36.悪鬼エイクラムからの刺客
36.新たなる敵 ~悪鬼エイクラムからの刺客~
俺とリュシアがお昼ご飯を食べながら談笑しているとき、
「お主たち逃げよ! ここに居ては危険じゃ!!」
「わっはっはっは、 もう遅いわ!!! 我という序列7位、悪鬼エイクラム様の右腕と言われし大魔導アルハム様に狙われたのが運の尽きよ!!! 我が大魔法エラライトの露と消えよ」
そんな声が響き渡ったのである。
追われているのはぼろぼろのフードを目深にかぶった人物で、体型から女性だと分かった。
もう一人は長身の魔術師の男だ。
その男から女に向かって巨大な燃え滾る火球が放たれる。
その大きさはゆうに10メートルは超えており、もはや隕石と形容する方が正しい。
着弾すれば女性もろとも、周囲一帯が灰燼に帰すことは間違いないだろう。
周囲の客たちがテーブルや椅子を蹴倒して逃げ出そうとするが、とても間に合わない。
「ふん、つまらん。さっさと我が煉獄の腕の中で焼け死ぬがよい」
「くうっ!!!」
男の嘲笑と、フード女性の悲壮な声が響き渡る。
周囲には絶望の悲鳴が上がった。
そして・・・。
「おい、昼食中だぞ? 少し静かにしないか」
俺はそう言って注意すると、火球の前に一瞬で移動し、息を軽く「ふぅ」と吹きかけたのである。
すると、あれほどの威力をほこっていた隕石が、嘘のようにかき消されたのであった。
「なぁ!?!?!?!??」
大魔法エラライトとやらを放った男が、悲鳴のような間の抜けた声を上げた。
「す、すごい・・・」
一方、フードの女性は信じられないと言わんばかりに、俺へ驚愕の視線を向ける。
やれやれ、そんなに驚かれるほどのことじゃないんだがな。
俺にとっては小指を動かすより楽なことなのだ。
なにせ本当に息をしただけなんだからなあ。
「き、貴様ぁ、一体何をした!?このアルハム様の大魔法を防ぐなど考えられん!!! そ、そうかっ!!! 相当高位なアイテムを使ったんだな!??!?! おのれええええ卑怯なマネを!!!!」
などと、魔術師の男が興奮した様子でまくし立ててくる。
俺はそんな男の様子に思わず吹き出すと、
「はぁ? あんな雑魚魔法にアイテムなど使うわけないだろ? それよりお前は初心者魔術師だな? なら教えておいてやるが、街中での魔法は使用禁止だ。初心者らしく、まずは基礎から学べ」
そう言って、マナー違反の初心者魔術師に注意を与えてやるのであった。
だが、そんな俺の言葉に男はなぜか、
「ぐぅぅぅぅううううううう、き、貴様ぁぁぁあああああああ、こ、この我を初心者扱いとは絶対に許さんぞ!!!! 奇跡は二度起こらん!!! 我が本気の魔術で骨ごと焼き尽くされるがいい!!!!!!!!」
そう叫んで激高すると、、先ほどの倍はあろうかという火球を頭上に作り出したのである。
「ぐわーはっはっはっは、どうだ恐ろしかろう!!!! 我が大魔術の驚異に震え上がるがいい!!!!」
そんな魔術師の姿に俺は憐憫の情をもよおし、
「お、おい、その程度で本気だってのか? 冗談だろう? その序列7位のエイクラムってやつも相当小物っぽいな・・・。お前みたいな初級魔法しか使えない奴を右腕にしないといけないなんて・・・」
そう言って同情したのである。
「ぎ、ぎさまああああああ!!!!! 我のみならずエイクラム様まで馬鹿にするとは!!! 絶対に絶対に許さんぞおおおおおおおお!!! お前も含め、皆灰塵に帰すがいい!!!!!!!!!」
アルハムは食いしばった口から血を流しながら絶叫すると、ついに頭上に浮かべた強大隕石と見紛う火球を大地へ急降下させ始めたのである。
「ふ、ふは・・・ふはははは!!! 死ね! みんな死んでしまえ!!!」
そう言ってアルハムは狂ったように笑う。
だが、
「だから、街中で魔法の練習は禁止だって言ってるだろう? こういう弱小魔法でも、使用禁止なんだ。わかるか、初級魔法使い?」
そう言って俺は人差し指でピンッ! と火球を弾いてやったのである。
するとたちまち、地面へ急降下していたはずの火球は空へと弾き飛ばされ、一瞬で見えなくなってしまうのであった。
「なっなっなっ・・・」
アルハムは口をあんぐりと開けて呆然とする。どうやら驚きすぎて言葉にならないようだ。
「す、すごすぎる・・・一体この男は何者なのじゃ・・・」
フードの女性が改めて俺をまじまじと見つめた。
と、そんなやりとりをしていると、リュシアが俺のいるところまでやってきた。それに、なぜかエリンとシーも一緒である。
