57.魔皇ミラの襲撃
57.魔皇ミラの襲撃
ゾワゾワの森を抜ける小高い丘にたたずむ古城が遠くのほうに見えた。あそこに、妖精郷に侵攻中のエイクラム軍が駐屯しているのだ。
・・・が、どうやら簡単には通してくれないらしい。俺は禍々しい強力な気配を感じ取っていたのである。
そして、その存在はなぜか、懐かしい気配を漂わせていたのだった。
・・・と、どうやらそいつは情け容赦の無いタイプのようだ。なぜなら、
ドシュ! ドシュ!!
こちらに一切姿を見せず、ためらいなく死角から、すさまじい魔力波をいきなり放ってきたのだから。
完全にこちらの不意を突いて抹殺するという殺意が満ち溢れている。
「ああっ!?」
「間に合わない!?!?」
その攻撃はリュシアとエリンの二人を狙っていた。
俺のスキルで強化されている二人の反応を上回るとは、非常識と言ってよいほどの力である。
「やれやれ、二人ともまだ彼女には追い付けないのか」
俺はそう言いながら二人の前に回り込むと、その魔力波を弾き飛いて後ろにそらしたのであった。
・・・ふむ、以前より力が何十倍にもなっているようだな。
「久しぶりだな、5魔皇の一人、ミラ」
俺がそう言って上空を見上げると、額に角を生やし、悪魔のごとき尻尾を持つ少女はクスリと笑いながら、
「はっ、ご無沙汰しております、マサツグ様」
そう言って優雅に一礼したのである。
「ど、どういうことなのじゃ、ミラ!?」
魔王であるラーラが叫んだ。
「なんと、ラーラ様もいらっしゃるのですね。うまくマサツグ様に保護してもらえたようで安心いたしました。私ですか? 私はエイクラム・バルク帝国連合軍との戦いに敗北いたしまして、結果こうして“傀儡の術”をかけられてしまったのです。今は哨戒任務中だったところ、なじみ深い気配を感じましたので、赴いた次第です。ああ、ちなみにですね、こうして意識はしっかりとあるのですが、忌々しいことに逆らうことができません。ですので全力で参りますのでお覚悟を。ああ、あと、以前の私とは思わないようにして下さいね。妖精の雫の一部ではありますが、体内に取り込んでおりますから。おかげさまで、このように何百倍も強くなっているのですよ?」
ミラがそう言った瞬間、その姿が掻き消えた。
なかなかの早さだ。
一瞬でラーラの後ろに回ると、心臓を狙った拳を突き出そうとしている。
「くっ!??」
だが、ラーラも俺のスキルの支援のおかげで、はるかに強くなっている。
おかげで今の攻撃も何とか防ぐことができたようだ。
手を交差する形で急所を外している。
だが、相手の動きとパワーが圧倒的過ぎて、反撃に転じる余裕はないらしい。
ミラに連続攻撃を許し、追い込まれて行く。
「ラーラちゃん!」
「援護します!」
そんな苦戦の状況を見て、リュシアとエリンが加勢した。
「ふふふ、無粋なことだ」
だが、さすが5魔皇というべきか。
左右からの攻撃にも難なく対応する。
一旦、ラーラへの追撃の手を緩めつつ、2人からの猛攻を優雅にいなして行く。
圧倒的に手数ではリュシア、エリンのほうが多いはずなのに、一向に彼女たちの攻撃がヒットしない。
それどころか、焦って踏み込みすぎた少女たちに、カウンターを繰り出す余裕さえあるようだ。
「わっ!?」「きゃっ!?」
削られてるのは、むしろ二人の方みたいだな。
「わしも入れよ! 3人でやるぞ!」
「ちょっと~、わたしも忘れないで~、トルネードウォータ~」
「わたしも作った毒ポーション投げる」
見かねて、残りの少女たちも攻撃に加わった。
一人ひとりがS級冒険者並みの力を持つ者たち。そんな彼女たちが全力で攻撃を仕掛けているのだ。
普通の相手であればひとたまりも無かったであろう。
しかし、
「魔王様も他の方々も、その程度が全力なのですか? だとすれば失望しました」
そう言って、ミラは5人の猛攻を退屈だとばかりに欠伸をしつつ、攻撃をかわすのだった。
「く、くそ、なめおって!!」
「いけない、ラーラちゃん!!」
全く攻撃が届かないのを苛立ったのか、ラーラが不用意に間合いを詰める。
突っ込むようにしながら拳を突き出す・・・が、難なくいなされた。まずいな、勢いが付きすぎて隙だらけだ。
周りの少女たちが何かを察して悲鳴を上げた。
「残念です、魔王様」
ミラは本当に悲しそうなと声でそう呟く。だが、そんな言葉とは裏腹に、膨大な魔力を帯びた手刀を首元へ繰り出したのである。それはラーラが絶対に避けきれないスピードと威力をほこる必殺の一撃であった。
「し、しまっ・・・!??」
ラーラもしくじった、という表情を浮かべる。だが、間に合わない。
一瞬後の自分を思い浮かべて身をすくめる。
・・・が、1秒たっても10秒たっても、いつまでたってもその時は来ない。
彼女は意を決して目を開ける。すると・・・、
「あっ!?」
そう驚きの声を上げることになったのだった。
「なるほど、強くなったな、ミラ」
「・・・マサツグ様。いつの間に・・・」
彼女は傀儡の術とやらに掛かりながらも、俺へと畏怖のまなざしを向ける。
無理もないか。
なぜなら、俺は今、ミラの首根っこを猫のように、後ろから摘み上げている様な状態なのだから。
必殺の一撃が放たれようとした直後に、彼女の後ろまで移動し、摘み上げたのである。
「借り物の力とは言え、俺が今まで出会った中で一番強いな。いいだろう、手合わせしよう。かかってくるといい」
俺はそう言って彼女を掴んでいた手を離したのであった。
すると、彼女はなぜか喜びの表情を浮かべ、
「エイクラム軍に捕まった時は絶望したものですが・・・まさかこうして、またマサツグ様と矛を交えることが出来ようとは・・・。ふふふ、敗残の将には過分な報酬ですね」
そう言って、ゆっくりと上空へと浮かび上がるのであった。地の利を得るつもりなのだろう。
「言っておくが、出し惜しみをするなよ。全力でかかってこい」
「はい、もちろんですとも。いやはや、裏切り者としてどのような最期を迎えてもよいと思っていましたが・・・まさかあなた様の手で逝かせてもらうこと出来ようとは・・・。魔皇として最高の栄誉です」
「・・・んん?」
何を言っているのだ?
そう俺は思ったが、質問をする前にミラ改めて口を開く。
「情けない話ですが、今のままではまだマサツグ様にはかなわないでしょう。ですから・・・」
彼女はそう言って、懐から水色の飴玉のような物を取り出す。そして、それをゴクリと飲み込んだのである。
「ぐっ!?」
とミラがうめき声を上げた。
急激に魔力が上昇したのがわかる。十倍・・・いや、数百倍になっている!?
「ふふふ、今のが妖精の雫です・・・。急激なパワーの上昇で、もはやこの体は余り持たないでしょうが・・・ね!!」
彼女は先ほどよりも更に膨大な力をまとい、こちらへ魔力弾を放って来たのであった。
いつも沢山の評価・ブクマをありがとうございます。
お蔭さまで執筆が大変進んでいます。