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56.ゾワゾワの森を抜けろ!

56.ゾワゾワの森を抜けろ!


「どうしてナオミ様は私だとお分かりになったのですか? まったく姿が違いますのに・・・」


その美少女・・・パルメラは、窓から差し込む光に濡れる金髪を揺らしながら、意外そうな表情でたたずんでいた。


体長15cm程度の幻想的な妖精だったはずの彼女が、今は俺と同じくらいの身長の美しい少女へと変貌を遂げていた。いや、月光に照らされて背中にきらきらと光るそれは、妖精の羽であろう。その姿は神秘的ですらあり、まるで月が生んだ女神のようである。


「ははは、そりゃ分かるに決まっているだろう?」


おかしなことを言うやつだな。俺は彼女の質問に思わず噴き出してしまう。


すると彼女は、


「む~っ」


と頬を膨らませた後、


「あっ、分かりましたよ」


と、何か閃いたとでも言う風に、はたと手を打ったのである。


「こんないかにも人間用の家があって、個室まで用意されているんですから、妖精が大きくなるかもしれないと予想されたのですね?」


彼女は、どうだ、とばかりに、得意そうな顔で言ったのだった。


だが俺は、


「・・・え?いやあ、そこまでは思いつかなかったな。別に俺は探偵ではないんでね」


そう言って首を横に振るのであった。


「えっと、それじゃあどうやって・・・ 」


彼女が困惑した様子で聞いてくる。


「おいおい、何を言ってるんだ。別に大きくなっても、パルメラはパルメラだろう? 仕草は変わってないし、雰囲気だって同じさ。俺が君を間違いえるはずないだろう?」


俺は当然だとばかりに、そう言ったのだった。


すると、なぜか彼女はたちまち顔をうつむける。


だが、どういった訳か、チラリとのぞく頬や、また月光でうっすらと見える白い肌も、すごい勢いで朱に染まって行くのであった。


一体どうしたのだろう?


俺が首をひねっていると、パルメラは顔を上げる。


その瞳はなぜか潤んでいた。そして、


「私の判断に狂いはなかったようですね・・・。初めてでいろいろとつたない事かと思いますが・・・」


そう言って、自分の服に手をかけようとしたのである。


・・・がその時、


「勇者様、その、よろしければ一緒にお休みしましょう」

「私も、私もー。オネンネ、オネンネー」

「あれー? なんで姫様がいるのー?」


そう言って、やはり3人の少女が扉を開けて入ってきたのだった。


人間サイズになっているが、妖精のメリル、コルル、リンリンたちだ。


皆、驚くほどの美しさである。


「こ、これはその!?」


なぜかパルメラが慌てふためいていた。


と、そんな若干混乱し始めた時、


「ご主人様、一緒に寝ましょう・・・って、あれ?」

「・・・えっと、どちら様ですか?」

「あらあらー。あらあらー・・・」

「さすが剛毅じゃのう! マサツグ殿は!!」

「やはり胸の差か・・・」


リュシアたちもやって来てしまったのであった。


やれやれ。


結局、俺がリュシアたちに、彼女たちが妖精であることを説明し、また反対にパルメラたちに、いろいろ理由があってリュシアたちとは一緒に寝ていることを納得してもらうまで、小一時間かかったのであった。


なぜか双方とも殺気立っているというか、鬼気迫る感じだったのが、一体どうしたなのだろう?


ともかく俺はそんな彼女をなだめることとなり、最終的にはみんな一緒にひとつのベッドで眠ったのであった。なぜか、キングサイズのベッドが用意されていたので、ぎりぎり全員入ることが出来たのである。なお、妖精たちは月の力が強い夜は、こうして大きくなれるのだそうだ。だが、大きくなっても、みんなまだまだ子供だな。一人で寝るのがいやで添い寝しに来るのだから。


さて、そんなこんなで翌朝を迎えたのだった。


時間がたつほど妖精たちの被害が増えるから、ゆっくりしている暇はない。


俺たちは早速、旅立つこととしたのである。


・・・が、


「勇者様、ご武運をお祈りしております」

「ぐすぐす、絶対また遊びに来るんだよ~?」

「っていうかわたしは~、孤児院まで遊びに行きますね~」

「ふええええん、行っちゃやだああ、マサツグ様ぁぁぁああ」

「王女様だけずるい~」


またしても俺は全身を妖精たちに埋め尽くされてしまうのだった。


別れを惜しんでくれているようで、抱き疲れたり、髪の毛を引っ張られたり、はたまた匂いをいだり、かじったりしてくる。


後半部分はよく分からない反応ではあるが・・・、ともかく俺はそんな彼女たちを何とか引き離し出発することとした。


「勇者様、どうぞこれを」


・・・と、最後に妖精のメリルが何かを渡して来る。


「これは?」


どうやら指輪のようだが。


餞別せんべつの品か何かだろうか?


