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44.鏡の試作品を作ろう! 前編

44.鏡の試作品を作ろう! 前編


俺はドワーフの少女、クラリッサをチンピラどもから助けたあと、俺の身の上を伝えた上で、正式に銀を使用した鏡作りを依頼した。


すると、彼女は俺の提案に驚くとともに、興奮した様子で快諾してくれたのである。さすが職人だけあって、新しい技術に目がないらしい。


ならば後は細かい契約の話だけだなと、俺は孤児院の少女たちを先に家に帰したのだった。


が、ここで想定外のことが起こった。


クラリッサが、すぐにでも試作品作りをしたいと言ってきたのである。どうやら、職人魂を刺激されてしまったらしい。


うーん、とはいえ、用意しないといけない素材があるからなぁ・・・。


俺は困った様子でそう言う。しかし、クラリッサは一層興味をかれたらしく、


「何を集めないといけない? 何でも言ってほしい」


彼女にしては珍しく、はっきりとした口調でそう言うと、俺の袖口をキュッとつかむのであった。


どうやら、感情が高ぶると相手の袖やすそを無意識にその小さな手で掴むのがクセらしい。


「別に難しい物が必要な訳じゃない。銀、アンモニア水、はちみつ、それからガラス板さえあれば、鏡は出来る」


俺は淡々と説明する。


だが、そんな俺の言葉にクラリッサは、


「マサツグすごい・・・。そんな素材から、鏡を作るなんて」


そう言って、普段は眠たそうにしている瞳を、まん丸にして驚くのであった。


「別にそれほど大したことじゃない。元いた世界で教わった知識を、単に必要だから応用しているだけさ」


俺は苦笑して首を横に振る。しかし少女は、


「そんなことない。知識は持っているだけではガラクタと同じ。だけど、自在に活用出来れば宝石にもなる。でも、それには大きな創造力という名の才能が必要。マサツグにはその能力がある。やっぱりすごい」


そう言って、熱のこもった視線を俺に向けるのであった。


やれやれ、大げさだな。


「まぁ俺の才能などどうでも良いさ。さあ、そんなことよりも、鏡の試作品作りをするんだろう?」


俺がそう言うと、クラリッサは少し不満そうに「むう、ホントに凄いのに・・・」と唸るが、結局、鏡作りについて口にする。


「たくさん教えて欲しいことがある。まず、アンモニア水とは何? どうやって作るもの? 特徴は?」


少女が俺に熱心に教えをうてくる。


その質問に俺は、


「尿をしばらく置いておくと強い臭いを発するようになるだろう? あの刺激臭のする状態がアンモニアだ。農家なんかが堆肥用に保管しているだろう?」


そう出来るだけ分かりやすく説明する。


クラリッサはその説明に酷く感心した様子で、


「・・・すごい、あれが鏡作りの材料になるなんて思いもしなかった。とても勉強になる」


そう言ってコクコクとうなずくのであった。


そして、待ちきれないとばかりに次の質問をして来る。


「蜂蜜も必要と聞いた。どうしてあんな物が必要? おやつに付ける以外の使い方なんて考えたこともなかった」


そう言って、俺の袖をつまんで来る。


どうやら想像以上に俺の言葉は彼女の関心をいてしまったらしい。


「いい質問だな。銀を溶かしてアンモニア水を混ぜ、そこに糖を加えると、銀が浮き出て来るんだ。俺の世界では銀鏡反応などと大層な言い方をしていたが、要するに銀メッキのことだな」


「だとすると、加えるのは蜂蜜でなくて、もっと安くて手に入りやすい砂糖でも良い?」


俺の言葉に、すぐにクラリッサは熱心な様子で質問を返してきた。


おお、なかなか、頭の回転が早い。


だが、残念ながら、そうはならないのだ。


「いや、砂糖の状態では、銀は抽出されない。実は砂糖というのは、細かい糖がいっぱいくっついている状態のものでな、それではダメなんだ。糖がバラバラになった状態でなければ、銀は浮き上がって来ない」


「理解した。じゃあ、蜂が集める花の蜜に、お砂糖がバラバラの状態で収まっている?」


すぐに次の質問をクラリッサは投げかけてくる。


「それも違う。蜂は花の蜜を集めた後に、自らの唾液でその糖を分解するんだ。結果的に、バラバラの状態になった糖が集められて蜂蜜になるという訳さ」


「なるほど。すごい。マサツグは博識」


そう言って少女は感動した様子で何度もうなずくのだった。


「いやいや、単に授業や図書館で学んだことを応用してるだけだってのに」


こんなことくらい高校生なら、誰だって出来て当然だろう。


だが、少女は首を横に振ると、


「ううん、知識を自然と応用出来るなんて、やっぱりすごい。さすが私の全て(マスター)


