118.儀式の開始
118.儀式の開始
(前回の続きです)
「はっ、心してかかります。では聖女三名をご紹介させて頂きます」
彼はそう言うと、三名の少女を紹介し始めたのである。
全員が白いローブをまとっており、神聖なる儀式を前に静かに祈りをささげていた。
一人目は、背の高い少女で、髪の色や瞳が深紅の輝きを放っている。
二人目は、緑の髪をゆるく後ろでくくった少女であり、やや幼く見える。
三人目は、金髪碧眼の少女で、真っ白な肌が印象的な少女だ。
その三人がそれぞれ俺に挨拶をした。
「宜しくお願いします。私はゼシカと申します」
「ボクはリドルと申します。宜しくお願い致します」
「わたくしはミリアです。宜しくお願いいたします、神聖マサツグ王」
「ああ、全員宜しく頼む」
俺の返事に、聖女全員が感激したような声を上げた。
「まさかマサツグ王に見定めて頂けるとは、このゼシカ、これほど人生で嬉しかったことはございません」
「ボクもです。精いっぱい、聖選の儀を務めさせていただきます」
「わたくしに大聖女の資格があるか、いまだに自信はありませんが。マサツグ王の御前で粗相だけはないようにしたく思います」
それぞれが俺を前にして決意を語った。
すこし全員の言葉が固い。
だが、理由は簡単だ。
俺という存在。いわば奇跡の顕現を目前にしているのだ。
緊張するな、と言っても無駄だろう。
俺を普通扱いするな、といった無理な指示をした自分を思い出しつつ、自分が特別な存在であることを甘受しながら、俺は言った。
「緊張することはない」
「神聖マサツグ王。そうは申されましても……」
すぐにルッツベーリン公爵が、それは無理なことだと言おうとするが、俺はそれを手でとどめつつ、続ける。
「緊張することはない、と言いたいところだが、それはムリなことだろう」
彼女たちは意外な言葉にハッと顔を上げる。
「俺を前にして緊張するなとは言わない。それは君たちに祈りの対象である神かそれ以上たる俺を信仰するなと言うことと同義だろう」
その言葉に、彼女たちは同時にうなずく。
「だが、逆に、この儀式は俺と言う存在に認められている。緊張して結果が出ないかもしれないし、いつもより調子がいい場合もあるだろう。それも含めて、俺が見ている前でそれが起こっている以上、それが世界の選んだ道なのだ」
彼女たちはハッとした表情になる。
そう。
気づいたのだ。
彼女たちが前にしている人物こそが……。
「そうでした。あなたこそが、世界の中心……なら」
「ボクたちにこれから起こる事こそが。いえ、マサツグ王の前でおこることこそが……
「ここで起こることはこの世界の定めそのものだということなのですね!」
三人の聖女は霧が晴れたような表情で言った。
「そういうことだ。緊張もしていいし、固くなってもいい。だが、これだけは忘れるな。この聖選の儀はこの神聖マサツグ王が見届ける。それはこの世界の定めそのもの。神話の一部だということを」
その言葉に、
「「「はい!!!!」」」
という、聖女たち三人の清らかな声が響いた。
さあ、儀式が始まる。
こうして俺と言うこの世界の運命そのものが見守る中、聖選の儀が始まったのである。
三人の聖女が白亜の神殿へとゆっくりとした足取りで入っていくのであった。
 






