49.ポーションを作ってみよう! 中編 その1
49.ポーションを作ってみよう! 中編 その1
俺は魔力液へ粉末にしたクラーレ草を混ぜた。
すると、カッと光を放ち、調合が完了する。
さて、結果はどうだったろうか?
鑑定スキルを起動し、俺はその結果を確認したのであった。
すると・・・、
ステータス鑑定
「回復のポーション(上級)」
大きな回復効果を得ることのできるポーション。純度の高い水と、質の良い魔力、並びに魔力保有量の大きいクラーレ草を揃え、調合することで作成される。ただし、調合に失敗することも多く、生産に成功するには職人としての長年の修行と才能が必要。そのため希少価値が極めて高い。
・・・ふむ、よく分からないが、いちおう今回作成したポーションは、少なくとも失敗では無かったということだろうか?
俺がそんな風に首をひねっていると、
「マサツグ様、どうだったんですか?」
エリンが興味津々な様子で聞いたきた。
「ああ、えっとな、とりあえず”回復のポーション(上級)”というものが出来たらしい」
俺は淡々と事実を述べる。
すると、エリンはなぜか目を丸くすると、
「うそ・・・1回目で成功するだけでも凄いのに・・・。ま、まさか最高レベルのポーションを作ってしまわれるなんて・・・っ!?」
そう驚いた声を上げ、言葉を失ったのだった。
ん? それってどういう意味だ?
俺が彼女の反応に付いて行けずににポカンとしていると、絶句してしまったエリンに代わって、ドワーフの少女クラリッサが説明してくれた。
「マサツグ、ポーション作りには才能が必要。特に初心者の場合、初級ポーションすら作るのには苦労する。ましてや上級ともなると、普通作れない。数十年修行したポーション職人でも、だいたい失敗するほどの難しさ。100回に1回成功すれば良いほうだと言われている」
彼女はそう言うと、俺を尊敬の眼差しで見つめてきたのである。
「おいおい、それはさすがに大げさすぎるだろう」
俺は首を横に振って否定する。
だが、そんなクラリッサの説明に、我に返ったエリンも大きく頷きつつ、
「いえ、その通りです! エルフの中でも上級ポーションを作成出来るのは、長老や数百年を生きた職人だけでした! それを一回で作ってしまわれるなんて・・・。やっぱりマサツグ様には尋常ではない才能がお有りですっ!」
そう言って、やはり俺の方にキラキラとした視線を向けるのだった。
やれやれ、彼女もどうやら人を無意識の内におだててしまうタイプらしいな。
「ははは、今回はたまたま成功しただけさ。単に運が良かっただけだろう」
俺は彼女たちの反応に、苦笑しながら答えたのである。
だが、エリンはなぜか頬をかわいく膨らませると、
「もう! 絶対偶然なんかじゃないのに! ・・・あ、そうだ。じゃあちょっと見ていて下さいね? 私が作るとどうなるか、お見せしますから」
彼女はそう言うと、近くに生えていたクラーレ草を抜いて、薬研で磨り潰し始めたのである。そして、作業が完了すると、その粉末状になったクラーレ草を、魔力液と混ぜ合わせたのだった。すると、たちまち一瞬だけ光が放出され、ポーションが調合される。
「さ、マサツグ様、鑑定してみて下さい!」
俺は彼女が何をしたいのかよく分からず、首を傾げつつも、促されるまま鑑定のスキルを発動させたのだった。
すると・・・、
「回復のポーション(下級)」
通常の回復効果を得ることのできるポーション。魔力液とクラーレ草を調合することで作成される。熟練の職人であれば安定的に生産することが可能。
そんな鑑定結果が俺の頭の脳裏に示されたのであった。
「下級?」
ハイエルフであるエリンの作ったポーションが?
一体どういうことだ?
俺がその鑑定結果に首をひねっていると、
「そうでしょう? 同じ魔力液と素材を用いても、まだ、私には下級ポーションしか作れないんです。ポーション作成への適性の高いエルフである私でさえ、上級ポーションの生産に成功した事なんて1度もないんです。だから、やっぱり、マサツグ様にはすごい才能があるんですよ!!」
と、エリンがなぜか妙に誇らしげな様子で、そんな事を言うのであった。
ううん、それにしても、俺の事をなんでそんなに嬉しそうに語るのだろうか?
