59.次元の迷路 ~ディメンション・メイズ~
59.次元の迷路 ~ディメンション・メイズ~
「ミラを助けてくれてありがとうなのじゃ、マサツグ殿」
ラーラはそう言うと、深々と頭を下げた。
「いやいや、そんなに大したことじゃないさ。それに、ミラにはリュシアを取り戻しに来た大商人の部下を魔王国に奴隷として連れて行ってもらったりと、いろいろと世話になっているからな」
俺がそう言って首を横に振ると、ラーラは余計に尊敬のまなざしを浮かべ、
「それほどの力をもっておるのに謙遜するとは、やはり凄いのう、マサツグ殿は・・・」
などと言うのであった。
やれやれ、そんなつもりはなかったのだがな。
「それにしても、久しぶりにご主人様が直接戦うのを見ましたが、やっぱり圧巻でした!」
「しかも手加減してあれほどの強さだなんて・・・」
「ミラちゃんにかかっていた呪いも解いてしまうんだから凄いわよね~」
「マスターかっこいい・・・」
「妖精郷を救ってくださると確信しました」
他の少女たちも、口々にそんなことを言う。
おいおい、お世辞でも照れるぞ?
と、そんなやりとりを孤児院の少女たちとしていると、ミラが目覚めたらしい。
「ううん」
といううめき声を上げた後、うっすらと瞼を開けた。
そして、俺と目が合うと開口一番、
「主様・・・」
と、ほんのりと頬を染めながら、言ったのである。
「おっと、まだ寝ぼけてるのか? お前の主人はラーラだろ?」
俺は当然そう返事をする。
だが、ミラはゆっくりと首を横に振り、
「魔王様はもちろん、我が主です。しかし、マサツグ様もまた、私が仕えるにふさわしいお方です。・・・私の主様」
と、やはり潤んだ目で俺の方を見てくるのであった。
「いや、俺は別に何もしてないぞ?」
俺は首を傾げてそう言う。
しかし、
「傀儡の術は解呪できぬ恐るべき邪法。邪神の部下どもに操られ、利用されることに、戦士として深い絶望感を抱いていたのです。だから早く殺してくれと・・・そう思わぬ日はございませんでした。しかし、マサツグ様は私を殺すどころか、術から解放してくれた上に、傷まで癒してくださったのです。私を倒すことなど造作もなかったに違いないのに・・・。・・・あと、戦ってるお姿がとても恰好良かったものですから・・・」
そう言って、まるで胸の奥底に溜まった熱を吐き出すように、大きな吐息を漏らすのであった。
「おっ、おい、ミラよ!!」
ラーラが慌てた様子で声を上げる。
それはそうだろう。主人を二人持つなど、許せるはずが・・・。
「お主は7番目じゃからな!? わしですら5番目なのじゃから・・・。そこは間違うでないぞっ!?」
「へ?」
7番目とか5番目とか何を言っているのだろう。俺は首をかしげる。
だが、彼女たちの間では意味は通じているらしく、
「無論です。ラーラ様。はぁ、それにしても魔王様に主様。お二人のような主君を戴くことが出来て、戦士としてこれほど嬉しいことはございません」
「ふむ、分かっておるなら良いのじゃ。マサツグ殿に惹かれるのは仕方なきこと。それに、わしと一緒になれば、どちらも目上となるのじゃから問題あるまい」
などというやり取りがなされるのであった。
一体どういう意味なのだろう?
だが、他の少女たちも、
「まぁしょうがないですよね・・・」
「マサツグ様の場合、どうしても人を惹きつけて集めちゃうんですもんねえ・・・」
などと、妙に達観した様子で、しみじみと頷いているのであった。
ううむ、俺にはほとんど理解できないのだが・・・。いやはや、かくも女の子同士の会話というのは不思議なものである。
とりあえず孤児院で面倒をみる少女が増えたと思っておけば良いのかな。
「まあいいか。よし、それじゃあ改めて先に進むとしようか」
俺はそう言って、再び歩き始めようとする。
だが、ミラが慌てた様子で俺を呼び止め、
「お待ちください、主様。あの古城には決してたどり着くことは出来ないのです!」
と、そんな謎めいたことを言ったのだった。
「ん? それはどういうことだ? もうここから見えているってのに・・・」
俺がいぶかし気に首をひねる。
だがミラは首を横に振り、
「はい。今回のエイクラム軍の指揮官は、序列7位エイクラムの腹心中の腹心、ミストという者なのですが、奴はゴースト系の最上位クラス、マッドネス・ゴーストであり、恐るべきことに、次元を操る能力を持っているのです。奴の能力によって、古城への道のりが歪められ、途中から決して近づけないようになっているのです」
そう説明してくれたのであった。
「ふうむ、そういうことか・・・。次元を操る敵、厄介だな・・・」
「どうされますか、ご主人様?」
リュシアが聞いてくる。
「とりあえず、古城の方角へ・・・いや、今は次元城か。次元城の方角へ進んでみよう。いちおう姿は見えているのだから、何か良い手があるかもしれない」
「はい、わかりました!」
「了解です!!」
「マサツグ殿なら何とかなる気がするのじゃ!」
少女たちのそんな元気な返事を聞きながら、俺たちはミラを仲間に加え、改めて次元城を目指し歩き始めたのであった。
そうして、1時間あたりたったころから、古城との距離が全く縮まらないことに気が付いた。
それどころか、同じ場所をぐるぐると歩かされているようだ。
なるほど、ミラが説明してくれた通り、ミストの能力によって次元が歪められているみたいだな。
よく見れば古城も蜃気楼のように揺らめき、実体のない影のようになっている。
どうやら、完全に相手の術中のようである。
「このような有様なのです」
ミラが困り果てた顔で言った。
「どうしましょう・・・。このままだとお日様が隠れちゃいます」
「かといって、前に進めないんじゃ、どうしようもないし・・・」
「むむ~、困ったわね~」
「先ほど出来るだけ上空から進んでみたが、やはりダメなようじゃったからなぁ・・・。一帯の時空が歪められておるようじゃ」
「お手上げ」
「妖精郷の結界の中で、これほどの次元歪曲を起こすことが出来るなんて、手に負えません」
と他の少女たちも困惑した様子で言った。
だが、俺はそんな彼女たちの方に目を向けると、
「いや、俺に良い考えがある」
と言ったのである。
すると、少女たちから、
「・・・・・・・・・え!?」
そんな驚きの声が一斉に上げられたのであった。
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