが・・・。それにだ、俺が王になることに対して、賛同しない者ばかりではないぞ?」
と言ったのだった。
「な、なんじゃと!?!?」
元王が驚いたように叫ぶ。
なんだ、やはり理解できていなかったようだな。
「少なくとも周辺国の者たちからは少なくない賛同を得ている。そうだな、魔王ラーラ、それにエルフの女王エリン?」
俺がそう言うと、二人は自分の立場を思い出したのか、いつもとは異なる口調で、
「わしは魔王ラーラじゃ。こたびのナオミ・マサツグ殿の戴冠について、魔王国として歓迎する。我が国はバルク帝国の侵略に対して一時的に占領を許しておるが、マサツグ殿とともに、自国の奪還を行いたい」
「同じくエルフの女王エリンです。我が故郷であるエルフの里は、バルク帝国によって焼かれ、生き残った私が王位を継承しております。ラーラ様と同じく、ナオミ・マサツグ様の王位就任を歓迎いたしますとともに、我が両親の仇であるバルク帝国をともに討ちたく考えています」
と言ったのである。
さすが二人とも、こういう場には慣れているらしく、堂々とした立ち居振る舞いだな。
「そういうことだ。ああ、それに、妖精族の実質のトップ、王女パルメラも賛成してくれるだろう。事実、こうして俺は妖精族から叙勲も受けている」
俺はそう補足して、胸につけた白銀色に淡く光る三日月、不思議と青みがかった羽の様な象嵌を施した勲章、ルナ・フェアリー勲章を周囲へと見せたのだった。
「ま、魔王だと!?」
「に、偽物ではないのか?」
「い、いや、あれは本物じゃ。魔王国に行った際に見たことがある」
「で、ではエルフも・・・。確かにあの美しさ。エルフの森から一人生き延びたという噂は聞いておったが・・・」
「その上、月の使者と言われる妖精族とも懇意とは・・・。よほどの者にしか、あのルナ・フェアリー勲章は与えぬと聞いておるぞ・・・」
周囲の貴族から驚きの声が漏れ、明らかに態度が変わったのが分かった。
そして、ざわざとし始めたかと思うと、
「わ、わしは必ずしも反対ではないぞ」
「う、うむ。王位継承は貴族院会議で諮るべきもの。その会議を開く時間がない以上、良いとも悪いとも言えぬ」
「そ、そうじゃな。それに一時的という条件もある。戦時という緊急事態においては、検討に値する案じゃろう」
という、玉虫色ではあるが、反対ではないという声すら聞こえ始めたのであった。
それはそうだろう。
貴族とはその土地の領主だから、誰が王であろうとかまわないのである。強いて言えば、自身の土地の権益さえ守ってくれればそれでよい。そういう意味では、どの王が自分に優位かを、常に天秤にかける生き物なのだ。
周辺国との友好関係とは外交であり、まさに自身の土地の権益と結びついてくる、王の力の試される点だ。今回、俺が実際に魔王国やエルフ族、そして妖精族と友誼を結んでいるという点は、少なからずインパクトのある事実として彼らの目に映ったようである。
「どうだ、この国の貴族たちも賛同してくれる者がいるようだ。周辺国の者たちもこうして賛意を示してくれている。さて、これでも俺が王位に就く資格がないと言えるかな?」
俺がそう言うと、元王は目を剥いて、
「馬鹿な!! こんな馬鹿なっ!!?!?」
と一人、玉座の間で絶叫の声を上げたのであった。
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