41.鏡を作ろう!
41.鏡を作ろう!
時刻は深夜。
俺たちはベッドの上に転がりながら考える。
そう、今日の昼頃にレーソンとかいう犯罪者にラーラが闇魔法、全てを溶かす水を放った時のことだ。
その魔法に触れた銀製の鎧が溶け出し、液状になって地面へ流れ落ちたのである。
俺はそれを見逃さなかった。
「間違いない。銀液だ・・・」
俺はそう呟く。
だとすれば・・・、
「鏡が作れるかもしれないな」
俺は確信を深めながら、そう言ったのであった。
すると、それをたまたま聞いていたリュシアが、
「ご主人様、い、今、鏡って・・・!? か、鏡を作ることが出来るんですか!?」
と驚いた声を上げる。
しまったな。声に出してしまっていたか・・・。
目立たないようにこっそりと進めようと考えていたのだが。
しかし、リュシアの言葉を聞いた少女たちの口からも、
「すごい・・・。鏡を作られるなんて・・・っ!! 確か物凄く作るのが大変なんで、宝石よりも価値があると言われてるんですよ!! 作り方はドワーフしか知らなくて、国を挙げて製法は秘されているのです。ただ、彼らの作るのは銅製だったはずで、マサツグ様の作ろうとされている銀製ではありません! もし銀の鏡を作るのだとしたら史上初の快挙ですよ!!」
「マサツグさんの商才はすごすぎるよ~。だって、一日ごとに世界の経済地図を塗り替えて行くんだもん」
「本当じゃよ。そなたと会ってから世の中の動きが、何百倍も早くなったような気がするわい。全然付いて行けんぞ?」
そんな言葉が聞かれるのであった。
うーむ、少女たち全員に知られてしまったか。
騒がれたくなかったんだがなあ。
そもそも、鏡を作れるくらい大したことないのだが。
しかし俺がそう言うと、少女たちは揃って首を横に振るのであった。
「ご主人様のレベルが高すぎるのは理解しますが、そろそろご自分の凄さをご認識頂きたいのですが・・・」
「そうですよ。でないと私たち、自信がなくなっちゃいます」
「そうよ~。たまには世の中を見上げるのも良いものよ~」
「うむうむ。そうじゃそうじゃ。そしてわしに構うのじゃ!」
やれやれ、大げさだな。そんなに注目されるようなことじゃないってのに。
さ、そんなことよりもだ、念のためにエリンとラーラに、もう少し確認しておこう。
「お前たち、銀鏡反応って聞いたことあるか?」
だが、二人は、
「ぎ、ぎんきょう?」
「なんなのじゃそれは?何だか強そうじゃな?」
と答えるのであった。
ふむ、やはり知らないようだ。
無理もあるまい。
銀鏡反応とは銀メッキ技術のことだ。
溶かした銀にアンモニアを加えて、あとはブドウ糖などを混ぜれば、銀メッキされるというものである。
別に記憶力の良い方ではないが、俺は自然と理科の内容を覚えていたのである。
ここまで言えば分かるだろう。
そもそも鏡とは何か?
鏡とはガラスに銀メッキを施して光を反射させたものである。
要するに、ガラス裏面で銀鏡反応を起こせば、「鏡」になるというわけだ。
まあ知らない高校生はいるまい。
蛇足だが、こういったメッキ技術というのは富の象徴なので、基本的には上流階級者が秘匿していることが多い。
エルフのお姫様であるエリンや、魔族の王様であるラーラに銀鏡反応を知っているか質問したのは、ハイソな二人がこうした銀メッキ技術を知らないならば、間違いなくこの世界にはまだ普及してない技術と考えられるからだ。
もちろん、一緒に転移してきたクラスメイトたちが既に普及させている可能性もあるが、勇者として他国との戦争に明け暮れる塵芥に、そういった知恵は見込めないだろう。
同じ人でありながら、孤児院で少女たちを養い、カラミティ・ドラゴンから世界を救いながらも、こうして世の中が真に必要とする物を提供している俺とは雲泥の差だ。
才能や人格の差から来るものなのだろうが、現実の残酷さを感じざるを得ない。
彼らを少しでも指導出来る機会があればと思うのだが、彼らからは何も言ってこない。
きっと、自らの愚かさすら自覚できないほどの非才なのだろう。
そう思うと、俺は彼らの哀れさに思わず心を痛めるのであった。
だが、そうした彼らの暗愚さゆえ、孤児院の安定的な収入源が確保できそうである。
彼らの低脳さも役に立つということだ。
そう思うと少しおかしかった。
そんな訳で俺は早速、明日から鏡作りの開始を宣言したのだった。
翌朝、俺たちは居間に集まると、銀メッキによる鏡作成のための準備を開始する。
まずは材料調達からだ。
必要なのは、銀、アンモニア水、ブドウ糖である。
「さて、まずは銀だな」
俺がそう呟くと、少女たちが「きらり」と目を輝かせて、物凄い速さでどこかに走り去った。
・・・と思ったらすぐに戻ってくる。
なぜか息を切らせて、自分が一番早かったとアピールして来る。一体なぜだろうか?