そう言って否定するのであった。


やれやれ。それほど大したことじゃないってのに。


「まあ、そんなことよりも、試作品作りを始めよう。素材はすぐに集まりそうか?」


俺が話を先に進めようとすると、なぜかポーッと俺の顔を見ていた少女はハッとした表情になり、やや慌てた様子で口を開いた。


「だ、大丈夫。それくらいならすぐに集められそう」


「そうか。溶けた銀については、さっきラーラに用意してもらっている。他の材料を頼むぞ?」


「任せて」


少女はそう言うと、材料調達を開始するのであった。


といっても、近くの農家からアンモニア水を買ってくるだけだったので、あっという間だったのだが。


蜂蜜やガラス板については、もともとお店にあったから、調達する必要すらなかったしな。


「じゃあ、早速はじめるか?」


素材をテーブルの上に置いて、向かい側に座る俺はそう言った。


すると、クラリッサはうなづいて、


「うん、お願いする」


と答えたのである。


・・・だが、なぜか彼女は、自分の椅子から立ち上がると、俺の方に歩いて来た。


そして、何を思ったか、俺の膝の上によじ登ると、そのまま躊躇ためらいなくチョコンと座ってしまったのである。


「・・・こうすれば教えてもらいやすいから」


彼女はどこか言い訳する様にそう言う。


ピンク色の髪から覗く耳が、気のせいか真っ赤になっているように見えた。


「おいおい、無理するな。確かに教わりやすいだろうが、俺の膝の上に座るなんて嫌だろう?」


俺は少女に無理をしないよう声を掛ける。


だが、クラリッサはたちまちブンブンと激しく首を横に振ると、


「嫌なわけない。むしろ、ここがいい」


と、いつもとは違う断固とした口調で言うのだった。


うーむ、分かってはいたが・・・やはりクラリッサはかなりの勉強家らしいな。


こうして俺に密着する事すらいとわずに、貪欲に知識を吸収しようとするのだから。


俺は感心し、そう言って彼女を褒めたのだった。


だが、クラリッサはこちらに振り向いて、どこか慌てた様子で、


「ち、違う。勘違いしないで欲しい。私がこんな風にするのは、マサツグだけ」


と言ったのである。


「俺だけ?」


どういう意味だろうか?


俺はよく理解できずに首をかしげる。


そんな俺の反応を見て、クラリッサが更に説明しようと口を開く。


だが、俺と目が合うと、なぜか口をパクパクとするのみで、それ以上言葉が出ないようであった。


そして、見つめ続ける俺の視線から、なぜか顔を隠すかの様に振り向き直ると、


「や、やっぱり、なんでもない! は、はやく教えて欲しい」


と早口で言うのだった。


心なしか頬が赤かったように思ったが気のせいだったろうか?


ふむ、まぁ、よく分からないが、とにかく彼女に鏡作りの方法を教えることにいなはない。


さっさとリクエストに答える事にしよう。


「よし、じゃあまずは・・・」


俺はそう言って、少女の手を後ろから握る。


実際に手を動かすのが一番分かりやすいからな。


だが、


「ひゃっ」


そんな可愛い声が少女の口から漏れた。


「どうした? ・・・ああ、手を握られるのは嫌だったか?」


俺はすまなさそうに言って手を離そうとする。


しかし、


「ち、違う。ちょっとビックリしただけ。離しちゃだめ」


そう言って、少女は必死に俺の行動を阻止しようとするのであった。


「? そうか? なら、続けるぞ?」


俺はそう言って、改めて少女の手を握り直したのである。


すると、やはりクラリッサはビクッとしたようだが、特にそれ以上反応を示すこともなく、ただ、


「マスターの手、温かい・・・」


と、どこかウットリとした声で言うのであった。


・・・うーん、なんだかさっきから、試作品作りをするような雰囲気ではなくなっている気がするのだが、どうしてなのだろう?


先程まで緊張して伸びていたはずの背中も、いつの間にか俺に体重を預け、もたれ掛かる様になってるし・・・。


まだ会って数時間だというのに、なぜこれほど彼女は俺に気を許されているのだろう。謎だ。


まぁ余り考えても仕方ないか。


俺は首をひねりつつ、


「とにかく、まずは銀液を作ろう。溶けた銀にゆっくりとアンモニア水を混ぜるんだ」


そう言って、やや無理やりながら、試作品作りを開始したのである。


いつもたくさんの評価・ブクマをありがとうございます。

おかげさまで執筆がとても進んでいます。

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