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【書籍化&コミカライズ】異世界で孤児院を開いたけど、なぜか誰一人巣立とうとしない件  作者: 初枝れんげ(『追放嬉しい』7巻3/12発売)


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35.リュシアとのデート 忍び寄る影 後編

35.リュシアとのデート 忍び寄る影 後編


東地区の一角には飲食店が集まっている場所があり、そのうちの一つに目当てのレストランがあった。


シルビィがお勧めだと言っていたので味に間違いはないだろう。


レストランと言ってもそれほど堅苦しいものではなく、一般人でも気楽に入れるような庶民的な店構えだ。


時間もちょうどお昼で、気候も良い。


なので、俺とリュシアは屋外のテラス席に座ると、パンとシチュー、それから飲み物を注文したのであった。


・・・だが、俺はそこで予想外の事態におちいることになったのである。


「はい、ご主人様、あーん、して下さい」


リュシアがそう言って俺の隣に寄り添い、幸せそうな表情ですくったスープを差し出して来たのだ。


対面で座れば良いところを、料理が運ばれて来ると、リュシアがわざわざ俺の隣に移動してきたのである。


どうやら彼女は俺にこの、あーん、をしたくてたまらなかったらしい。


だが、おかげでまたしても周囲からの視線が強くなってしまう。


やれやれ、俺としては余り注目を浴びずに、食事を楽しみたいところなのだがなあ。


そこで俺は、


「おいおい、それだとリュシアが食べられないだろう? 気を使わなくても良いんだぞ?」


そう言ってみたのである。


しかしリュシアは、


「気をつかうだなんて、とんでもありません!! 私、ご主人様に、あーん、ってするのに、ずっとあこがれてたんです。な、何だか本当にカップルみたいだから・・・」


そうはにかんで、頬を真っ赤にしながらも、強い口調で言うのであった。


むぅ・・・。リュシアの強い希望ならば仕方ないな。


何せ今日の俺とのデートは、リュシアたっての希望なのだ。


そのリュシアが熱望するのだから、出来るだけ叶えてやらなければならないだろう。


周りの男どもの視線が突き刺さる様で針のむしろではあるが・・・、やれやれ、我慢するしかないか。


まったく、嫉妬する方は楽で良いな。


俺の様に気苦労をすることはないのだから。


俺もお前たちの様な気楽な立場に戻りたいものだ。


そんなことを心から思うのであった。


「わたしもアレさせて欲しいなぁ・・・今度お願いしてみよっと」


「わたしはむしろして欲しいな~。猫みたいに甘やかして欲しい~」


ん? また何か聞き覚えのある声が聞こえたような・・・。


だが、


「ご主人様、どうですか? 美味しいですか?」


そんなリュシアの声が割り込んで来たので、その声の事は一瞬で俺の意識から消えてしまう。


ふうむ、それにしてもリュシアは、俺の一挙手一投足が気になるらしい。


俺としてはもう少し落ち着いて食べたいところなんだがなぁ。


とりあえず俺は、


「ああ、美味しいよ」


と簡単に答える。


するとリュシアは、実に幸せそうな微笑みを浮かべ、


「えへへ、良かった」


つぶやくのであった。


やれやれ、何で俺のことでリュシアがそれほど嬉しそうにするのやら。


「でも、やっぱりご主人様の作られたご飯の方が美味しいですよね」


リュシアは自分の分を味見しながら、当たり前のようにそんなことを言う。


「おいおい、そんな訳ないだろう? 俺はプロでもなんでもないんだぞ?」


俺は笑いながらそう言う。


だがリュシアは、


「いえ、間違いなくご主人様の方が美味しいです。というか、ご主人様の作られるお料理は、すでにプロの域を超えていると思います!」


