46.ソーダを作って仲良くなろう! 前編
46.ソーダを作って仲良くなろう! 前編
俺は鏡の試作品作りを無事に完了させると、ドワーフの少女クラリッサとともに孤児院に戻ってきた。
彼女もまた両親とは死別し、孤児の身の上であり、更に道具屋を経営していることから、なかなか友達が出来ないらしかった。
そこで、孤児院の少女たち・・・リュシアやエリン、それにシー、ラーラたちと仲良くなってもらえればと思い、早速連れ帰って来たのである。
ただ、テーブルを囲んで座る少女たちは、なぜかそこはかとない緊張感を漂わせるのだった。
「えーっと、お前たちどうしたんだ? もしかして俺が何かしたか?」
そう首を傾げて尋ねたのである。
だが、俺の言葉にリュシアは困った様な表情を浮かべ、
「い、いえ。ただ何と言いますか・・・。まさにご主人様を巡っての事なんですが、もはやご主人様には手の届かない事と言いますか・・・。女の子同士でないと分からない、ちょっとデリケートな問題と言いますか・・・」
などと言うのであった。
うーん、どういうことだろう?
俺は頭に疑問符を浮かべる。
だが、他の少女たちも口を開くと、
「2番は絶対譲りません!」
「私だって3番死守だよ~。精霊神の威厳ってものがあるんだから~」
「わしだってシルビィという者の次席、5番目の矜持というものがあるのじゃ!! 」
などと口々に言うのであった。
ふーむ、やっぱり全然分からん。
けどまぁ、どうやら順番が大事らしいから、きっと何か競争でもしているのだろう。
それにしても一体何の競争をしているのだろうか?
と、そんな事を考えていると、改めてリュシアが口を開いた。
「えーっと、クラリッサちゃん・・・ちょっと質問なんだけど、みんなで仲良くっていうのは、クラリッサちゃんとしては・・・どう?」
そう心配そうな表情で尋ねたのである。
俺はホッと安堵して息をつく。
なんだ、どうやらみんなで仲良くなるための話し合いだったようだ。
それにしても男同士が友達になる時の会話とは全然違うのだなぁ。
なぜだかみんな、目つきが獲物を狙う狼のように鋭くなる時があるのだから。
と、リュシアの質問を受けて、クラリッサが言った。
「私はマスターのもの。マスターにすべてを捧げると誓った。・・・だから、みんなに迷惑を掛けるつもりはない。それはきっとマサツグの望むところではないはず。それに・・・私も捨てられたら怖い・・・。きっと、生きていけない。だから、彼はみんなのもの。絶対に専有禁止。それが私たち全員の幸せにつながる」
そうして彼女はこちらをチラリと見たあと、なぜか顔を真っ赤にしてう俯いたのである。
ふむ・・・捨てられるとか、専有禁止とか、どういう意味なのだろうか?
一体全体、誰が何を捨てたり専有したりするって言うんだ?
俺はよく分からずに首を傾げ、自分なりに考えを巡らそうとする。
だが、
「その通りです! クラリッサちゃん! 一人しか選ばれないなんて不幸なだけです!!」
「ええ、これからも仲良くしましょう! みんなで幸せになるんです!」
「マサツグさんくらい大きな器を持ってる人なら、きっと何人でも大丈夫よ~」
「うむ、皆で添い遂げるのじゃ」
と、他の少女たちは口々に賛同の意を唱えるのであった。
そして、なぜか少女たちの間に横たわっていた妙な緊張感が消え、代わりに何か見えない絆・・・連帯感のようなものが生まれたのであった。
ううむ、まったく理解できん・・・。
今の会話によって、彼女たちの間に一体何が生まれたのだろうか?
