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ルナティック・ブレイン 【-特殊殺人対策捜査班-】  作者: 橋依 直宏
Consider 3  繚乱のガーデンストック
19/97

File:3 カッコウの擬装卵





 6月9日月曜日。AM8:21。

 警視庁。6階資料室奥。


 蕗二はぽつんと置かれた事務机の一つに座り、過去の犯罪資料に目を通していた。


「おはようございます」


  聞き慣れた声に顔を上げると、坂下竹輔さかしたたけすけが正面の机に鞄を置くところだった。


「おはよう」

「蕗二さん、さっき総務の人から言われたんですけど、捜査には自動運転システム(A D S)車使ってくれだそうです」

覆面ふくめんのことか? まだ片手くらいしか乗ってないぞ」

「ほら、全国安全週間近いからですよ。身内が手動運転で事故る訳にはいかないからじゃないですか?」


 事務椅子に深く腰かけた竹輔が、ノートパソコンと昇進試験のテキストを広げる。蕗二は大きすぎる溜息をつき、仰け反った。広い背を受け止めた背もたれが小さく鳴く。


「あれ、慣れないから嫌いなんだけどな……」

「蕗二さん運転上手いから、安心なんですけどね」

「褒めてもあめぐらいしかやれねぇぞ」

「欲しいっす」

「マジかよ」


 蕗二は上着のポケットを探り、個包装された飴を大きく弧を描くように投げた。

 竹輔が難なく受け止めたところで、短いノック音が部屋に響く。返事を返す前にドアが押し開かれ、菊田が体を滑り込ませた。

 蕗二と竹輔は素早く立ち上がり敬礼する。


「おはようございます、菊田係長」

「おはよう蕗二君、坂下君。そろっているようで良かった」


 座るよううながされ席に着くと、菊田は持っていたタブレットを二人に見えるように机に置く。

 そこには一人の男が映っていた。

 青白い顔と閉じられたまぶたから死に顔だと言うことが見て取れる。


「……林卓真はやしたくま?」

「蕗二さん、知り合いですか?」

「いや。一ヶ月前、休みの時に事故死……的な事件でちょっと関わっただけだ。この人がどうかしたんですか?」

「彼と……」


 突如ドアが荒々しく開き、菊田の声を遮った。三人は瞬時に警戒するがそこに立つ凛々しい女性を認識し、緊張を解く。部屋を見回す彼女の動きに合わせ、肩で切りそろえられた髪が品の良いスカートのように広がる。