と、それぞれの手には「平べったい何か」が何枚も握られていた。
それは・・・、
「・・・銀貨か。まぁ正解だな」
俺がそう言うと少女たちは嬉しそうに微笑み、「やった」「やりました!」「正解ですって~」「役に立ったのじゃ!」と喜ぶのであった。
どうやら、少しでも俺の役に立ちたいと言う事らしい。
健気で可愛らしいものだ。
と、そんな事を思っていると、ズイ、と頭を差し出して来た。
なるほど、少女たちの中では、正解すると撫でてもらえるルールらしい。
主催の俺は聞いていないんだがな・・・。
まぁいいか、と俺は苦笑いを浮かべてから、少女たちの頭を撫でてやる。
少女たちの口から嬉しそうな声が上がった。
やれやれ、頭を撫でてやっただけで大げさだな。
「さて、次だな。アンモニア水だが・・・」
俺はそこまで言って少女たちの顔を見る。だが、今度は全員が真剣な表情で「うーん、うーん」と唸っている。
どうやら、それが何かすら分からないらしい。まぁ仕方あるまい。
ちなみに、理科で習ったとおり、尿そのものはアンモニアではない。尿を細菌が分解するとアンモニアが生成されるのだ。
そんなわけで、ぶっちゃけ尿から作る訳なのだが・・・。
とは言え、それを年頃の少女たちに伝えるのも少しデリカシーに欠けるだろう。
「多分、農家が堆肥の材料として貯蔵しているはずだから、それを貰いに行くことにしよう」
とぼかして伝える。
「さすがご主人様です。とても博識ですね!」
「農学まで修められているなんて、凄いです!」
「やっぱり知識の応用力が尋常じゃないのよね~」
「知らないことは無いのではないか?」
などと少女たちは言ってくる。
やれやれ、少しばかり知識を応用しているだけで、誇るほどのものでもないがな。
俺は肩をすくめて、次の話題へ移るのであった。
「さあ、最後はブドウ糖だが、何か分かるか?」
俺がそう言うと、やはりリュシアたちが一様に首をひねる。
だが、エリンだけは何か思いついたらしい。
ぽん! と手を叩いて口を開いた。
「ブドウの糖、と言うくらいなのですから、ブドウやお砂糖と関係があるんじゃないでしょうか!」
そう言ってキラキラと期待のこもった目で俺を見つめる。
「お、なかなか鋭いな。ほとんど正解だぞ」
俺がそう言うとエリンが、
「や、やりました! 褒められちゃいました!!」
と可愛らしく笑うのであった。
俺が頭を撫でてやると、エリンは更に破顔する。
さて、
「まあ詳細を言えば、砂糖そのままの状態ではダメでな。銀液には反応せず、メッキにならないんだ。反応させるには、この砂糖を分解して取り出すブドウ糖が必要なんだ・・・が、この世界でそれをするのは多分難しいだろう。というわけで、自然界にある天然のブドウ糖を使うことにする」
俺がそう言うと、少女たちが皆、頭の上に、
「???????」
を浮かべて首をひねる。さすがに高度過ぎたらしい。
もう少し簡単に言うとしよう。
「ヒントはこの前食べた甘い食べ物だ。あれを使う」
そう言うと少女たちはみんな思いついたらしく、一斉に、
「はちみつ!!!」
と答えるのであった。
正解だ。ホットケーキを食べたところだから、よく覚えていたのだろう。
そう、ハチが花から蜜を集めて蜂蜜を作る過程で、特別な酵素が出す。それによって糖が分解されてブドウ糖になるのである。
蜂蜜とは自然界に存在する天然のブドウ糖なのだ。
というわけで、銀、アンモニア、ブドウ糖を確保する目処が立った。
あとは鏡作りを実行するのみだ。
・・・とはいえ、俺たちが自ら製造するのは限界があるだろう。
銀をラーラに闇魔法で溶かしてもらったら、あとの工程は外注することにしよう。何を使っているかは秘匿する必要があるので、誰に作らせるかは慎重さが必要だな。それに、ある程度の量産体制が必要だ。
・・・ああ、そう言えば、いちおうこの国にもドワーフがいるんだったな。
だが、ドワーフ国から追い出されてしまったワケありが多かったはずだ。
とはいえ、腕は確かだろう。少しアプローチしてみるか?
俺はそんなことを考え、具体的なプランを練り始めるのであった。
いつも沢山の評価・ブクマをしていただきありがとうございます。
お陰様で執筆が大変進みます。






