50.ポーションを作ってみよう! 中編 その2
50.ポーションを作ってみよう! 中編 その2
「いきます!」
そんな掛け声とともに、リュシアが魔力液に「アレグロの葉」の粉末が混ぜ合わせた。
カッと白い光がほとばしり、ポーションが調合される。
さて、結果は?
俺は鑑定スキルを発動した。
「加速のポーション(下級)」
通常の加速効果を得ることのできるポーション。魔力液とアレグロの葉を調合することで作成される。
そんな鑑定結果が俺の頭の脳裏に示されたのであった。
「やりました! ご主人様の言うとおりにやったら、初めてなのに成功しちゃいました!!」
リュシアが喜びの声を上げる。
「ははは、俺のことは関係ないさ。リュシアの実力だ。よくやったな、偉いぞ?」
俺はそう言いながら彼女の頭を撫でてやる。
すると、リュシアはケモ耳をピクピクと嬉しそうに動かしながら、
「はぅぅぅぅぅ~・・・ご主人様ぁ・・・」
と変な声を上げるのであった。
うーん、ちょっとくすぐったかったかな?
俺はそう思って程々で撫でるのをやめる。
だが、なぜか彼女はやや物足りなさそうに俺の方を見るのだった。
なんでだろうか?
と、そんなやりとりをしていると、エリンとクラリッサが口を開き、
「マサツグ様のアドバイス、本当に凄いです!! 一回でリュシアちゃんに加速のポーションを作らせちゃうなんて!!」
「他の職人が見たら裸足で逃げ出す光景・・・。ちなみに、今リュシアが作った加速のポーション(下級)なら、500ギエルで売れると思う」
と言ったのである。
「ははは、俺のアドバイスは関係ないと思うが、ともかくちゃんとしたポーションってことだな。500ギエルで売れるなんて凄いじゃないか、リュシア? 案外、ポーション職人として身を立てる事だって出来るんじゃないか?」
そんなことを俺は言う。
だが、リュシアはなぜかとても真剣な表情で、
「いえ、私が一番なりたいものは決まっていますので・・・」
と言って、俺の顔をジーッと見つめるのであった。
ふむ、他に何か就きたい職業があるのだろうか?
何はともあれ将来の希望があるのは良いことだ。
彼女がいつか巣立ってしまうと思うと寂しい気持ちもするが、それが成長するということだからなぁ。
俺がそんなことを考えていると、なぜかリュシアは俺の内心を読み取ったかのように、
「はぁ~・・・」
と、実に大きな溜息を吐いたのであった。
「?」
俺は彼女の反応に、ただ首を傾げたのである。
さて、そんなやりとりをしていると、俺がリュシアを褒める光景を、なぜか羨ましそうに見ていたラーラが、
「わしも調合してみたいのじゃ!」
と、別の野草を持ってきたのだった。
それは、ヒトデのような変わった形をしていた。
俺は早速鑑定スキルを発動してみる。すると、「ザラーム草」と出た。
やはり毒性はないようである。
俺がそう告げると、彼女はなぜか少し離れた場所に移動してから、俺を手招きした。
俺がその行動に首を傾げると、彼女の隣にある、ちょうど座るのに良さそうな平べったい石の上を、ポンポンと叩くのであった。
どうやらそこに座れということらしい。
俺は頭にハテナマークを浮かべながら、彼女の言う通りそこへ座る。
すると・・・、
「あー!?」
「ラーラちゃんズルーい!!」
「その手があったのね~」
「先を越された・・・不覚」
そんな声が、ラーラを除いた他の少女たち全員から上がるのであった。
「おっ、おいラーラ・・・」
と、俺も口を開く。
だが、それよりも早くラーラが、
「こっ、こうした方がマサツグ殿のアドバイスを聞きやすいからの!!」
と、やや早口で言うのであった。
・・・そう、彼女はなぜか、俺の膝の上に座り、ポーションを作り始めたのである。
「けど、薬研とか使いづらくないか? アドバイスなら別に膝の上じゃなくても・・・」
「ならん! この場所でなくては成功するものも成功せん!!」
そう魔王の威厳を込めた声色で、ピシャリと言うのであった。
うーむ、そんなものだろうか?
それにしても、先程から後ろから見える耳が真っ赤なのだが、なぜなのだろうか?
あと、何だかいつもより緊張しているようで、肩がこわばっているようだし。
どうにも逆効果のような気がしてならないのだが・・・。
・・・だがまぁ、このほうがアドバイスを聞きやすいというのなら、彼女の意思を尊重すべきだろう。
やる気があるのは良い事だしな。
よし、そういうことなら、俺もちゃんと教えてやるようにしよう。
「ほら、もう少し素早く磨り潰すんだ。そうしないと、粒が大きい状態で空気に晒されて固くなってしまうからな」
俺はそう言って、彼女の手を後ろから掴む。
すると、
「きゃっ!?」
と、何だか可愛らしい悲鳴が上がった。
「おっと、すまない」
さすがに手を握られるのは嫌だったのだろう。
だが、少女は勢いよく首を横に振ると、
「ち、違う!! むしろ、もっとちゃんと握るのじゃ!! う、うむ、でないとよく分からぬからな!!」
と、どこか必死な調子で言うのであった。
どうやら少しビックリしただけらしい。
良かった、それほど嫌がられている訳ではないみたいだ。
多少は心を許してくれているということだろうか?