「ずいぶん狭い部署ね」


 よく通る低い声で言い放つと、鋭い目が蕗二と竹輔をとらえる。その気迫に冷や汗を掻く竹輔から目をそらせるように、蕗二は立ち上がると深く頭を下げた。


「お久しぶりです、あずま検視官。前回の事件の時は、ありがとうございました」

「この前はどうも。で、彼らに状況は話したの? 菊田警部」


 ヒールの音を響かせながら歩いてくる東に、菊田が親しげに手を上げた。


「よお、アジサイちゃん。君が来るのを待っ、ぐっ」


 菊田が呻き、脛を抱えてうずくまる。東のヒールが床を強く叩いた。


紫陽花ファーストネームで呼ぶな! あと、読みはアジサイじゃなくてショウカだ」

「か、からかっただけじゃないか……それに、老体に暴力はやめてくれ。骨が持たない」

「私が折れるほど蹴ると思う? こっちは法医学修了してんのよ。もしそれくらいで折れるようなら、とっとと引退しな。それとも本気で一本折ってほしい?」

「美人に蹴られるなら、ちょっと考えるよ」


 へらりと笑う菊田を鬼の形相ぎょうそうで睨みつけた東は、溜息と共に脱力した。

 「もういいわ」と視線をはずし、机の上にあったパネルを操作し、ファイルを展開した。


「今朝、遺体が発見されたのだけど、その死因や状況が林とまったく同じだった」


 画面に大きく表示された資料を、蕗二と竹輔は身を乗り出し覗きこむ。


 被害者は高山秀則たかやまひでのり。男、死後数日経過、冷房の入った部屋、ベッドの上の裸体、腹上死……そして、林と同じく高山も≪ブルーマーク≫だった。


 竹輔の息を呑む音がはっきり聞こえた。蕗二は奥歯を噛み締め顔を上げると、何事もなかったように立ち上がっていた菊田と視線があった。


「まさか、連続殺人ってことですか」

「少なくとも、上はそう判断した。先ほど緊急で特別捜査本部が作られたところだ……私が言いたいことは、分かるな三輪警部補」


 菊田の低い声に、蕗二は鳥肌を逆立てた。






 AM9:51。


 地下駐車場は、カビ臭さと冷たい空気でよどんでいた。

 駐車場から警視庁へと通じる入り口の前、立ちはばかるように立つ蕗二ふきじの鋭い目は正面を睨みつけている。その姿は狩り前の猟犬と同じ、殺気に似た気配をまとっていた。


 その視界に一台の警察車両が滑り込んでくる。蕗二の表情はさらに険しくなった。車はおびえるようにゆっくり蕗二の目の前で止まる。それと同時に、威嚇いかくするように勢いよく後部座席のドアが開いた。


 スーツを着込んだ神経質そうな眼鏡の男と毛先を遊ばせた派手な女が降りてくる。


「やっほー、三輪さん二ヶ月ぶりー?」


 陽気な声を上げた野村紅葉のむらもみじは、蕗二に大きく手を振ってみせる。その反対側で、眼鏡を指先で押し上げた片岡藤哉かたおかふじやが口の端を吊り上げた。


「待ちくたびれたよ、警部補殿。毎日ニュースを見ているのも飽きてきた所だ」

「全っ然嬉しくありません」


 片岡を遮るように助手席が開き、垂れた目尻を不機嫌そうに吊り上げた学ランの少年・芳乃蓮ほうのれんが降り立った。


「こんな早くに呼び出されるし、しばらく会わずに済むと思ってたのに、本当に残念です」


 蕗二の眉間に深い皺が刻まれる。運転席に乗っていた竹輔は、心配そうに蕗二を見ながらゆっくりと車を下げた。

 駐車スペースに入っていく様子を横目に見送った蕗二は「ついてこい」と踵を返す。

 駐車場から一歩建物の中へ入ると、カビ臭さが嘘のように抜けた質素な廊下が続いている。靴音が響く中、ふと片岡が口を開いた。


「今思い出したのだが、三人そろっての出動は初日以来だね」

「あ、ほんとだー! 何か懐かしいねぇ」

「そうだ、略称を考えてきたのだが、皆はどうだ?」

「片岡さん早ーい! 私まだぁ。蓮くんは考えてきたぁ?」

「考えてるわけ無いじゃないですか。それより、何でぼくだけ名前呼びなんですか」


 廊下が不意に途切れ、行き止まりになった。

 正面の壁に同化したドアが一つあるが、ボタンも取っ手もない。蕗二はそこに警察手帳をかざすと、小さなモーター音が響く。


「おい」


 蕗二が低い声を出すが、三人は聞こえていないのか、会話は止まらない。


「いいじゃーん。じゃあ、私も紅葉もみじでいいよー。片岡さんは藤哉ふじやだったよねぇ? でも呼びにくいなぁ、藤っちでもいーい?」

「構わないよ。では私も、紅葉くんと蓮くんと呼ばせてもらおう」

「ストーップ! 後にしろ、こっちは事件なんだ!」


 蕗二の声が廊下に反響する。片岡がぱちくりと瞬きする後ろから竹輔が小走りで駆けてくる。


「やっぱり我慢できませんでしたか」

「我慢もクソもあるか! 今回の事件の被害者は≪ブルーマーク≫だ。しかも二人!」


 三人が息を呑んで目を見開く。野村が両耳を押さえたのは、仕方がないことかもしれない。

 沈黙を待っていたかのように小さなベルの音が鳴る。壁の切れ目が割れ、箱状の空間が姿を現した。蕗二と顔を引き締めた三人、竹輔が乗り込むと扉が閉まり、急速に上へと上がっていく。


 蕗二がピリつく理由は、いくつもあった。

 一つ、毎度のことだが【特殊殺人対策捜査班】は立場上、捜査情報が回って来ない。菊田と東の協力でなんとかなっているだけで、何処まで捜査が進んでいるかは見えてこない。


 二つ、≪ブルーマーク≫が被害者だと言う件だ。一般人の協力が得られるか、またマトモな情報が手に入るかも怪しい。恐らく、いつも以上に捜査は難航する。


 そして何より蕗二自身、複雑な気分だった。

 やっと先日の古傷が乾いたところなのだ。あともう少しで苦痛が楽になると思った矢先、また傷口が開けばたまったもんじゃない。少しでも引っかければ破けそうな瘡蓋かさぶたの上から、手当たり次第覆えるもので覆って、やっと【特殊殺人対策捜査班】の班長として立ち上がっている。