「1000年前の大戦時に作られた指輪です。残念ながらどういう効果があるのかは分かっていませんが、世界を救う者が身に着けるべき神器(アーティファクト)だと妖精界には伝わっています」


「しかし、そんな貴重なものをもらうわけには・・・」


俺が辞退しようとすると、


「いえ、世界に選ばれた真の勇者であるマサツグ様にこそ相応しいかと。・・・それとも、ほかにもっと相応しい方がいらっしゃいますか?」


そう言われるとな・・・。居れば代わってほしいところなのだがなあ。


「そこまで言うのならもらっておこう」


俺はため息をきながら、その神器(アーティファクト)とやらを受け取ったのであった。


そんなやりとりの後、俺たちは妖精の集落を後にした。


そうして間もなく、ゾワゾワの森、へとたどり着いたのである。


鬱蒼うっそうとした木々が茂り、いかにも何か出そうだ。


「お前たち、気をつけろよ?」


俺が注意すると、少女たちも、


「はい」


固唾かたずをのみながらうなずくのであった。


俺たちは警戒しながら進んで行く。


森に入った瞬間から、まるで誰かに見られているような感覚に襲われる。


いやな感じだ。


・・・と、俺は死角に気配を感じて、そちらに腕を伸ばす!


ガシッ!!


そんな音とともに、俺は二本の指先でギラリと鈍い光を放つ大鎌の刃を受け止めていたのであった。


「ぎい!?? な、なんだと!??!」


黒衣を羽織ったゴースト・・・死神のようなモンスターが、自らの攻撃が防がれたのを見て、驚いていた。


死角から相手の首をはねるタイプのモンスターらしい。


だが、見た目は恐ろしいが、正々堂々と戦わないところを見ると、どうやらただの見掛け倒しのようだな。


実際、あの程度の攻撃なら、防がなくても大丈夫だったろう。


おそらく、この森にいるという邪神の放ったモンスターの、そのまた手先か何かなのだ。


「お前の様な雑魚を相手をしている暇はない。さっさと、この森にいるという邪神の直接の部下の居所を言え」


俺はそう雑魚モンスターに告げる。すると、そいつは憎々しげな表情を浮かべ、


「き、貴様ぁ、こ、この我をつかまえて雑魚だと!?!? バ、バカにしおってええ!?!?!?」


と、なぜかいきなり怒りの咆哮を上げたのである。


ふむ、雑魚は雑魚なりの矜持きょうじがあったということだろうか?


それは悪いことを言ったな。俺はただ、この森に巣食うという恐るべき邪神の部下と戦いたかっただけなのだが・・・。


「もはや許さん!! 食らうがよい!! 邪神様より授けられしこの呪詛の大鎌のさびに・・・っ」


「うるさい」


俺はそう言って、


ベキッ!


と、大鎌を指先だけで鎌をへし折ったのである。そしてさらに合間をおかず、ポカンとするモンスターの首を手刀で跳ね飛ばしたのであった。


「へぎゃ?」


ころころと、モンスターの首が転がり、やがて霧のように体ごと消滅する。


やはり思った通りの雑魚モンスターだったようだな。武器もやわいし、隙だらけだった。


本命はどこにいるのだろうか? やはり森の最奥か?


「まあいい。さあ、先を急ごう。道のりは長いぞ? 邪神の放ったモンスターとやらに、いつ出くわすかも分からないから、警戒をおこたらないようにな?」


「はい!」


孤児院の少女たちが真剣な様子で返事をした。


なお、どうした訳か妖精の王女パルメラだけは、いぶかしげな表情で首をひねっているのだった。どうかしたのだろうか?


何はともあれ、そうして俺たちは森を進んで行ったのだった。


・・・が、結局のところ、俺たちはその後、先ほどのような雑魚モンスターにすら出会うこともなく、ほんの数時間ほどで森を抜けることになってしまった。


うーん、結局、邪神の放った凶悪なモンスターとは戦うことができなかったな。恐らく、俺たちの通った道にはいなかったのだろう。


できれば退治しておきたかったのだが・・・まぁ仕方ないか。


優先すべきは、まず妖精郷を襲うエイクラムの本軍をたたき、妖精たちを救うことだからな。


森の掃除は、その後でも良いだろう。


俺はそんなことを考えてながら、森の先に見える古城へと向かうのであった。


いつもたくさんの評価・ブックマークありがとうございます。

おかげさまで執筆が大変すすんでいます。

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