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38.温泉で語り合おう! 後編

38.温泉で語り合おう! 後編


俺は洗いっこが終わると、なぜかウットリとした表情の少女たちとともに再び湯船につかる。そうして、ラーラから事情を聞くことにしたのである。


「なるほど、魔王国イシュタールは、悪鬼エイクラム軍に滅ぼされてしまったという訳か」


俺の言葉に、湯船に浸かる魔王ラーラは銀髪を揺らして頷いた。


「うむ。厳密にはバルク帝国との連合軍だったようじゃがな。魔皇たちが各地へ出陣した隙をつかれた。まぁ今から思えばそれも陽動じゃったのかもしれん。いずれにせよ多勢に無勢、わしは城の者を逃すと同時に、ミラがよく口にしていたマサツグ殿に助けを求めるため、ここまで逃げてきたのじゃ。だが、逃亡する中で魔力も尽き、ついに悪鬼の右腕と呼ばれた大魔導アラハムに急襲され最期かと思ったとき、そなたがまるでナイトのように助けてくれたという訳じゃ」


そう言って俺を見つめて、ほんのりと頬を染めるのであった。


ふむ、少しお湯が熱すぎるのかな?


まぁ、そんな事はともかく、バルク帝国か。確かエリンの森を焼いたのもその国だったはずだ。


何やらきな臭いな。


「それで、これからどうするつもりなんだ?」


俺の質問にラーラは真剣な表情になると、


「お願いじゃ、マサツグ殿!! わしと一緒に、どうか我が魔王国を救って欲しい!!!!」


そう言って、すがるような視線を俺へと向けたのである。


俺はその唐突な依頼に、


「おいおい、いきなり何を言い出すんだ?」


と笑って受け流そうとする。


だが、そんな俺の態度に関わらず、ラーラはなおも真面目な表情で詰め寄って来ると、


「頼む、この通りじゃ!! 頼れるのはマサツグ殿しかおらぬ!! エイクラム軍は強力じゃ! 特に奴の使う死霊術は死者を操る外法。不死者の軍団の恐るべき力に対抗できるのは、マサツグ殿をおいて他にはおらぬ!!!」


そう必死に懇願して来るのであった。


しかし、俺は首を横に振ると、


「俺には孤児院の運営があるんだ。だから、ここを離れる訳にはいかない。すまないが、ラーラの要望にはこたえれそうにない」


と言って断ったのである。


俺のそんな答えにラーラはガックリと肩を落とし、


「そんな・・・。うぅ、な、何とかならんのか・・?」


そう言って目に涙を浮かべると、すがるように身を寄せて来るのだった。


うーん、このままでは可哀想だな。


何か良い方法はないものだろうか。


・・・ああ、そうだ!!


「なら、ラーラもここに住めば良いんじゃないか?」


「えっ!? わ、わしが孤児院にか? た、確かに親はおらんし、孤児と言えば孤児じゃが・・・」


ラーラはよく分からないといった風に首を傾げる。


だが、日頃から俺が戦略というものを教えているリュシアたちには、俺の意図を察することが出来たらしく、


「さすが、ご主人様です!! すごい作戦です!! ご主人様の近くにいればラーラちゃんは絶対に安全ですもんね!!」


「そうですね。マサツグ様がいらっしゃるんですから身の危険はありません。そして、そうやって時間を稼ぐうちに、やがて各地で散り散りになっていた魔族の人たちも集まって来るでしょう」


「そうね~、マサツグさんの言うとおりね~。単身で魔王国に戻るのは無謀よ~。国が心配でもここは雌伏の時かな~。孤児院で魔王国の大リーダー、ラーラちゃんを完璧に守りつつ~、反撃の準備も整える。まさに一石二鳥の戦略ね~」


と口々に言うのであった。


「ふむ、どうやらみんな日々、俺から色々なことを学び取っているようだな。正解だ。よく分かったな」


俺がそう言って褒めると、少女たちは嬉しそうに微笑むのであった。


そんなやりとりを見ていたラーラも、やっと俺の考えが理解出来たらしく、目に尊敬の念を瞳に浮かべて、


「す、すごいのじゃ。わしはすぐに反攻作戦に移ることばかり考えておったが、それでは一瞬で敵に捕まり、本当に祖国は滅びるじゃろう。今は、どこか安全な場所に拠点を構え、散り散りになった戦力を糾合ところから始めねばならぬ時じゃ。・・・ありがとう、マサツグ殿。わしは冷静ではなかったようじゃ」


そう言って俺に深い感謝の念を示したのである。


「礼なんていいさ。俺は単に、過去の戦史から、順当な案を提案しただけなんだから。大したことじゃない」


そう俺は首を横に振る。


だが、ラーラはなぜかそんな俺の様子を見て、更に尊敬の色を深くすると、


「いや、一瞬でここまでの戦略を思いつくなど、並大抵のことではない。我が魔王国でも、マサツグ殿ほどの軍師はついぞおらんかった。そなたがいれば、我が国が敗戦することもなかったじゃろうに・・・」