と、真剣な顔で言うのであった。


やれやれ、大げさだな。


俺は首を横に振りながら、


「そんな大したもんじゃないさ」


と言うのだった。


だが、そんな言葉にリュシアは、


「うーん、どうしてご主人様はそんなに自己評価が低いんでしょうか・・・」


と、なぜか困った表情をするのであった。


ふうむ、褒めてくれるのは嬉しいが、俺は何も特別な料理の訓練などした訳じゃないからなあ。


強いて言うなら自然に出来るようになっていただけなのだ。


だから別に俺の料理が美味い事は、特段誇るようなことではないのである。


・・・さて、それにしても、このまま食べさせてもらってばかりだと申し訳ないな。


ああ、そうだ。


「よし交代しよう。今度は俺が食べさせてやるぞ?」


俺はそう提案したのだった。


だが、なぜかリュシアは酷く慌て出すと、


「い、いえ! それだと私がまるで子供みたいですらから駄目です!! お、大人から・・・お嫁さんから遠のいちゃいます!!! 」


そう言って、そそくさと自分の席へと戻るのであった。


ふむ? どういう意味だろうか?


俺はただ首を傾げるのであった。


まぁ、何にしろ、彼女が食事を始めてくれたから、俺としてはOKなのだが。


そんな訳で俺はやっとリュシアからの「あーん」攻撃から解放されたである。ふう、やれやれだ。


周囲の男どもからの殺意のような視線も少し柔らいだようだみたいだな。


とは言え、そもそも俺が彼女のような絶世の美少女のパートナーということに対して、周囲の男どもは依然いぜんとして醜い嫉妬の感情をくすぶらせているようではあるが。


まったく、たしかに俺はリュシアから多大な信頼は得ているし、好かれているとは思うが、別にそれは愛情という意味での好きではないんだぞ?


俺だって、リュシアに好きになられる奴が羨ましいくらいだ。


その男は世界で一番幸せ者に違いないからなあ。


もちろん、そうして彼女から本当の意味での好意を受ける男であれば、周囲の奴らが気が狂うほど嫉妬するのも理解できるが、俺に対するやっかみは単なる勘違いなのだ。


まったく、リュシアから愛情を向けられるような、ある意味世界に選ばれし男は一体誰なんだろうなあ。


そいつは本当に勝ち組という奴だと思う。


「ところでリュシアの故郷はラホーク地方にあるんだったよな? 一体、どんなところなんだ?」


俺は食事の話題としてそんなことを口にする。


ラホークとはこの国の北部にある獣人が多く住む地方で、リュシアも奴隷になる前の幼い頃、そこに住んでいたとのことだ。


俺の言葉にリュシアは、だが少し困った様な顔をして、


「すみません、幼い頃だったので、細かい事は余り覚えてないんです。でもお父さんとお母さんがいてくれたんで幸せでした。貧乏ではありましたが、自然の綺麗な、時間がここよりもずっとゆっくりと過ぎる場所でしたから」


と遠い目をして答えた。


リュシアの両親は既にはやり病で他界していて、残され借金のカタに大商人ゴレットの奴隷になったのだ。


「悪い事を聞いたな」


俺は頭を下げた。


だが、リュシアはぶんぶんと首を横に振ると、


「いえ・・・逆です。ありがとうございます、ご主人様」


そう言って、花の様に笑いながら、むしろ俺に対して信頼の眼差まなざしを向けるのであった。


ん? どういうことだ?


「つい先日まで、私は両親のことを悲しくてまともに考えることが出来ませんでした。ましてや、今みたいに普通に両親のことを口にするなんて、絶対に無理だったんです。でも、今はそうではありません。まだ、いなくなっちゃったことは、ちょっぴり悲しいですが、ちゃんと現実に向き合う事が出来ます。やっと、私は大好きだったお父さんとお母さんに、心の中にいてもらうことが出来るようになったんです」