「すごいです・・・ご主人様。あれほど強力な魔法をものともしないなんて。私なんて突然のことにびっくりして身体がすくんじゃってました」
「そりゃそうだよ、リュシアちゃん。あんな魔法、私の100万分の1の威力もないけど、その私の魔法がマサツグ様にとったら子供のお遊戯なんだから」
「ほんとよね~。精霊神の私の何万倍もの魔力を持ってるんだから反則よ~」
そんなことをやって来るなり言うのであった。
だが、俺は彼女たちの言葉に首を横に振ると、
「いや、大したことじゃない。それに魔力なんて幾らあっても仕方ないさ。それをどう使うかが大事なんだ」
そう言って否定するのであった。
だが、逆に少女たちは感動した面持ちになり、
「すごい・・・魔力が大きさでなく、どう使うか・・・。そんな斬新な考え方があるなんて・・・」
「威力ばかりを追い求めてきた魔法界に一石を投じる画期的な指摘だと思います」
「ほんとよ~。神様なみの魔力を持ってるのにマサツグさんが完全に制御できてるのは~、きっとその崇高な理念があるからなんでしょうね~」
などと口々に言うのであった。
「やれやれ、さ、そんなことよりも今は目の前のことに集中するんだ」
俺が軽くたしなめると少女たちは焦った様子で、
「は、はい!!」
と返事をするのであった。
だが・・・、
「く、くそっ!! こ、ここはひとまず一旦撤退だ!!」
俺の圧倒的な力を見て恐怖に駆られたアラハムは、踵を返し、脱兎のごとく逃げ出そうとする。
「お、覚えていろよ!! 次会うときは貴様の最後だと思え!! はーはっは・・・」
しかし・・・、
「はーっはっは・・・ぎゃああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
それを許すほど、俺は間抜けではない。
背中を見せたアラハムの太ももに、俺は近くのテーブルから拝借したフォークを投げつけたのである。
足の甲に深々とささったそれは、男を地面に縫いとめたのであった。
アラハムはその激痛に耐えかねて、
「く、くそ!! ぬ、抜けぬ、抜けぬぞ!!!! ぐおおおおお、い、いだいいいいいいいいいいいいいい!! ぢ、ぢくしょう!!! これを抜けえええええええええええ!!!! 」
そんな哀れな悲鳴を上げながら地面をのたうち回る。
すぐに土埃に塗れて泥だらけになった。
「なんだ、こっちの足のほうが良かったか?」
俺はそう言って右足の甲に刺さっていたナイフを抜くと、次は左足の甲へと突き立てる。
「んぎああああああああああああああああああああ!?!?!?!!!!!!!!」
そんな絶叫を上げながら、男は更に地面をのたうち回ると、びくびくと震えるのであった。
その光景を見ていたこちらの女性陣からは、
「ご、ご主人様ぁ・・・何だか気持ち悪いです・・・」
「マ、マサツグ様の、お、お手伝いするつもりでしたが、近づきたくないですね・・・」
「シーもやだよー・・・」
という怯えた声が上がるのであった。
はぁ、やれやれ。俺は泣き出しそうになっている男へ仕方なく告げる。
「おい雑魚魔法つかい。みんな気持ち悪がってるから早く帰ってくれ。えっと・・・確かお前の上司はエイクラムだったな? お前のような雑魚を右腕にしてるくらいだから、所詮同じレベルの間抜けな奴なんだろうが・・・とりあえず、よく伝えておけ。部下のお前が多大な迷惑を俺たちにかけたから、一度直接謝罪しに来い、と。それで許してやるからとな」
そう寛容に言ったのである。
だが、男はなぜか、
「ぐううううう、ぢ、ぢぎしょお・・・・、ゆ、許さぬ・・・絶対に許さぬぞ・・・」
と怨嗟のこもった半泣きの声で呻くのであった。
と、その時である。
「同胞たちの仇じゃ!!!!」
そう言って男の後ろからフード姿の女性が襲いかかり、無防備な心臓を自らの手で一突きにしたのである。
「んげえ!!!」
既に全魔力を使い切っていたアラハムは、そんな豚のような悲鳴を上げると、回復魔法を使うこともできず、一瞬で絶命してしまった。
やれやれ、まぁどうでもいいか。
巻き込まれてしまったので仕方なく対応はしたが、そもそもアラハムとかエイクラムとか興味ないからな。今はリュシアとのデート中なのだ。
さっさとエスコートの役目に戻るとしよう。
だが、そんな俺の考えとは別に、そのフード姿の女性が声をかけてきたのである。
おいおい、デートの日くらいゆっくりさせてくれよ。
俺はそんなことを思い、溜息をついたのであった。
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