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64.バルク帝国侵攻

64.バルク帝国侵攻


それは、凛とした冷たい空気の心地よい、朝焼けの映える日のことであった。


突然のどかな山村の街道に、溢れんばかりの死者の大軍が押し寄せたのである。


彼らは周囲で怯える農夫や動植物には一顧だにせず、まるで命令を受けてそれをこなすだけの人形のように淡々としていたが、しかし、ひとたび進行方向に動くものを見つけると一斉に躍りかかり、数分後には見る影もなくしてしまったという。


いや、そうではなく、自分たちの仲間へと引き込み、その葬列の大軍へと加えたのであった。


その大軍は一路、ある施設へと進路を取っていた。





「た、大変ですじゃ! マサツグ様!! バルク帝国が突然、宣戦布告をしてきたのです!!」


そう言って孤児院へ駈け込んで来たのは、ギルドマスターのゴランであった。


やはり来たか。


それにしても、俺たちがカラビル山から戻って来てから、数日とたっていないというのに、もうエイクラムは動いたようだ。


周囲には少女たちもいて、みんな固唾かたずをのんでいる。


彼の話によると、数は総勢100万に上り、大地を埋め尽くすほどだという。


また、シルビィの偵察報告によれば、すべて死者の軍団であるらしい。


どうやらエイクラムは、すでに俺がバルク帝国の乗っ取りに気づいていると察し、隠ぺい工作を諦めたようだな。


「・・・で、宣戦布告されたワルムズ王国はどう動くつもりなんだ? ギルドとしては、何か掴んでいるのか?」


俺がそう質問すると、ゴランは一瞬ポカンとした後、慌てて首を横に振った。


そして、


「い、いえ。宣戦布告先は、孤児院だとバルム帝国は申しています!!」


と言って、ぜえぜえと息を乱したのである。


「え? この孤児院が、宣戦布告先なのか?」


俺が前代未聞の出来事に驚くが、彼は何度もはっきりと首を縦に振ると、


「そ、その通りです。強いて言えば、マサツグ様が宣戦布告の対象そのものということなのでしょう」


と言ったのだった。


「個人に対して一国家が宣戦布告だなんて・・・」

「しかもマサツグ殿だけのために100万の死者の兵じゃとは・・・」

「ご主人様、すごすぎます・・・」


少女たちもそんなことを言う。


「しかし、そりゃまた・・・聞いたことのない戦争(パターン)だな?」


「は、はい。おかげさまで王国上層部は訳が分からないと大混乱におちいり、一時的に機能を停止しているようです。まあ、100万の軍団レギオンですからな。まるで神話そのものです」


ふーむ、それは悪いことをしたな・・・。


それにしても、やめてほしいものだ。あまり目立ちたくないというのに。


「し、しかし、どうなさいますか、マサツグ様。さすがに100万などという大軍相手ではさすがに・・・」


ゴランが悲愴な表情をして言った。


少女たちも不安な顔をする。


だが、俺は首を傾げると、


「いや、それは何とか出来ると思うと思うぞ?」


と言ったのである。


「えっ!?」


とゴランなどは驚くが、俺はむしろ淡々と、


「大事なのは兵の質だ。スケルトン兵やゾンビ兵が100万なら手がないわけじゃない」


そう言って、深く思考を巡らせたのだった。


「・・・むろん、俺たちだけで100万の兵士と戦えば、負けはしないが、きっと孤児院やその周囲に大きな被害が出るだろう。それでは意味がない。その防衛のためにも、こちら側に兵士が必要だが・・・冒険者ギルドで何人用意できる?」


「そうですな・・・。かき集めて500と言ったところでしょうか」


500対100万か。なかなか厳しい数字だ。一騎当千の戦士たちを集めても敗北する。


「・・・ふうむ、やはりそうか。なら仕方ないか・・・」


「申しわけございません。ここは一旦引いて、態勢を整えま・・・」


「いや、それについては俺にアテがあるんだ」


「えっ!? ひゃ、百万の死者の軍団に対抗できる兵士の数にアテがあるのですか!??!?」


ゴランが驚きの声を上げた。まあ、無理もないだろう。


「ああ、そうだ。まあ、このことは俺に預けておいてくれていい」


「は、はい。承知いたしました」


「それよりも、ワルムズ王国の状況が問題だな。混乱していてもらっては困る。よし、ひとつかつを入れに行くか」


俺はそう言って立ち上がったのであった。





「お、おい、貴様、そこでとまれ!!」


「ま、待てと言っているだろうが!!」


俺と孤児院の少女たち、そしてゴランが懐かしの王城の門の前へと辿たどくと、傲慢で人を見下したような目をした門番たちが、怒鳴り声をあげてこちらへと駆け寄って来た。


そうして、門と俺との間に立ちはだかり、今にも剣を抜き放ちそうな気配を見せる。


「貴様、なんのつもりだ。お前のような下賤の者が入れる場所ではないぞ!!」


「これ以上近づけば、首をはねるぞ!!」


などと物騒なことを言い放つ。


どうやら、俺たちを入城させないつもりらしい。


だが、残念ながら下っ端ごときと遊んでいる暇はない。


こうしている間にもバルク帝国の死者の軍団は迫っているのだ。


「すまないが、下っ端にかまっている暇はないんだ。それに、お前たちのような末端に理由を言ったところで、かわいそうだが全く意味がないから時間の無駄だ。さ、分かっただろう? そういう訳だからをわきまえて、そこをどいてもらえないだろうか? さっきから邪魔で通れないぞ?」


俺はそう丁寧に断ると、門番の制止を無視して、普通に歩き始めたのである。


だが、兵士たちは顔を真っ赤にして、


「ふ、ふざけるな!!」

「貴様ぁ、許さんぞ!!!!」


などと叫んで、俺に向かって距離を詰めて来たのである。そうして俺を取り押さえようと、タックルをするかのようにして、掴みかかってくる。


だが、


「ぐ!? な、なんだこれは?!?」

「ど、どうして動かないんだ!??!」


門番の兵士たちは悲鳴を上げながら、俺にしがみついていた。


いや、実際はそう見えるだけで、門番たちは俺をどうにかしようと、精いっぱいの力を込めているのだ。


だが、「守る(改)」のスキルが発動している俺は、当然びくともしない。


「やれやれ、うっとうしいな・・・」


俺はそう言いながらも、特に振り払うこともせず、かまわずに歩き始める。


そのために、俺につかみかかっていた兵士たちも、ズルズルと引きずられるようになるのであった。


「な、ば、バカな!? 何なのだこれは!? し、信じられん!!」


「く、くそ! とまりやがれ!!」


門番たちは歯を食いしばって叫ぶが、とうとう俺が立ち止まることはなく、兵士たち二人を引きずったまま、ワルムズ王城の門をくぐったのである。


ふうむ、ここが城門の内部か。庭がなかなか広々としているな。


俺は呑気にもそんな感想を覚える。


「ち、ちくしょう、ちくしょう」


「な、なんてこった。まんまと入城を許してしまうなんて・・・」


と、兵士たちが悔しそうに呻いていた。


「ん? なんだ、まだいたのか? 存在感が薄くて気づかなかったぞ? だが、そろそろ離れてくれないか、暑苦しいからな」


俺はそう言って二人の頭を掴むと、適当に放り投げたのである。


すると、一人は悲鳴を上げながら城の中にあった池に落ち、残りの一人は飼育小屋に頭から突っ込んだのであった。

いつも沢山の評価・ブックマークをありがとうございます。

おかげさまで大変執筆が進んでおります。

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