だから、もう孤独じゃありません、と少女は言った。


「えらいな。リュシアが頑張ったから乗り越えることが出来たんだ」


そんな俺の言葉にリュシアはゆっくり首を振ると、


「いいえ。ご主人様のおかげですよ?」


と言ったのである。


「俺のおかげ? 何かの間違いだろう?」


だが、俺の言葉に少女はやはり、いいえ、と首を振り、


「ご主人様のおかげです」


と繰り返すのであった。


ふむ? と俺が首を傾げる。


少女はくすりと微笑み、


「毎日毎日、お父さんとお母さんがいなくなる夢を見て、夜中に目覚める私を、ご主人様は毎日毎日慰めてくれました。夜泣きする私の頭を、毎日眠らずに一晩中、撫でていてくれました。美味しいお料理を食べさせてくれて、いっぱい優しくしてくれました」


俺が何も言わずに、ただ少女の言葉に耳を傾ける。


「いつも隣にいてくれました。いろんな遊びを教えてくれました。勉強を見てくれました。いっぱい必殺技を教えてくれました。孤児院では友達が出来ました。いっぱいいっぱい幸せでした」


だから・・・、と少女は続けた。


「だから・・・、私も、ご主人様がしてくれたみたいに、人のために何かしてあげられる人になりたいと思うことが出来たんです。大好きなお父さんとお母さんが死んで、奴隷になって、病気になって、独りで寂しく死んじゃうんだって、人生に絶望していた私が・・・そんな優しい気持ちにもう一度なることが出来たんです」


リュシアは俺の目をまっすぐ見て言う。


「ありがとうございます、ご主人様・・・。ご主人様が私を救ってくれました。命のことじゃないんです。リュシアは、ご主人様のおかげで、もう一回前を向けるようになったんです。両親のことも、だからちゃんと受け止めようって思うことが出来たんです」


ずいぶん長く掛かっちゃいましたがお墓参りだって行けそうです、とリュシアは言った。


さっぱりとした顔であった。だが、涙が一筋はらりと落ちた。


俺はそれを見なかったことにする。


甘えたいと思うときは甘えてくるだろう。


それくらいの信頼関係は既に出来ているのだから。


「そうだな、俺も一緒にラホークへ墓参りに行こう。リュシアのご両親にもちゃんと挨拶をしておかないとな?」


俺はそう言ってリュシアに笑いかける。


・・・が、少女はなぜか先ほどまでの真剣な様子を一変させ、真っ赤になると、


「お、お父さんとお母さんに挨拶!? そ、そそそそそんないきなりなんて!? で、でも、もちろん私はオッケーです!!!」


そう言って力いっぱい返事をするのであった。


うーん、ただの墓参りに行くだけなのだが、妙に気合が入ってるな・・・。


まぁ、墓参りはOKということだから別にいいか。


「よし、決まりだな。また時間を見つけて行くとしよう。・・・だが、やっぱり前向きになれたのはリュシア自身が頑張ったからだと思うぞ? 俺は少しばかり手伝っただけさ」


リュシアはその言葉を聞くと、俺の方をじっと見つめた。


そして、ゴホンと、一度咳払いすると、頬を染め、そして妙に緊張した様子で口を開くと、


「さ、先程は申し上げませんでしたが、わ、わわ、わたしがですね、一番前向きになれた理由は、ご、ごごごごごご主人様のことが、あの、その・・・」


そう言って妙にもじもじとしだすのであった。


「うん? どうしたんだ?」


「はぅ・・・。だ、だからですね、わ、わたしことリュシアは、ご主人様のことがですね、その、す、す、す、す、す・・・」


す? 酢がどうかしたのだろうか?


「今日はおひたしにするか?」


「ち、違います!! よ、よく聞いてください!! すーはーすーは。い、言います!! わ、私はご主人様のことがす」


だが、その言葉が最後まで紡がれることはなかった。


なぜなら、


「お主たち逃げよ! ここに居ては危険じゃ!!」


「わっはっはっは!! もう遅いわ、我の大魔法エラライト(巨星堕し)つゆと消えよ!!!!!」


そんな声が響き渡ったからである。


たくさんの評価・ブクマありがとうございます!

おかげ様で執筆がとても進みます!!

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