 気力との勝負だ。だが、緊張の糸を張り続ける余裕が、蕗二にはまだ足りない。

 一ヶ月前の、みっともない姿をさらす前にとっととケリをつけたいのだ。


 身体に感じていた箱の速度が下がり、音とともにドアが開いた。蕗二は目の前に広がる人気ひとけのない廊下へと踏み出した。迷うことなく廊下を進み、三つ角を曲がった先の、ミーティングルームと書かれた部屋に立つ。ノックしたドアを間髪いれずに開ける。

 何もない部屋の中央、唯一置かれた長机の向こうに、菊田と東が立っていた。


「おはよう、諸君」

「やあ、菊田警部殿。久方ひさかたぶりですね」

「……おはようございます」

「あ、三輪っちをぶっ倒してた刑事さん、お久しぶりでーす。あ、美人さんもこんにちわー!」

「やめろ、思い出させんな……」

「片岡さんと芳乃くんは初めてですよね。彼女は検視官のあずまさんです」


 入り混じり全員が挨拶を交わしたところで、蕗二が口を開いた。


「始めるぞ。今朝、男の遺体が発見された。その男は、一ヶ月前突然死として処理された男と同じ死に方をしていた。恐らく連続殺人だろうと、本庁ここに帳場も立った。芳乃、覚えてるか。マンションで遺体が発見された時の事件だ」


 蕗二が真っ白な長机を三回ノックする。机が液晶画面のように光り、蕗二の手元にファイルが現れる。

 全員が机を囲んだところで、蕗二はファイルを指先で中央に向けて滑らせた。するとファイルが展開され、死体の映った何枚もの画像が机上にばらまかれる。


「う、顔にモザイクかけといてくれません?」


 芳乃が目の前の画像を払いのける。滑らかに画面上を滑る画像を受け止めた野村が、散らばった画像も掻き集め、隅々まで目を走らせる。


「この二人、すごい綺麗だねぇ。心臓発作とかぁ、脳卒中ぅ?」


 長いまつげに覆われた目が蕗二に向けられる。蕗二は口を開くが、下唇を噛んで言葉を飲み込んだ。


「……野村。お前、どんな死体でも見れるか?」

「死体なら何でも」


 そこで不意に野村は口をつぐんだ。瞳を戸惑うようにちゅうへさ迷わせたかと思うと、顔の前で手を合わせ、困ったように眉を下げた。


「ごめーん嘘ついた、死んだ直後の死体は無理だわぁ」

「血とかか?」

「血というかー……体温がぜーたいダメ。動物もー、生きてるのは触れないの。満員電車とかぁ、人とくっ付くと吐いちゃうんだよねぇ、げろげろー」


 舌を突き出して吐く真似をする。

 遺体を見て黄色い声を上げた時からなんとなくさっしがついていたが、死体が好きといういきを超えているようだ。

 動揺する蕗二に、野村が物をどける仕草をする。


「私のことは置いといてぇ。この人達の死因はなーに?」

「ちょっと、その、えーっと……」

「なににごしてるのよ」


 東は蕗二を押しのけると、指先で一度、間を空けて二度テーブルを叩く。散ったままの写真が一瞬で整列した。


「第一被害者は林卓真はやしたくま、二十八歳、無職。

 第二被害者は高山秀則たかやまひでのり、二十二歳、大学生。

 両者の共通点は、発見場所が自室、冷房のついたままの部屋、全裸、開封済みの避妊具、そして≪ブルーマーク≫。そして死因は同じ心不全による突然死。ぞくに言う腹上死よ」


 片岡が呆気に取られ、芳乃は軽蔑けいべつの表情を浮かべた。野村は特に表情を崩さず、首を捻った。


「うーん。じゃあ、いろいろー証拠残ってるんじゃー?」

「それが両者とも、相手の指紋すら出てこなかった。だから、二つ目の遺体が出て来た時、連続殺人と判断したのよ」

「ふーん、なるほどー……。この二人、心臓が弱いとかー、持病的なのはー?」

「ないわ」


 野村がさらに首を捻って口を閉ざす代わりに、隣で写真を眺めていた片岡が口を開く。


「東検視官殿、一つ聞きたいのだが。腹上死で死亡する確率は、どれくらいだろうか」

「はっきり言って、かなり珍しい。突然死の中で腹上死とされるものは、10万人中0.2人くらいの確率で、だいたい50を超える男性が多いかしら。若い子は持病がない限りあり得ない」