実に不思議である。
そして、俺とエリンがそんなやりとりをしていると、クラリッサも口を開き、
「本当に凄いと思う。さっきの回復のポーション(上級)だって、売れば10,000ギエルにはなる」
と言ったのである。
「えっ、適当に作ったアレが、そんな値段になるのか!?」
たまたま生産出来た上級ポーションとは言え、特に意識せずに作ったものだ。
その結果にさすがにビックリする。
すると、リュシアたちも驚いた声で、
「10,000ギエルのポーションなんて聞いたことないです。本当にすごいです!!」
「私の水もちょっとはマサツグさんのお役に立てたのかしら~? だったら凄く嬉しいわ~」
「まったくマサツグ殿は、才能の塊のような男じゃなあ」
などと言うのであった。
・・・ううむ、どうやらみんな偶然俺が作った上級ポーションの話題に夢中のようだ・・・。
だが、今回この山に来た目的は、少女たちの自然学習である。
はっきり言って、俺にポーション作りの才能があろうがなかろうが、どっちでも良いのだ。
大事なのは少女たちが楽しんでいるかどうかなのである。
そんな訳で俺は、
「俺なんかのことよりも、皆もポーションを作ってみよう。楽しいぞ? 今から山頂まで登るから、途中で見つけた色々な野草でポーション作りをやってみるんだ」
そう言って、あっさりと話題を変えるのであった。
しかし、少女たちからは最初、
「私はご主人様のポーション作りを見ているだけでも楽しいですが・・・」
「私もです。エルフにはこうやって森を散策するデートがありまして・・・今日なんか丸で・・・えへへ」
「私は自分の出したお水をマサツグさんに使って貰えれば、それで十分満足だよ~」
「わしはマサツグ殿と一緒にいられれば、何でも良いのじゃ」
「マサツグが作った物を私が売る。考えるだけで、とても幸せ」
という、あまり乗り気でない返事を貰ったのである。
まぁ、確かにみんな女の子だからなあ。
きっと、あまりこういった泥臭い作業は好きではないのだろう。
だが、自然と触れ合うのも、子供の精神の成長にとっては必要なことだ。
ならば・・・、と俺は口を開き、
「一番良いポーションを作った子には、何か美味しいお菓子を食べさせてやるぞ?」
と、言ったのである。
うーん、我ながら少し子供騙しすぎるだろうか?
そんな風に俺は不安になったが、彼女たちの反応は予想以上であった。
少女全員がたちまち目の色を変えて、我先にと山を登り始めたのである。
「おーい、俺の作った安っぽいお菓子だぞ? 市販されてる高級な奴じゃないんだぞ?」
俺は彼女たちが勘違いしていると思い、そう伝えるが、
「もちろんです!!!」
という返事とともに、丸で今の言葉に一層やる気が高まったとばかりに、更にスピードアップするのであった。
うーん、どういうことだろうか?
俺は首を傾げつつ、勢いよく山を登り始めた少女たちの後を追ったのである。
そんな訳で、俺たちはピクニックしつつ、ポーション作りを間に挟むような形で進んでいった。
100メートルほど登った頃、早速リュシアが、一枚の葉っぱを見つけて俺の方にトテトテとやって来た。
イチョウのような扇型の葉っぱで、鑑定してみると、「アレグロの葉」と出る。
毒性はないようなので、彼女は早速ポーション作りを開始した。
俺はそれを眺めながら、もっと粉末は細かく磨り潰した方が良いとか、混ぜる量は少しずつ様子を見ながらの方が失敗しにくい、といったアドバイスをする。
すると隣から覗き込んでいたエリンは驚いた様子で、
「すごい・・・。マサツグ様は本当に初めてポーション作りをされたのですか? 今のマサツグ様のアドバイス通りにすれば、初心者のリュシアちゃんでも調合に成功するかもしれませんよ・・・。丸で何十年も森で暮らしたエルフみたいに的確なご指示です!!」
などと言うのであった。
やれやれ、本当にお世辞のうまい少女である。
これでいて恐ろしいほどの美少女なのだから、困ったものだ。
将来、色々な男性に勘違いされてしまうのではなかろうか?
夫になる奴は大変だな。
まぁ、こんな美しい少女に愛されるような羨ましい男性は、それくらいの苦労はしたほうが良いのかもしれないが。
ちなみに、彼女の言葉を俺が“お世辞”だと言い切るのには訳がある。
なぜなら、俺が認識するポーション作りのコツというのは、実にいい加減なものだからだ。
というのも、俺がポーションを作るとき意識しているのは、実は料理の時の感覚なのである。
つまり、どうすれば素材が無理なく調和し、美味しい味になってくれるか、という事を考えているだけなのだ。
だから、自然界の住人であるエリンや、ドワーフであるクラリッサに褒められると、何だか申し訳なくなるのであった。
と、そんな事を考えているうちに、リュシアの準備が整ったようだ。
「行きます!」
という掛け声とともに、魔力液に「アレグロの葉」の粉末が混ぜ合わされる。
そして、しばらくすると、カッと白い光がほとばしったのである。
さぁ、結果は?
いつも沢山の評価・ブックマーク本当にありがとうございます。
おかげさまで執筆がとても進んでいます!