58.決着
58.決着
上空に浮かぶ5魔皇のミラが、こちらへ魔力弾を連射してきた。
「ほう、本当に力が上昇しているようだな。リュシアたち5人を相手取っていた時よりも、魔力が数百倍に跳ね上がっている・・・。間違いなく、以前戦った災厄の龍よりも、けた外れに強いぞ?」
俺はそう感心しつつ、迫ってくる弾に備える。
そして、目の前まで来たそれらを次々に、魔力をまとった拳で打ち返して行った。
「ひえっ!? 当たったら死んじゃいます」
「マ、マサツグ様、できるだけ反対側へお願いします!!」
少女たちが悲鳴を上げている。
まぁ、気持ちはわかる。
なぜなら、俺がはじいた魔力弾が着弾した地面には、
ドカン! ドカン!
と、まるで隕石が落ちたかのような10メートル、いや20メートルほどの大穴が出来ているのだ。
孤児院の少女たちに直撃すれば、ただでは済まないだろう。
むろん、俺はそのことを理解して、絶対に当たらないようにしているのだが。
「なかなか良い攻撃だ。だが、もう終わりか?」
全弾をたたき落とし、周囲がクレーターだらけになった中心に立ちながら、俺は尋ねる。
「っ・・・!? い、いいえ! まだまだです!!!! 食らえ、インフェルノ・フレイム!!!!」
ミラは魔力弾が通じないことを悟り、次は大魔法による攻撃に切り替えたようだ。
彼女の手に魔力が収束し、原初の太陽が作り出す火炎地獄が地上に再現されようとする。
「このままでは周囲一帯が焼け野原・・・どころか、妖精郷が滅ぶな。・・・よし、エリン、こっちへ」
「は、はい!!」
俺が手招きすると、大慌てでエリンがやってくる。
「コキュートスで、ミラの魔法を相殺するんだ」
「えっ!? で、でも、あれほどの魔力ともなると、私の魔力程度では逆に飲み込まれてしまうかと・・・」
「大丈夫だ。俺の手を握れ」
「は、はひ!??!」
エリンがなぜか裏返った声を上げる。
「どうしたんだ? 変な声を出して・・・」
「な、なんでもありません!!」
そう言って彼女は俺の手をおずおずと握るのだった。
まぁいいか。
俺は深く考えずに彼女へ改めて、
「よし、呪文をとなえるんだ!」
と言ったのである。
「マ、マサツグ様がそうおっしゃるのでしたら・・・。コ、コキュートス!!」
彼女は半信半疑な様子で大魔術を放つ。
と、同時にミラのインフェルノ・フレイムも完成したようだ。
こちらへ向かって灼熱に煮立つ魔力の渦が飛んでくる。
「なっ!?」
「うそっ!?」
ミラとエリン、双方から驚きの声が漏れた。
無理もない。なぜなら、絶対に勝てないはずの魔皇ミラ相手に、エリンの魔法が拮抗していたのだから。
俺たちとミラの間でぶつかりあった大魔法同士が、互角の力でせめぎあい、時空をきしませてギチギチとした耳障りな音を立てているのである。
「ま、まさかマサツグ様が・・・」
「そうだ。俺の魔力をわずかだがエリンに流したんだ」
そう言うとエリンは、
「こ、これだけの膨大な魔力が、わずかなんて、すごい・・・」
と驚愕の表情を浮かべるのであった。
「くっ、インフェルノ・フレイムさえ、児戯扱いされるとはっ・・・」
ミラが肩で息をしながら、ゆっくりと空から降りてくる。今のでかなり魔力を使ってしまったらしい。
「どうした。まだ俺に一撃も当てられていないぞ?」
俺の言葉に、彼女は悟ったような様子で、
「このままでは、やはり勝てませんか・・・。ならば!!!」
そう言って、懐から再び妖精の雫を取り出すと、それをゴクリと飲み込んだのあった。
馬鹿が。死ぬつもりか。
「ぐぅぅぅぅぅ」
ミラが苦し気な声を上げる。
先ほどよりも更に魔力が数百倍跳ね上がったようだが、代わりに体のあちこちから血を流し始めた。
限界が近いのだ。
「もう数分ともたないでしょう。ですが、これだけの力があれば負けることはない! 行きますよ! マサツグ様!!」
「やれやれ、勝手に命を捨てる覚悟をされても困るんだがな。そんなことをされてはラーラが悲しむ・・・。まぁいい、早くかかってこい。あまり時間をかける訳にはいないようだ」
俺の言葉を合図に、双方がその場から消えた。
「ど、どこに!?」
「う、上だよ、リュシアちゃん!!」
俺たちは一瞬で上空へと舞い上がると、お互いに攻撃を繰り出していたのである。
両者の拳が重なりあって、その衝撃で地割れが起こった。
「あら~大変ね~」
「ち、地形が変わるぞ、このままでは!?」
「非常識すぎる」
シーやラーラ、クラリッサの声が聞こえた気がした。
だが、彼女たちの状況を気にする余裕はない。なぜなら・・・、
「はぁはぁ、ど、どうですか! マサツグ様!! 今の私ならマサツグ様だって倒せますよ!!」
「・・・」
「ふ、ふふふ、どうやら言葉も出ないようですね!!」
「・・・」
「何も言わないなんて、つまらないですよ、マサツグ様! さあ、これで勝負ありです、このっ・・・」
「そこかっ!」
「んぎゃ!?」
俺は相手にできた一瞬の隙をつき、彼女の首の後ろにチョップをかましたのである。
するとミラはガクンと体を震わせた後、ゆっくりとその体を落下させた後、伸びてしまうのであった。
そう、気を失っているのだ。
「ふぅ・・・。やれやれ、これだけ強い相手をうまいこと気絶させるっていうのは骨が折れるなあ」
そう、俺の不得意なスキルは、手加減、なのだ。
相当注意しないと気絶どころか、相手を間違って倒してしまう。
だから、先ほどはしゃべる余裕すら無かったのである。
「ど、どうしてミラを気絶させるだけに留めてくれたのじゃ?」
気を失ったミラを抱き起しながら、ラーラが俺に尋ねてきた。
「おいおい、お前の友達を手にかける訳ないだろう?」
俺は苦笑しながらそう言う。
すると、ラーラは感謝したように頭を下げると、
「ありがとうなのじゃ。わずかな時間とはいえ、マサツグ殿のおかげで、お別れをすることができるのじゃ。ミラにかかった傀儡の術の解法が分からぬし、そのうえ、妖精の雫をミラは取りすぎた。体が徐々に崩壊し始めておる。もはや目覚めることは無いじゃろうが、最後くらいはこうしてゆっくりと逝くのを見守って・・・」
「さ、じゃあ、うまく気絶させられたところで、ミラの傀儡の術を解いて、それから傷の手当てをするか!」
「・・・え?」
俺の言葉に、ラーラがぽかんと口を開けた。
あれ、どうしたんだ?
「俺がどうしてこんなに苦労してミラを気絶させたと思ってるんだ? 当然、彼女を救うために決まっているじゃないか」
俺はそう言うと、かつてリュシアに対してそうしたように、ミラに対して手をかざすのであった。
俺の「守る(改)」スキルが発動し、柔らかな光が彼女を飲み込んで行く。
そして数十秒後には、先ほどまで苦しそうな表情をしていたミラの姿はなく、ただのんびりと、ラーラの膝で眠る少女がいたのである。
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