117.三人の聖女
117.三人の聖女
さて、これから向かうのは聖選の儀が行われる神殿である。
三人の上級聖女が神殿で儀式を行い、先に儀式を終え、神殿から出てきた聖女が現在空位の大聖女となる。
このような時勢なので、大聖女の地位が空位なのは、民衆の安寧にとってよくないと、ルッツベーリン公爵は考えて、俺に立ち合いを依頼してきたということだ。
俺という存在自体が、何かを見届ける、ということは、それだけで証拠としての力を発動する。
俺のする行動。
例えば、今回の親征は歴史どころか、この星の続く限り語られる神話になるであろうし、俺が例えば今回の聖選の儀を公式に見届ければ、それは神、あるいはそれ以上のが大聖女を選び、認めたことと同じ効力を果たすことになるのだ。
その意味で俺の一挙手一投足が、この星の、いや世界の運命を決定すると言って、差支えなかった。
そうこうしているうちに、神殿へと到着する。
そこには三人の聖女の他、儀式を執行するための神官数十人や、公爵本人、官僚らがそろっていた。
「マサツグ王! よくぞいらっしゃいました!」
ルッツベーリン公爵がやってきて、椅子をすすめられた。
「ここは普通の椅子にしたか」
「はい。さすがにマサツグ王の温情にあずかってばかりはいられませんからな」
普通に扱え、という指示を、ここで守ってきたというわけだ。
しかし、
「だが、これはキシギイの木材で作られているだろう? 細工に非常に手間と時間のかかるものだが?」
そう、これは非常に珍しい、特殊な環境下でしか採取できない木材で作られている、見た目には分からない超高級品なのである。
じろり、と公爵を見た。
公爵はあっけにとられると、平伏しつつ、
「ど、どうしてお分かりになりましたので!? や、やはり神の目にはすべてお見通しということでしょうか!?!??!」
などと言ってくる。
やれやれ、
「神などと言う、しょうもない存在と一緒にしてくれるな」
俺はちょっと怒りながら、
「うちにクラリッサという超一流のドワーフがいるんだ。彼女に聞けば色々と学ぶところがある」
「か、神でも学ばれることがあると!?」
おいおい、と俺は苦笑しつつ、
「逆だ、逆」
「逆?」
意味が理解できないとばかりに、首をひねる公爵に、俺は大切なことを伝える。
「俺は確かに博識であり、誰よりも強く寛容だ。王としての資質もあろう。だが、最初から何もかもを知っていて努力をしない神のように怠惰な存在ではない」
「ああっ!!」
どうやら公爵は俺の言いたいことに気づいたらしい。
そういうことだな。
「完璧なのに努力を欠かさない。だからこそご主人様は神様なんて足元にも及ばない存在なんですね」
「完璧なのに努力ができるなんて、普通考えられません」
「でも、マサツグさんは学び続けて更に高みにのぼってゆくのよね~」
「それは神ごときの概念では言い表せるものではありませんね」
「魔族にもそのような神格を宿したものを形容する言葉は存在しないのじゃ」
「マサツグは世界そのもの」
「さすが主様です。研鑽という枠を超えた研鑽をされているということなのですね!」
俺が説明する前に少女たちが全て言ってしまった。
まぁ、そういうことだな。
「最初から完璧では意味がない。俺の様に完璧になり、なお努力を惜しまないことが、最初から完全なる存在たる神よりよほど尊く、また値打ちがあるということだ」
「さすがマサツグ王! おっしゃる通りです」
ルッツベーリン公爵は神の恩寵に触れたとばかりに感激する。
「そんな神聖マサツグ王に今日は儀式を見届けてもらえる。これほど嬉しいことはありません! 」
「ああそうだな。これはきっと神話に刻まれることになるだろう」
「はっ、心してかかります。では聖女三名をご紹介させて頂きます」
彼はそう言うと、三名の少女を紹介し始めたのである。
全員が白いローブをまとっており、神聖なる儀式を前に静かに祈りをささげていた。
一人目は、背の高い少女で、髪の色や瞳が深紅の輝きを放っている。
二人目は、緑の髪をゆるく後ろでくくった少女であり、やや幼く見える。
三人目は、金髪碧眼の少女で、真っ白な肌が印象的な少女だ。
その三人がそれぞれ俺に挨拶をした。
(続きます)