と言うのであった。


やれやれ、俺はただ自然に思いついた事を、伝えただけなのだがな。


特別な訓練を受けたこともないから、単に発想力が並外れているだけなのだ。


だから、余り褒められても困ってしまう。俺としては自然と浮かんで来た事を言っただけで、別にアイデアという程のものではないのだからなあ。


「じゃが、本当に良いのか、マサツグ殿? 知っておるじゃろう。ここワルムズ王国は、そもそも魔王国イシュタールと敵対しておる。かつて友好的な時代もあったが、ここ30年ほどは国境の水資源をめぐって戦争続きじゃ。この国が異世界からの勇者召喚の儀式を復活させたのも、我が国に対抗するためじゃ。まぁ、そなたは他の勇者どもとは違うというのはよく分かっておるが・・・。じゃが、基本的にはこの国の人間、そして異世界の勇者どもは魔族を敵視しておる。ワルムズに魔族の住民がいない訳ではないが、肩身の狭い思いをしていると聞く。そんな状況なのに、それでもお主はわしを孤児院に迎えてくれるというのか?」


「もちろんだ」


俺は悩むことなく即答した。


「なっ!?」


と、聞いてきた魔王自身がなぜか逆に驚き、口をパクパクとしている。


「ふふふ、おいおい、何でラーラがびっくりしてるんだ?」


俺は彼女の様子がおかしくて思わず吹き出してしまう。


「マ、マサツグ殿!! そ、そんな・・・国と敵対するような大事だいじを、そんなにすぐに決めてしまって良いのか!? こ、後悔はせんか!?」


そう言って、ザブリとお湯をかき分けて詰め寄ってくるのであった。


だが、そんなラーラの言葉に、周りにいた少女たちが口を開いて、


「ラーラちゃんは思い違いをされてます。ご主人様にとって、国なんて何の制約でもありません」


「そうよ、ラーラちゃん。マサツグ様にとっては世界がどうなるか、という視点で物事を見ていらっしゃるんだから。この国と敵対するかしないか、なんてマサツグ様の判断に影響しないのよ?」


「この前もワルムズの精鋭軍を一瞬で壊滅させたしね~。そもそもマサツグさんが最上位の法なんだよ~? だからワルムズ国がそれに違反するような行動をしたら、マサツグさんは上位者として、国に処罰を与えないといけない立場なんだから~」


などと言うのであった。


ふむ、まぁそういうことだな。俺は首を横に振りながら、


「ワルムズ国の法や政策には、俺がまだ教育を与えられておらず問題が多い。今の王や貴族たちには、そのうち俺が学ぶ機会を与えてやるつもりだ。だが、付いてこれない者には罷免ひめんを言い渡し首にしようと思う」


と言ったのである。


するとラーラは、


「す、すごいのじゃ・・・。そのような大きなスケールで物事を見ているだなんて・・・。ミラがなぜあれほどマサツグ殿に心酔しておったのか、やっと分かったような気がする。そう、力だけではないのじゃな。その人としての器の大きさ、世を治める統治者としての資質、心の広さ、溢れんばかりの才能・・・。そうしたあらゆるものがマサツグ殿には備わっているのじゃ」


そう言って、深い尊敬の念を瞳に浮かべたのだった。


「まぁ、そういうことだ。だから孤児院に住んでもらうことは問題ない」


俺のその言葉に、ラーラは感動した面持ちで、


「はいなのじゃ!」


と幼い少女らしい元気さで答え、ひっついてくるのであった。


さて、俺はそんなラーラや、それを羨ましがってやはりくっついてくる少女たちの頭を撫でながら、別のことを考える。


バルク帝国。


かつてエリンを狙っていた大陸最強の密偵部隊を備えていた国だ。


そいつらは俺が以前、一瞬で壊滅させたわけだが、邪神の部下と一緒に魔王国を襲撃するとは、やはり不穏な動きをしているようだな。


少しシルビィに言って、調べさせるとしよう。


それから、あと少し気になるのはミラの居場所だ。


他国へ出陣していたということだが、その後の連絡はないとのこと。


気にしないフリをしているが、ラーラは内心でとても心配しているようだ。


こちらについても他の魔皇の動向も含めてシルビィに調べさせておくか。


やれやれ、それにしても俺は孤児院の経営に集中したいのだが、なんでこう世界の動乱の中心に巻き込まれてしまうのだろうか。まったく困ったものだ。


そんなことを考えて、俺は「ふぅ」とこっそり溜息を吐くのであった。


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