「そうなるように仕組めますか?」


 芳乃が静かに問うと、東は眉をひそめ胸の前で腕を組んだ。


「毒物や劇薬物ならあり得るわ。けど、可能性を考えて検査スクリーンしたけど、怪しい薬物は1ミリも出てこなかった」


 首をひねったまま写真を見つめていた野村が、顎に人差し指を当てた。


「うーん、薬が出ないよーに、死体をいじったかも?」

「どういうことですか?」


 竹輔と東が眉を寄せる。


「二人とも死んでからー、何日か経ってるんですよねぇ? 例えばですけどー、体内が普通より熱かった場合は変わるかなーって。ほらぁ、お湯を入れたとかー? それを誤魔化す為にー、冷房つけてたんじゃないですかー?」

「ちょっと待て。遺体を偽装工作したって言うのかよ。そんなのすぐ分かるだろ」


 蕗二が強く机を叩くと、画像がわずかに列を乱した。野村は高山の腹部を写した画像を指先で引き寄せると、端を摘み、引き伸ばした。


「だってほらぁ、死体ってぇ、中から腐るでしょう? 写真だとあんまりわかんないけどー、お腹張ってるしー? 中身は結構だめになってたんじゃなーい?」


 東が口元に拳を当てる。写真を鋭く睨む目は、遺体を思い出しているのだろう。


「確かに、二人とも死亡推定日数の割に中身はダメになってた。特に薬物検出に必要な胃や肝臓、腎臓は膵臓液のせいで悲惨だったわ。自己融解だけを進めようと思ったら、その節は考えられる」

「えっと……すみません。死体の処理はそうだとして。どうやって健康な人を、その、突然死させるんですか?」


 恐る恐る口を開いた竹輔を一瞥いちべつした東は、腕を組み変えた。


「一つ。シルデナフィル、通称バイアグラを過剰摂取オーバードースさせた可能性はあるわ。それなら、突然死を誘発できるかもしれない」


 片岡と菊田があーと声を上げ、そっと背を向けた。蕗二は険しい顔で腕を組み、竹輔がわざとらしい咳をしながら視線をそらす。芳乃と野村は首を傾げた。


「なんですか、その薬」

「れっきとした治療薬だけど、いまだ正規品を恥ずかしがって裏物を買う人が多いのよ。でも、それらには正規品の倍の有効成分が入っている。それを使えば、割と簡単に副作用が出るわ」

「ちなみにー、その副作用はー?」

「急激な血圧低下や心不全を起こして、心臓発作で死ぬ」


 東と蕗二の鋭い視線が絡み合う。


「じゃあ、被害者はそれを知らずに……?」

だまされた。の方が正しいかもしれないわ」


 ふと、低いバイブ音が鳴った。菊田が素早くポケットから小型液晶端末を取り出すと、画面を指でなぞり顔の前に持ち上げた。向こう側の男が小さな声で何かを報告している。それに短く返事をすると、菊田は画面を再びなぞり、ポケットに戻した。


