55.作戦会議
55.作戦会議
「・・・と言う訳で、エイクラム軍は妖精郷の最奥にある古城に根城を置いているとのことです」
「ああ、ありがとう、メリル。よく分かったよ」
「とんでもありません! このメリル、勇者様のお役に立てただけで感無量です!!」
「ほいほーい、じゃあメリルの番はおっしまいねー、マサツグ様、マサツグ様。次はこのコルルとお話しよー?」
「ああ、そうだな」
「ちょっとコルルー、マサツグ様が困ってるでしょー。マサツグ様は私たちを救うために命を賭して戦って下さってるのよ? だから、ねーマサツグさまー、今度はこのリンリンとお話をするのー」
「ああ、構わないぞ?」
「ねーねー、そんなことよりさー、マサツグ様って良い匂いがするよねー。何だか不思議な匂い~、何の匂い~?」
「ああ、多分それは石鹸の匂いだ」
「次はミーミーの番だよ~。アッチで隠れんぼして遊ぼ・・・」
「あなたたち、いい加減にしなさい!!」
室内にパルメラの声が響き渡った。
すると、彼女たち・・・妖精たちは、
「きゃー」
という悲鳴をあげて、一層俺にしがみつくのであった。
先程から10数人の妖精たちが、腕や足・・・どころか、頭や顔にまでしがみついているので、きっと傍から見たら俺の姿はほとんど見えていない事だろう。
妖精の集落を救った俺は、賓客としてもてなされることになったのである。だが、なぜか妖精たちに気に入られてしまったらしく、こうして先程から絶えず彼女たちが俺の髪の毛をいじったり、しがみついてきたり、匂いを嗅いできたりするのであった。歓待というより、じゃれ付かれているといった感じであるが。
「もうっ!」
とパルメラが、やはり不満そうな声を上げる。
なんだかやけに先程から不機嫌そうだな。
「まぁまぁパルメラ。俺は別に気にしてないさ。それに、こうやって歓迎してくれているんだろう? なら、ありがたいことだ」
俺がそう言うと、彼女は、
「え? うーん、そういう事じゃなくてですね・・・。ナオミ様ではなく私が気にするんですが・・・」
と言って、どこかジトーっとした目で俺を見るのであった。
ううん? どういう事だろう? 俺は首を傾げる。
「王女様もやったらいいじゃないですか~?」
「そうだそうだー。カマトトはいらんですよー」
「くっつくと気持ちいいですよ~? 良い匂いもするし~、何だかポカポカして眠くなります~。はにゃ~」
「なっ!?」
パルメラは顔を真っ赤にすると、口をパクパクとさせるのであった。
「も、もういいから出て行きなさい!! 真面目な話をしないといけないんですから!!!」
「きゃー」
パルメラに叱られた妖精の少女たちは、今度こそ俺から離れ、部屋から出ていったのである。
「まったくもう・・・」
彼女はそう言いながら、ちらりと俺の方を未練がましく横目で見るのであった。
「?」
だが、俺と目が合うと、咄嗟にその視線をそらしたのである。
ううむ、よくわからん。
「まあいいか。パルメラの言うとおり。妖精郷奪還のための作戦を立てないといけないからな」
俺がそう言うと、孤児院の少女たちも近寄って来て打ち合わせをする体勢になった。
「エイクラム軍の本拠地だが、どうやら妖精郷の一番奥地に存在する古城に構えられているようだ。本来ならそこまで直進するのが一番早い。だが、敵もさすがに備えているだろう。戦闘を重ねればそれだけ時間がかかり、妖精たちの被害も増える」
「だとすると、迂回ルートかしらね~?」
シーが首をかしげながら言った。
「そうだな。パルメラ、頼めるか?」
俺がそう言うと、彼女は頷いて、地図を広げる。
「今、ナオミ様のお話にもありました通り、古城までの最短ルートは、ここからまっすぐ北へと進む、カラカラ平原を横断するものです。ただし、かなりの数の敵と戦闘することを想定せねばなりません。よって、東にあるゾワゾワの森を通り、古城へたどり着きたいと思います」
「なるほど、それならこちらの戦力の消耗もなく、敵の本軍と戦えます!」
「不意打ちにもなります。名案ですね!!」
そう言って、リュシアとエリンが賛成する。
「いや、ことはそう単純じゃない」
俺が首を横に振る。
パルメラが解説を続けた。
「はい。迂回は有効な手段ですが、一点だけ問題があります。ゾワゾワの森には、凶悪なモンスターが住んでいるのです。誤って迷い込んだ多くの妖精が餌食になっています。一説によれば、かつて邪神の放ったモンスターの生き残りとのことですが・・・」
「あー邪神オルティスのモンスターは厄介なのよね~」
「ふうむ、痛し痒しといったところじゃの。どちらを取るべきか、難しいのじゃ」
「マサツグはどっちにするか、もう決めている?」
クラリッサの言葉に俺は頷く。
「ああ、今回はゾワゾワの森のルートを通ろうと思う。迷惑なことだが、俺はこの世界が選んだ勇者らしいからな。邪神の放ったモンスターがいるなら、ついでに退治して行くとしよう。早く着けるし、隠れて進むこともできる。一石三鳥だ」
そんな俺の回答に少女たちは、
「なるほど!」
「了解です!!」
と妙に気合の入った返事をかえすのであった。
こうして俺たちの基本的な行動計画が決定したのである。
さて、俺たちはその日は妖精たち集落で一泊することになった。
もともとポーション作りのためにピクニックに来ていて、パルメラと出会ったのが昼過ぎのことである。
邪神の部下たちを奈落の底に落とした時には、すでに夕方になろうとしていたのだ。
今の時刻はすでに夜。これから森の中を進むのは無理がある。
そんな訳で俺たちは、パルメラたちが人数分用意してくれた個室に分かれ、宿泊することになったのだった。
・・・ちなみに、なぜ人間用の宿があるのか疑問だったので彼女に聞いてみたのだが、
「それは秘密です」
とはぐらかされてしまった。ふむ・・・?
まぁ、とにかく、俺たちは食事を終えてしばらく談笑した後、それぞれの部屋に引き上げて横になったのだった。
ポーション作りで疲れていたのか、俺は程なくウトウトとし始める。
そんな時・・・。
キィ・・・。
と聞こえるかどうかという小さな音とともに、ゆっくりと扉が開かれたのであった。
俺に侵入が気づかれないよう細心の注意を払った行動だ。
足音も抜き足差し足・・・と言った風で、物音ひとつ立てない。
そして、背中を見せて寝転ぶ俺の傍まで来ると、その手を俺へと伸ばしたのである。
俺はすばやく動き、その侵入者の手首を掴み取ると、
「おいおい、いたずらのつもりか? やるならもう少しうまくやらないといけないぞ? パルメラ?」
そう、ため息を吐きながら言ったのだった。
・・・だが、俺の目の前にいたのは妖精ではなかった。
そこにいたのは、俺とほとんど身長の変わらない、美しい長い金髪を揺らす、透明な雰囲気を持つ美少女だったのである。
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