俺はいくら考えても分からず、諦めて少女たちに聞いてみる。
だが、彼女たちからは、
「ご、ご主人様には、今は秘密です」
「そ、そうですね。私たちがもう少しだけ大きくなるまで待って下さい!」
「うんうん、みんなで幸せになろ~」
「いや、むしろわしらも、マサツグ殿を幸せにしてやるのじゃ!」
と、やはりよく分からない返事が返って来るのであった。
俺は困ってしまい、クラリッサの方を見る。
だが、彼女からも、
「すべてを捧げるつもりだけど、まだ色々と不足している。楽しみにしていて」
と、なぜか自分の体を見下ろしながら、淡々とした口調で言うのであった。
うーむ、女の子同士の会話というのは難解なのだなぁ・・・。
俺は理解するのを諦めつつ、何が理由かは分からないものの、ともかく少女たちが心を通わせられた事を喜んだのであった。
「まあ、仲良くなれそうで良かった。ああそうだ、せっかくなんだからお祝いしよう。みんな、ソーダっていう飲み物は知ってるか?」
俺がそう言うと、少女たちは一様に首をひねる。
ふむ、どうやら、知らないらしい。
この世界には、まだ炭酸飲料が普及していないようだな。
「とても美味しい飲み物で、簡単に出来るんだ。ちょうどいいから作ってみよう」
俺がそう言うと、クラリッサ以外の少女全員が、
「お、美味しいジュース!? じゅるり・・・っ」
「リュシアちゃん、ヨダレが! でも、気持ちはわかるよ! マサツグ様お手製のジュースだもんね!! きっと、ほっぺが落ちるくらい美味しいよ!!!」
「えへへー、マサツグさんの作るものは、どれも美味しいもんね~。とーっても楽しみ~」
「一流シェフも真っ青の腕前じゃからなぁ。ああ、早くそのソーダとやらを飲ませて欲しいのじゃ!!」
などと言って、はしゃぐのであった。
「おいおい、落ち着け。俺の腕なんて大したことないんだから」
俺はそう言って首を横に振る。
だが、反対に少女たちから、
「うーん、ご主人様には、もう少しご自身の腕前を自覚してもらいたいのですが・・・」
「マサツグ様より美味しい料理を作るシェフなんて、少なくともエルフの国にはいませんでしたよ?」
「そうよ~。私も何万年と生きてるけど、もう二度とマサツグさんほどの人は現れないと思うわ~」
「魔王国復興の暁には、是非マサツグ殿から我が国のシェフたちに料理を教えてやって欲しいのじゃ!!」
などと反論を受けてしまうのだった。
やれやれ。俺としては、ただ少女たちが喜んでくれれば、それで満足なのである。
だから、俺の腕前がプロ級かどうかなど、どうでも良いことであり、興味もない。
そんな訳で俺は、
「さ、それよりも、さっさとサイダー作りを始めるぞ?」
と、あっさりと話題を切り替えようとしたのであった。
・・・が、そんなやりとりを見ていたクラリッサから、
「そんなにマサツグは料理が上手なの?」
という質問の声が上がったのである。
俺は咄嗟に否定しようとする・・・が、それよりも早くリュシアたちが口を開き、
「そうなんですよ、クラリッサちゃん! ご主人様のお料理をもしも食べたら、その余りの美味しさに、もう二度と普通の食事には戻れなるよ!!」
「・・・これが大げさじゃないのが怖いんだよね。宮廷料理でも満足出来ない舌になっちゃうんだから」
「一緒にいるだけで幸せなのに~、世界で一番美味しい料理も食べさせてもらえるなんて~、本当に精霊神冥利に尽きるわ~。10万年以上生きてて良かったって思う~」
「マサツグ殿は本当に多才じゃが、その中でも特にコックの才能はピカイチじゃからなぁ」
などと言って肯定してしまうのであった。
「そうなんだ」
と、クラリッサが俺の方を尊敬の眼差しで見つめる。
はぁ、と俺は溜息を吐く。
俺のことなど本当にどうでも良いことだしなあ。さっさと料理を進めることとしよう。
「さあ、これから材料を言うから、ちょっと取ってきてくれるか?」
そう言って俺は、今度こそ強引に話題をサイダー作りに切り替えたのであった。
さすがに彼女たちも、俺からそう言われれば聞く態勢になる。
「さて、まずは一つ目だが・・・最近作った石鹸やホットケーキにも使った素材だ。何のことか分かるか?」
俺はせっかくだからクイズ形式にして、少女たちにヒントを出す。
すると、
「はい! はい!」
とか、
「分かったのじゃ!」
といった元気な声が上がるのであった。
ふむふむ、みんなちゃんと覚えているようだな。感心感心。
「よし、じゃあ・・・ラーラ! 答えを言ってみろ」
俺がそう言うと彼女は、
「はい、なのじゃ! 答えは重曹じゃな!!」
と答えたのである。
「お、正解だな。よく覚えてたな、偉いぞ?」
俺はそう言って頭を撫でてやる。
すると、なぜかラーラは頬を真っ赤にして、
「マ、マサツグ殿・・・」
そう呟いて、いつもはややつり目がちな瞳を、トロンとさせるのであった。
おっと、どうやらみんなの前で子供扱いしすぎたらしい。
随分恥ずかしがらせてしまったようだ。
俺は反省してすぐに手をどけようとする。
・・・が、その離そうとする手を、ラーラに物凄い力で「ぐいっ」と掴まれてしまう。
そして、
「離したらだめなのじゃ・・・」
そう悲しそうな顔で言うと、俺の手を再び自分の頭の上に誘導するのであった。
うーん、恥ずかしがっていたはずなのに、どういうことだろう?
俺は首を傾げつつ、再び頬を染めた少女の頭を撫で続けたのである。
さて、何度か延長の申し出を受け後、やっと解放してもらうと、俺は改めて2つ目の素材を少女たちに問いかけることにした。
だが先程とは少女たちの様子が違っているようで・・・、
「次に素材を当てるのは私です!」
「ううん、リュシアちゃん。今回ばかりは負けるわけにはいかないよ!」
「シーも神のひと柱として挑むよ~」
「わたしもドワーフの誇りを見せる」
と、なぜか妙に気合が入っているのであった。
うーむ、急にどうしたのだろう?
俺はただただ首を捻るのであった。
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