「どうしました?」

帳場ちょうばの部下から連絡があった。被害者ガイシャ、高山の恋人を重要参考人として事情聴取チョウシュしてるらしい。どうやら、高山と同じ大学の生徒のようだ」


 ≪三人≫が驚いたように声を上げる。蕗二は眉間の皺を深くした。


「誰が、聞き取りを?」

「原宿署の椛島かばしま巡査部長だ」


 思わず舌打ちする。椛島と言うことは、あのたちたちが関わっているはずだ。あの男なら、強引な手を使うかもしれない。

 沈黙の中、東が大きな溜息をついた。


「容疑者が出たみたいだけど、野村かのじょの仮説が正しいか、もう一度遺体を調べるわ。何か分かったら、報告する」


 東がヒールの音を響かせながら、部屋を出て行った。散らばったままの写真に視線を落とした竹輔が、指先で画像をつついた。


「本当に、恋人が犯人なんでしょうか?」


 蕗二はテーブルに両手をついて、頭を振った。


「いや、そう簡単に終わるとは思えねぇ。ここまで手の込んだ犯行なら、真犯人ホンボシは別に居るって考えるべきだろ」


 自分で言った言葉に、背筋が凍る。

 犯人はこっちが何を調べるか知っている。

 だから、自然死に見えるよう偽装した。

 しかも、もし事件だとばれても、捜査を難航させる為の手を打っている。


 全てはまだ、犯人の手中だ。


 蕗二は机を三回ノックする。新たなファイルが開き、その中から被害者の情報を引き出した。


「竹、林と高山には何か他の共通点があるはずだ。洗うぞ」

「てっ、手当たり次第ですか? 無茶すぎますよ!」

「無茶じゃない。被害者と犯人はたぶん顔見知りだ。じゃなきゃ、こんな薬飲むわけないだろ」


 そういう流れに持ち込むくらいなら、多少知識さえあれば誰でもできる。だが、被害者達がいきなり薬を渡されて飲むとは思えない。飲んでも大丈夫だと、信頼した相手のはずだ。


「じゃあさー、やっぱり恋人が一番怪しいよねぇ?」

「その前に、薬が正規品なのかどうか確認するべきじゃないかね? 正規品なら、それこそ足がつく上、証拠になるはずだが?」


 野村と片岡の言葉に、蕗二は言葉を詰まらせる。と、小さな呟きが強く蕗二の鼓膜を叩いた。


二手ふたてに分かれませんか?」


 声の先で、黒い瞳が蕗二を見据えている。


「聞き込みと同時に、薬物の入手ルートを探した方が手っ取り早くないですか? まあ、恋人が本物の犯人だったら無駄骨ですけど」


 肩をすくめる芳乃に、蕗二は視線を画像に落とした。

 確かにそうだ。だが、どう二手に分ける?

 薬の情報を掻き集めるなら、片岡が妥当だとうだ。それはいい。問題は……。


 蕗二は、写真を見て討論を始めた≪三人≫を視線だけで観察する。


 聞き込むとなれば、やはり慣れた相棒である竹輔と行動するほうがやりやすい。

だが、今回の被害者は≪ブルーマーク≫だ。

 恐らく、≪ブルーマーク≫からも話を聞く可能性がある。警察が下手に近づくと警戒され、まともに取り合ってもらえない。それなら、≪三人≫の誰かを連れて行くべきか。

 ここは、嘘を見抜ける芳乃だろう。いや、待て。今回の事件を考えると、恋愛事情がからんでくる。男女間のデリケートな話だ。女性に話を聞くなら、野村の方が聞き出しやすいはずだ。


 そうなると、監視の目のない≪二人≫を放置することになる。それを避けようと思えば、俺か竹輔が分かれて行動することになる。断然、交渉に向くのは竹輔だ。だが、素人である野村の代わりに、竹輔が全てを判断することになる。

 信頼してないわけじゃないが、聞き込みでは何があるかは分からない。もし真犯人と接触した際、竹輔か野村が負傷するような事態は避けたい。これは蕗二が野村と組んでも同じだ。


 蕗二は強く目をつぶり、深呼吸する。ゆっくりと目を開け、白く光る机から視線を上げると、黒い眼が待ち構えていた。細められた瞳は覚悟を問うている気がした。蕗二はその視線に強く頷き、腹に力を入れた。


「捜査を二手に分ける」


 低くはっきりとした蕗二の声に、全員の視線が集まった。


「俺と竹、野村で林と高山の交友関係の聞き込みに行く。片岡と芳乃は、菊田係長と薬物の捜査を頼む。何かあったらすぐ連絡してくれ」

「え、係長、いいんですか?」


 竹輔が蕗二と菊田を交互に見る。蕗二は頷き、菊田は目尻の皺を深くした。


「いい着眼点だ。私はまだ【この班】の補佐の任を解かれていない。つまり、班長である蕗二君に従う形なら、手を出しても構わないはずだ」


 竹輔が表情を明るくした。蕗二は強くうなづいて、声を張り上げる。


「頼むぜ、お前ら。必ず、犯人を見つけるぞ」






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