ともかく、俺は彼女の言うとおり、少し強めに彼女の手を握ったのだった。
「はう・・・」
するとラーラは少し熱い息を吐いて、俺の胸に後頭部を預けるようにして来る。
そして、何だか猫のように俺の胸に頭をこすりつける様にするのであった。
きっと、楽な姿勢を探しているのだろう。
「よし、それじゃあ・・・」
と、俺はアドバイスを始める。
どこかラーラが上の空のような気もしたが、ともかく野草をすりつぶし、魔力液へと混ぜたのだった。
そして、少し時間が経ち、カッという光と共に調合が完了する。
さて、どうなったかな?
「暗闇のポーション(下級)」
飲むと暗闇の効果を与えることができるポーション。魔力液とザラーム草を調合することで作成される。
・・・うん、上手くいったようだな。
「よし、成功だぞ、ラーラ?」
俺がそう言うと、
「うん、ナデナデ」
と、なぜか少しばかり幼児退行したかの様な甘ったるい声で答えるのであった。
釣り目がちな大きな目も、今はトロンとしている。
そうなっている理由はよく分からないが、とりあえず俺は調合を成功させた彼女の頭を撫でてやる。
すると、先程と同様、俺の胸に頭をこすりつけながら、魔族の証である尻尾をフリフリと揺らすのであった。
ふむ、とりあえず俺に撫でられるのは嫌ではないらしい。
そんな事を考えながら、彼女の美しい銀髪を梳くようにしてやるのだった。
なぜか、更に尻尾を振る勢いが早くなった。
さて、しばらくそんな風にしていると、シーが遠慮がちに声を掛けて来たのである。
「次は私もお願いしたいな~?」
そう言って、新しい野草を持ってきた。
「はふぅ・・・。仕方ないのう。名残惜しいが、独り占めは協定違反じゃからな」
ラーラはそう言って、後ろ髪を引かれる様子で、俺の膝の上を離れる。
・・・協定とは一体なんの事だろうか?
どうやら彼女たちの間では、当然の了解事項らしいが・・・。
と、そんな事を考えている暇もなく、俺の膝の上へ当然の様にシーが座ってきた。
なぜか、とても嬉しそうにニコニコとしている。
なお、重くはない。彼女は精霊なので体重をコントロール出来るからだ。
ただ・・・、
「おいおい、さすがにシーの体の大きさだと無理があるんじゃないか?」
俺は当然の指摘をする。
これだとアドバイスしようにも、彼女の綺麗な水色の髪に隠れて、よく前が見えないからな。
だが、そんな俺の言葉にシーはたちまち笑顔を引っ込めて、丸で世界が終わるかのような悲しそうな表情になり、
「ふええええええん、そんなのヤだよ~、私すごく楽しみにしてたのに~」
とメソメソとし始めたのである。
ううん、この精霊神のお姉さんは、本当に10万歳を超えているのだろうか・・・。
俺はそんな疑問を浮かべながらも、
「いや、まぁアドバイス出来なくもないから、シーがイヤじゃないなら、別に俺は構わないんだがな。・・・それにしても、シーは美人なんだから、そんなに無防備すぎるのはどうかと思うぞ?」
と、とりあえずフォローするのであった。
すると、なぜか彼女はグズっていた表情をたちまち消し、
「び、美人!? え、えへへ~。そうなんだ~、マサツグさん私のこと、そう思ってくれてるんだ~。うへへー」
そう言って、嬉しそうに満面の笑みを浮かべ、ニコニコ、ニコニコと微笑むのであった。
うーむ、急に機嫌が戻ったな。
やはり女性というのは、誰からであっても、美人と言われたら嬉しいものなのだろうなあ。
そんな事を思っていると、他の少女たちが、
「いいなぁ・・・」
「シーさんだけズルい・・・」
「わしも言われてみたいのじゃ」
「私は・・・まだ色々足りないかも・・・」
と、何やらブツブツと言っているようであった。
うん、やっぱり女性というのは誰からであっても美人と言われたいものなのだ。
大丈夫、お前たちもちょっと考えられないくらいの美少女だから。
将来はきっと良い夫を見つけられることだろう。
俺としては、その男どもが羨ましい限りだがな。
「ねーマサツグさん、私にも早く教えて~」
そんな甘える様なシーの声に引き戻されて、俺は改めて彼女の持って来た丸い形の野草を鑑定する。
するとそれは、「ヒュプノス草」という名前であることが分かった。
早速、それを粉末状に磨り潰し始める。
彼女の手の動きはゆっくりとしているので、俺が手を添えて、やや急がせ気味に動かさせた。
この体勢だと、彼女は俺より少し身長が小さいくらいなので、何だか後ろから抱き締めているみたいで気が引けるのだがな。
だが、シーはなぜか嬉しそうにしながら、俺の言うとおりに頑張って作業を進めるのであった。
ふむ、どうやら嫌がられてはいないらしい。
俺は少しばかり安堵しながら、一緒に作業を進める。
そうして、しばらくして出来た粉末状のヒュプノスを、今度は魔力液と混ぜた。
すると淡い光が周囲へと走り、調合が完了したのである。
「さて、どうなったかな?」
俺はそう呟きつつ、シーの作ったポーションに鑑定のスキルの発動するのであった。
いつも沢山の評価・ブクマをありがとうございます。
お陰様で執筆が快調です。