48.ポーションを作ってみよう! 前編
48.ポーションを作ってみよう! 前編
俺たちはドワーフの少女クラリッサとの交流を深めるため、蜂蜜レモンソーダを作って宴会を開いた。宴もたけなわという頃、エリンが俺に向かってぽつりと、「マサツグ様って本当に何でも作られますよね。きっとポーション調合の才能なんかも、おありになるんでしょうね」と言ったのである。
「ポーション?」
俺はその聞きなれない言葉が気になって、エリンにそれが何なのか質問したのであった。
エリンによれば、そのポーションとやらは、
「水に魔力を溶かした魔力液に、他の素材を混ぜて作った薬品の総称です!」
との事であった。
へえ、なかなか面白そうだな。
その会話を聞いていたクラリッサが口を開き、
「確かに、マサツグなら高品質のポーションを調合する才能があると思う。きっと、お店を構えられるレベル。ただ、あまり成功するとポーションギルドが煩いかもしれない。注意が必要」
と言って来たのである。
「おいおい、何で素人の俺がいきなり成功する話になってるんだ? そんなこと出来る訳ないだろう?」
俺は苦笑して反論する。
しかし、クラリッサは真面目な表情で首を横に振ると、
「鏡作りや今のソーダ作りを見ていて分かった。職人の私から見てもマサツグの才能は相当のもの。絶対に才能がある」
などと言うのであった。
すると、他の少女たちも、
「ご主人様は手先が器用ですからね。きっと物づくりに適正があるんですよ」
「ちゃんとした道具や設備もないのに、沢山の商品をその手で開発されて来たっていう実績もありますもんね」
「そうね~、お料理をつくる時も材料の取り扱いが凄く丁寧だしね~。そういう繊細さって、素材に対する愛情から来てるんだと思うわ~。それも才能のうちよね~」
「物づくりから販売まで、何でも出来るからのう。本当に多才な男じゃよ」
と続いたのである。
やれやれ、どうやら初めて蜂蜜レモンソーダを飲んだことで、みんな少しばかりハイになっているらしい。
「ははは。さすがにそんな才能はないさ。だが、なかなか面白そうだな。今度みんなでポーション作りをやってみようか?」
俺のそんな反応に、少女たちは、
「もう、本気で言ってるのに・・・」
とブツブツと言う。
だが、ポーション作りの提案自体には乗り気なようで、
「やってみたい!!」
と言う返事がかえって来たのであった。
ふむ、それなら本当に取り組んでみるか。
素材は野草を使う事が多く、近くの”カラビル山”なら色々な種類の物が手に入るらしい。ちなみに、カラビル山は「妖精」が住む山との事だ。また、道具自体も大釜と薬研さえあれば事足りるとのことで、準備も簡単そうだ。
なら、少女たちの自然学習としても、ちょうど良いだろう。
また、クラリッサはお店のことがあるが、しばらくは鏡の生産に集中するらしく、数日ならば余裕があるとのこと。
「よし、じゃあ明日は一緒にポーションの素材集めに出かけるとするか」
俺がそう提案すると少女たちから、
「ご主人様と一緒にお出かけ。とっても嬉しいです!!」
「エルフなので野草のことは少しだけ詳しいんです!! カッコイイところお見せしますね!」
「調合用のお水のことは任せて~。マサツグさんのために最高品質のを出すからね~」
「ピクニックデート、とっても楽しみなのじゃ!」
「マスターと一緒にポーション作りが出来るなんて、職人冥利に尽きる」
という声が上がるのであった。
おお、まさか素材集めに行くのを、これほど喜んでくれるとは思わなかったな。
きっと、同じ年代の、同性の友達と遊びに出かけられることが嬉しいのだろう。
俺はそう納得すると、早速明日の準備に取り掛かるのであった。
・・・さて、そんなわけで俺たちは翌朝、早速カラビル山の麓へとやって来たのである。
まだ登山口に差し掛かったあたりだが、すでに様々な野草が生えていた。
「ああ、これがクラーレ草じゃないか?」
俺はあらかじめ教えてもらっていた野草を見つけると、何気なく呟く。「ステータス鑑定」を使うまでもなかった。・・・というか、実は野草は数が多すぎて、鑑定スキルでは探索できず、不向きなのである。
なお、クラーレ草とは”薬草”としても使われる野草だ。見た目はタンポポの葉の様にギザギザとしていて、地面に張り付く様に生えている。これを魔力液と混ぜて調合すると、「回復のポーション」が出来るとのことだ。
