62.叙勲式 ~ルナ・フェアリー勲章~
62.叙勲式 ~ルナ・フェアリー勲章~
「このたびは妖精郷をお救い下さいまして、ありがとうございました。勇者マサツグ様」
「「「ありがとうございましたー!!!」」」
王女パルメラが代表してお礼を言と、それにならって、捕らわれの身から解放された他の妖精たちが、一斉に頭を下げたり、感謝の舞いを披露してくれたりした。
一部の妖精たちはワイワイキャッキャと、なぜか俺の手足に抱き着いたり、頭の上に乗って髪の毛を引っ張ったりしているのだが・・・まあ感謝してくれていると思うこととしよう。
ちなみに場所は古城の中の玉座の間である。人間も入れるサイズの部屋だ。残党狩りもすでに終わっている。
「もしもマサツグ様がいらっしゃらなければ、我々妖精は奴隷にされるか殺され、妖精郷は失われていたでしょう。こうして無事、皆と再会できたのもマサツグ様のおかげです。本当に感謝いたします」
そう言って、再び頭を下げるのであった。
「そう何度も頭を下げる必要はないさ。気にするな。別に感謝されるためにやった訳じゃない。それに、偶然とは言え、ミラを救うことも出来たからな。その点はむしろ感謝しているぐらいだ」
俺はそう口にする。
だが、パルメラは首を横に振ると、
「いえ、ぜひとも妖精郷の主として、マサツグ様を叙勲させて頂きたいと考えているのですが・・・お受け頂けますでしょうか?」
そう言ったのだった。
「おいおい、叙勲だなんて御大層なもの、俺には似合わないだろう」
俺は苦笑して辞退しようとする。
だが、パルメラは真剣な表情で、
「お願いいたします。妖精郷を救って頂いた英雄に何もしないなど、妖精族の沽券にもかかわります。なにとぞ叙勲をさせてください!」
そう言って、またもや頭を下げるのであった。
「うーん、どう考えても俺には似つかわしく無いんだが・・・。ただまあ、そこまで言うなら・・・」
俺がそう言うと、パルメラはパッと笑顔を浮かべ、
「あ、ありがとうございます。さっそく準備に入らせていただきますので!!」
そう言って、部下の妖精たちに細かな指示を出し始めるのであった。
やれやれ、そんなつもりはなかったのだがな。あまり目立ちたくないのだが、相手がそれほど望むのなら、仕方ないか。
「ご主人様、叙勲されるなんてすごいです!!」
「さすがマサツグ様ですね。まさか、妖精族から叙勲を受けることになるなんて!」
「妖精に好かれるのは~、心がきれいな人だけらしいから~、好かれるだけでもすごいのに~。まさか叙勲を受けるなんてね~」
リュシア、エリン、そしてシーが驚いた声で言った。
「ははは、別にそんなに大騒ぎするようなことじゃないだろう? 叙勲と言ったって、形式的なものだろうさ」
俺はそう言って肩をすくめる。
だが、少女たちはびっくりした表情で首を横に振ると、
「ふむ、マサツグ殿は知らぬようじゃな。妖精族が叙勲をするというのは大変なことなのじゃ。少なくともここ数百年聞いたことがない。それこそ神話に残る程度じゃ」
「しかも、妖精族の叙勲の種類は一つしかないといわれている。だからマスターが受ける叙勲は、自動的に最高位の勲章ということ」
「私も一戦士として、このような歴史書になるような場に立ち会えることを誇りに思います」
と口々に言ったのだった。
えっ、そうなのか。まいったな。そんなに大したものだとは思ってなかったのだが・・・。
「なら、ますます俺なんかが受勲すべきじゃないような・・・」
俺はそう呟いて首をひねるのだが・・・、
「いえ、我々が勲章をお与えするのは、マサツグ様しかおりません! ほ、ほら、もう準備が整いましたよ!! さあ、早く親授式を始めましょう!」
パルメラはそう言って、なかば強引に小さな体で俺を引っ張るのであった。
やれやれ、しょうがないな。俺は諦めて勲章をもらうことにしたのである。
「では早速、親授式を始めたく思います。妖精族は大戦の頃より、王と女王が長らく不在のため、わたしパルメラが王女として勲章をお渡し致します。マサツグ様、そしてその友の方々。このたびは妖精郷を、エイクラム軍の脅威よりお救い下さり、まことにありがとうございました。妖精族一同、お礼申し上げます。ですが、私は今回の出会いが偶然だとは思えないのです。今回、妖精郷はエイクラム軍に侵略され、私は部下の助けもあって、命からがら結界の外に逃げ出すことが出来ました。そこに偶然近くにいあわせたマサツグ様に助けを求めたのです。しかし、今思えばあれは運命の導きだったのでしょう。マサツグ様は異世界より、この世界を救うために召喚された勇者様だったのですから。邪神ルイクイの部下である悪鬼エイクラムが、世界を破壊するために妖精の雫を奪わんとしたところに、救世主であるマサツグ様がいらっしゃった。まさに、運命のみが出来る所業です。幸いながら、今回、マサツグ様の類稀なる武勇によって、同胞たちにはほとんど被害もありませんでした。心からお礼申し上げるとともに、この運命的、神話的ともさえ言える逸話を、永遠に忘れぬためにも、妖精族の勲章である、ルナ・フェアリー勲章をお渡ししたいと思います。この勲章を持つ者はすべての妖精が助力し、また各所にある妖精の結界へ入ることが出来ます」
彼女はそう言うと、白銀色に淡く光る三日月に、不思議と青みがかった羽の様な象嵌を施した勲章を授与して来たのであった。
「ありがたく受け取ろう」
俺はそう言ってルナ・フェアリー勲章を受け取ると、早速胸に付けてみる。
「どうだ、似合うか?」
俺がそう言うと、パルメラはカーッと頬を赤くして、
「か、かっこいい・・・」
とやや顔をうつむけながら言うのであった。
なぜ顔を隠すのだろうか?
と、そんなことを考えていると、周囲の妖精たちが、
「きゃー」
「すごいねーすごいねー」
「似合ってる似合ってるー」
「妖精族の勇者様だー」
「わーいわーい」
そんな風にキャッキャと騒ぎながら、俺にまとわりついて来たのである。
例のごとく、俺の頭や肩に座ったり、髪の毛を引っ張ったり、腕や足にしがみついたりする。
「ご主人様、とってもお似合いですよ」
「かっこいいです!」
「妖精族から勲章をもらうなんて本当に神話よね~」
「わしらも少しは手伝ったのじゃから、鼻が高いのじゃ!!」
「世界でもマスターしか持っていない勲章。とても凄い」
「さすが私の主様です」
少女たちも口々にそう言うのであった。
すると、パルメラはそんな様子を見て慌てた様に、
「あの、もう少しだけ待ってください・・・。私だって同じ気持ちなので・・・いろいろと気持ちはわかるのですが。まだマサツグ様には差し上げたいものがあるのです」
彼女がそう言うと、妖精たちは「はーい」と言って、残念そうに離れてゆく。
孤児院の少女たちも口を閉じた。
ふむ、もう一つ差し上げたいもの、か。一体何だろう?
俺が首をひねっているとパルメラが、涙滴の様な白く透明な宝石、を持ってきた。
そして、
「オリジナルの”妖精の雫”です。どうかお受け取り下さい」
と言ったのである。
オリジナルだって?
俺は思わず首を傾げたのであった。
いつも沢山の評価・ブクマをありがとうございます。
お蔭様で執筆がとても進んでいます。






