60.次元城 ~ディメンション・キャッスル~
60.次元城 ~ディメンション・キャッスル~
「ご、ご主人様でしたら、この次元の迷路を簡単に切り抜けちゃえるんですか!?」
リュシアが驚きに満ちた声で言った。
だが俺は、
「ああ、そうだ」
とあっさり頷いたのである。
「そ、そんな・・・」
「ど、どうやって」
「マサツグさんは発想力が段違いだしね~」
「すごいのじゃ・・・」
エリン、パルメラ、シー、それにラーラも驚愕や畏敬の表情を浮かべる。
別に難しいことじゃない。少しばかり頭を使えばわかることだ。
「そうだな、とりあえずスケルトン兵を一匹連れてきてくれ」
俺がそう言うと、少女たち全員が首を傾げた。
だが、リュシアが頭に疑問符を浮かべながらも、
「わ、分かりました」
と素直に頷いて、少しばかりクンクンと周囲の匂いを嗅ぐ。
そしてすぐにスケルトン兵の居場所を突き止めると、すごいスピードで駆け出したのであった。
数秒後には、倒したスケルトン兵を持ってきてくれる。
・・・が、
「あー、すまん。言い方が悪かったな。生きたまま・・・っていうのは変か。倒さずに連れてきてくれるか?」
「倒さず、ですか?」
「ああ」
俺が頷くと、再度リュシアが駆け出した。
そして、数分後には俺の言った通り、まだガチャガチャと動き続けるスケルトン兵を拘束した状態で戻って来る。
「ありがとう、リュシア。よし、それじゃあ行こうか」
俺はそのスケルトン兵を魔力の糸でがんじがらめにした後、荷物のように担ぎ上げて歩き出したのであった。
「えっ、そ、それだけで次元の迷路は大丈夫なのですか!?」
パルメラが驚きの声を上げる。
まぁ信じられないのも無理はない。だが、恐らくこれで次元の迷路を抜けられるはずなのだ。
「多分な」
俺はそう答えると、不思議そうな表情をしたままの少女たちを引き連れて、古城への道のりを進むのであった。
そうして半時間ほど歩いたころ、何回もループして見慣れた風景が徐々に無くなり始め、古城の姿が少しずつ大きくなり始めたのである。
そう、城へと近づいているのだ。
つまるところ、俺たちはあっさりと次元の迷路を抜けることに成功したのである。
少女たちは驚愕して目を見開き、
「やりましたね!! ご主人様!!」
「マサツグ様すごいです! こんなに簡単に次元の迷路を突破してしまわれるなんて!!!」
「え~、なんで通れたの~? シーにはまだよく分からない~」
「マサツグ殿にかかれば、エイクラムの腹心も形無しじゃなぁ」
「当然。マスターは普通じゃない」
「でも、本当にどうして次元のループから抜け出せたのでしょう。私にはさっぱりで」
「私もです。マサツグ様、一体どうしてなのですか?」
そう言って、みんな俺の方へキラキラとした瞳を向けるのであった。
俺は肩をすくめながら、
「単に思いついただけさ。あの古城には妖精たちが多数とらわれている。それはつまり、エイクラム軍の兵士たちが、彼女らを連行するために次元の迷路を自由に行き来しているということだ。恐らく、兵士たちは捕虜を連行するために、次元操作のスキル効果が無効になっているんだろう。だとすれば、俺たちだって生きた兵士と一緒に進めば、捕虜の連行と誤認して、通してくれるのではないかと思ったんだ」
そう説明したのである。
少女たちはその言葉に目を見開き、
「すごい、敵を利用するなんて・・・。一瞬でそこまで考えてしまわれるなんて・・・」
「敵と一緒に侵入するなんて大胆な発想、普通は出来ませんよ!!」
「シーだったら絶対無理だよ~」
「魔王のわしですら思いつかぬぞ」
「その発想力を私にも分けてほしい」
「まるでおとぎ話の勇者様のようです。あ、勇者様なのでしたね」
「主様のご慧眼には驚かされるばかりです」
などと口々に言うのであった。
やれやれ、別に大したことないんだがな。情報を取捨選択し、分析をすれば、おのずから答えは出るものなのだ。要は発想法を知っているかどうかだけの違いだ。
彼女たちだって訓練を積めば、俺と同じレベルの思考能力を手に入れる事が出来るだろう。
そうすれば今回の俺のように、相手の盲点を突くことも可能になる。
そうだな、孤児院の少女たちにそういったことも教えて行かなくては。
俺はそんなことを考えつつ、歩みを進めるのであった。
そうして、数時間後、俺の機転もあって、ついに古城へと到着したのである。
・・・が、エイクラムの腹心、ミストの罠はまだ終わっていなかったのだった。
なぜなら・・・、
「城がない・・・だと?」
そう、そこに俺たちが求めていた古城は存在していなかったのだから。
「・・・せっかく、次元の迷路を抜けたと思いましたのに」
「これは一体どうしたものだろう」
エリンとミラが仲良く困惑した表情を浮かべる。
そう、何とかエイクラム軍の拠点が置かれている古城の位置までたどり着いた俺たちだったが、そこにあるべき建物がなかったのである。たどりつく直前までは姿形があったのに、近づけば近づくほど透明となり始め、数百メートルの距離でついてに完全に消えてしまったのだ。
「ここで間違いないんですよね?」
とリュシアが聞けば、パルメラはこくりと頷き、
「は、はい。ここに相違ありません。何度も来ている場所ですから、間違いようもございませんから」
そうはっきり断言するのであった。
ふむ、これはなかなか難問だな。
そう思い、俺は考えを巡らせる。
恐らくこの現象も、悪鬼エイクラムの腹心、ミストの次元操作スキルが関係しているのだろう。俺たちがここにやって来るのをあらかじめ察知した奴は、城を異次元へと隠したのだ。まさに、次元城といったところか。同じ道をループさせたり、ゴール自体を隠したりと、厄介極まりない敵である。
「別の次元にいるとなると~、私の水の魔法も届かないわね~・・・」
「うーむ、だめじゃ! 何も思いつかん!」
どうやら少女たちはお手上げのようだ。それはそうだろう。異次元にいる相手にどうにかする手段など普通は考えつくまい。
だが、そんな驚異のスキルにも何か突破する方法があるはずだ。諦めなければきっと良いアイデアが浮かぶだろう。
・・・ん? そうか、一つ方法があるな。
だが、それには幾つかの条件を満たす必要がある。敵が隙をみせてくれれば、あるいは・・・。
俺がそんなアイデアを思いつき、どうすれば実現できるかに頭を悩ませていた、その時である!
バシュ!!
そんな鋭い音とともに、突然ミラのいた位置に刃で切り裂いたような斬撃が走ったのだ。
もちろん、ミラ本人も、そして周りにいた少女たちも、何が起こったか気づくことすらできない。
当然だろう。
何ら脈絡なく、空間に突如攻撃が加えられたのだから。
これほど完璧な不意打ちも他にあるまい。
そう、それはミストの能力を利用した、恐るべき異次元からの直接攻撃だったのである!!
「裏切者には、死を・・・」
そんな不気味な声がどこからともなく、周囲に響き渡った。
少女たちがあまりのことに驚愕する。
・・・だが、そんな中で俺は一人、思わぬ好機の到来に内心ガッツポーズをしていたのである。両腕に無傷のミラを抱きかかえながら。
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おかげ様で執筆が大変進みます。