俺の声を耳ざとく聞きつけたエリンが、
「えっと、ちょっと見せて下さいね・・・。あっ、そうです!よく分かりましたね!!」
そう言って目を丸くする。
「おいおい、そんなに驚くことじゃないだろう?」
俺は彼女のオーバーな反応に苦笑しながらそう言ったのだった。
だが、エリンは至極真面目な顔で、
「いえ、クラーレ草には形の似た植物がとても多いんです。だから、熟練者であってもなかなか見分けがつきませんし、特に初めての方ともなれば、ほぼ不可能なんです」
などと言って否定したのである。
「ははは、大げさだなぁ」
俺はそう口にして、やはり聞き流そうとしたのだった。
すると、エリンはなぜか俺の方を見ながら、
「む~」
と不満そうに唇を尖らせたのである。
だが、そんなやりとりをしていると、
「けど、ご主人様、やっぱりクラーレ草かどうか見分けるのは難しいです。ご主人様はどうしてお分かりになられたんですか?」
そうリュシアが困った声で俺に訴えかけたのであった。
彼女の方に振り向くと、それぞれの手にクラーレ草と、それによく似た野草が握られていたのである。
「そうそう、そうなんですよ、リュシアちゃん!!」
とエリンが援護射撃を得たとばかりにリュシアに駆け寄ると、俺の方を見つめたのだった。
「こっちはクラーレ草で、調合すれば”回復のポーション”になりますが、こっちはギフト草といって”毒のポーション”になるんです。あっ、口にしない限り毒性はないから安心して下さいね。ともかく、形がそっくりでしょう? マサツグ様のように見分けることは普通出来ないんです!」
そう言ってリュシアの持つ野草について勢い込んで説明するのであった。
他の少女たちも、それぞれの野草を見比べながら、
「確かに見分けるのは難しいわね~」
「というか、わしにはどう見ても同じ野草にしか見えんのじゃが・・・」
「それは仕方ない。職人でも時々、間違って”毒のポーション”を作ってしまう時がある。だから必ず調合したポーションのうち一つは毒見する。それから市場に出す。ひと目で見分けてしまうマサツグが異常なだけ」
と口々に言うのであった。
だが、俺はやはり首をかしげると、
「うーん、そうかなぁ・・・。確かに似ているが、雰囲気が全然違うだろう? そのクラーレ草とギフト草もよく見ると、表情が違うしな」
と言ったのである。
すると、エリンはビックリした様子で息を飲み、
「マ、マサツグ様は今、植物の表情が分かるとおっしゃいましたか!?!?」
と、まるで只事では無いとでもいう風に質問して来たのだった。
「あ、ああ。まあ雰囲気の様なものだが」
俺は彼女の必死さに少し引きながら頷く。
すると、エリンは尊敬の念を瞳に浮かべ、
「エルフの長老や父様が同じことを口にされていました。エルフは植物の表情が分かる様になったら一人前だと・・・。マサツグ様は既にその域にあるのですね・・・」
そう言って、うっとりとした表情で俺のことを見上げたのである。
そして、よく聞こえないが、
「やっぱり私の・・・は、マサツグ様しか・・・」
などと、ぶつぶつと呟くのであった。
ううむ、なぜか買いかぶられているようだが、単に何となく分かっただけだからなあ・・・。
別に特別な知識なんかがある訳でもない。ただ、直感的にそれがクラーレ草だと理解出来ただけなのだ。
だから、凄くとも何ともないのだがなぁ。
まあ、俺のことなどどうでも良いか。
そんな事よりも、ポーションのことだ。
せっかくクラーレ草を見つけることが出来たのだし、早速一つ目のポーションを調合して作ってみる事にしよう。
俺は薬研を取り出すと、その場でゴリゴリとクラーレ草を磨り潰し始めたのであった。
ほどほどに細かくすれば、あとは魔力液に入れて混ぜれば良いらしい。
魔力液は水の精霊であるシーに最高純度のものを出してもらい、また魔力については魔法に秀でたエリンに注入をお願いする。
俺はそこに磨り潰したクラーレ草の粉末を注ぎ、かき混ぜたのであった。
すると、魔力と素材が反応し、カッという光を放ち調合が完了する。
さて、どんなものかな?
俺はステータス鑑定のスキルを使用し、初めて作ったポーションの効力を確かめたのであった。
すると・・・。
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