113.王の使命
113.王の使命
「その姿、お前にはふさわしいとは思うが、自然とそうなったのか? それとも何者かにそのような姿に変えられたのか?」
粘液の塊のようになった化け物。元ワルムズの王へ聞く。
だが、その化け物は、
「お、お前に話すことな一つもないわ!」
そう言って体をブルブルと震わせた。何かを隠しているのか? 俺の余人には持ちえない直感が告げる。
俺はやれやれと首を横に振る。
「王とはつらいものだ。今の俺は国を預かる身。ならば、国を守るためには、情報を引き出す必要がある。どんな手段を使ってでもな」
俺はそう言うと、念動力を使って、化け物を拘束する。
「ぎ、ぎああああああああああ⁉ な、何をする⁉」
「貴様も元王ならば分かるだろう? いや、むしろお前がこれまで人々にやってきたことだ。それをお前自身が受けると言うだけの話だ。そうした苦しみを知ることも、よい学びとなるだろう。とにかくお前には経験が足りない」
俺も数々の経験をしてきている。それが今の王の器につながっていることは明白なのだ。
「や、やめろ! わ、わしは‼ わしはワルムズ王であるぞ!」
「残念ながら、これは法にのっとったものだ。お前が定め、当然に運用していたものではないのか? この国に有害となりうる化け物のお前に、それを拒否する権利があると思うか? さあ、お前が法を制定したときのことを思い出してみるといい」
「い、いやだ! やめてくれ!」
「自らの行いが自分に帰って来る。その簡単な理屈を学ぶ機会でもあるのだろう」
「確かにのう。魔王としてもしっかりと学ばなければならない当然の理屈じゃな」
「ドワーフのことわざにも、冷めた鉄を打つと鉄は歪になって固まるっていう、因果応報の格言もある」
「主様は今、武人としてだけでなく、賢者としての姿を見せられているのですね」
ラーラ、クラリッサ、ミラの言葉に俺は頷く。
「それに、法治国家の原則は守らねばならん。何せ、俺は王なのでな」
王である俺が法を曲げることはできない。二重三重の意味で俺が正しい行いをしようとしていることは明白であった。
「やりましょう、ご主人様」
「リュシア?」
リュシアは優しく微笑んだ。
「ご主人様がなされる行いは、ご主人様だけがなされる訳ではありません。私たち・・・いいえ、人類全体がその行いに賛同するから、ご主人様が行われのです」
その通りです、とエリンも応じる。
「マサツグ様こそが私たちが選んだ王様なのです。ですから、正しいと思ったことをされてください。私たちたちは最後まで、その公平な行いについてゆきます!」
シーとシルビィも、
「精霊世界全体がマー君の行いを支持してるよ!」
「世界のために心を鬼にすることも王としての務めなのでしょう。ナオミ様にばかり世界の命運を預けてしまって申し訳ないのですが・・・。ですが、運命そのものがナオミ様を放そうとされないので・・・」
彼女たちの気持ちが伝わってくるようだった。
王とは孤独だ。自分で最後決めなくてはならない。それがどんな非情な判断でも。
だが、彼女たちが、ひいては人類全体が俺を支援している。
そのことで、やはり俺の心は少しばかり軽くなった。俺もしょせん、神と言って良い存在とは言え、やはり人間。皆の信頼があれば、これほど心強いことはない。
「行くぞ、ワルムズ王! いいや、化け物よ! お前が隠している真相を話してもらうぞ! このマサツグ王の勅命によって!!」
「ぎ、ぎぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!??!?」
俺は化け物の口を割らせるためにあらゆる手段を行使した。
その行為を残酷だとするむきもあるだろう。
だが、俺はその先を見ていた。
明るく笑う人々の姿をだ。
そのために俺が手を汚すことなど何でもなかった。それが選ばれた人間の責任だと魂で理解していたからだ。
本当は一般人でいたかった。だが、世界がそれを許さないし、俺と言う人間はどうしても、そうした世界の安寧、平和、そういったことに自然と貢献してしまう性格をしているらしい。
それは俺が善なる者。神に近いしい存在、普通の人間では達しえないステージにいるからなのかもしれなかった。無論、俺自身はそんなことは望んですらいない。
ゆっくりと日常を、目立たずに過ごすこと。それだけが俺の望みなのだが。やれやれ、いつになったらそんな日常がやってくるのやら。
そんなことをふと考えた。
そして、そんなことを考えているうちに、ワルムズ王の処置は終わっていた。
「可哀そうに。ぼろぼろじゃないか・・・」
「ご主人様が気に病まれる必要はありません。ご主人様は優しすぎるのです」
「そうですよ。マサツグ様だけのせいじゃありません。みんなでやったのですから」
「マサツグさんが世界を救おうとした結果なんだから、これは世界がもたらした結果なんだよ? 責任があるとしたら世界全部なんだよ?」
「ああ、本当にそうだな」
後悔はない。これは俺がやったというよりも、世界の選択だったのだから。
しかし、俺の優しさは、仕方なかったとはいえ、ワルムズ王の姿を憐れんだ。
「やはり俺は優しすぎるのかもしれない」
そんな風に自嘲した。
だが、反面、皆に言わせれば、この優しさに救われる人間もいるということなのかもしれないが。
現にワルムズ王も、こんな姿になりはしたが、俺の優しさによって真実を口にすることができたのだ。そう、最後まで秘密を抱えるハメにならなくて済んだのだ。それはまさに、俺の優しさよって救われたと、そういうことなのだろう。俺はまた一人、運命に弄ばれた哀れな人間を、知らず知らずのうちに救ってしまったのだ。
そう、俺はこの化け物の口から、驚愕の真実を知ったのである。
やはり俺の勘は正しかったというわけだ。驚くには値しない。だが、俺が正しいということは厳然たる事実として認識しなくてはならないのだろう。それはある意味、俺という人間を中心に世界が動いているということの証拠でもある。
やはりワルムズ王は重要な事実を隠していた。それを俺は真実の目・・慧眼をもって見破り、またしても世界の破滅を未然に防ぐことになったというわけである。
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『勇者パーティーを追放された俺だが、俺から巣立ってくれたようで嬉しい。
今後は求められても助けてやれないが、お前たちならきっと大丈夫だと
期待している。・・・なので大聖女、お前に追って来られては困るのだが?』
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『異世界孤児院』を楽しんでいただける読者の方にもおすすめです。
どうか第1話だけでも読んでみてください。






