第三話 美味しい話
序章
第三話 美味しい話
「うおおおおおっ!」
放たれた鉄の矢を辛うじて躱し俺は茂みの中を疾走していた。《ヒュンッ》と言う風切り音がかすめるが振り返る余裕すら無い。今はただ逃げるのみだ。
『あわわわわわわわっ!』
役に立た無いアルマと名乗る要請みたいな奴はパニックになってデタラメにステータス画面を起動して必死に調整していた。だが全然間に合いそうには無かった。この役立たずが! とーー蹴り飛ばしてやりたいがそんな時間は無い。
「アルマ! まだか!」『ま、まって下さい! 私自身がアガペから分離されたばっかりで』「言い訳はいい! このままだといきなりゴブリンに嬲り殺しだからな!」『は、はい〜! が、頑張ります!』
俺はいきなりゴブリンの集落のど真ん中に強制転移させられ、武器も防具もジョブも一つのスキルも無く逃げ出すしか無かった。
あの時殺され無かっただけマシなのか……桐子と雪代から逃げ出した俺はこのユグドラシルの何処かに居るのは間違いないのだが、絶賛命の危機真っ最中だった。
もしかしたらゴブリンくらいなら素手でもいけるかもしれ無いが、三十匹以上に襲われている今の状況では試してみる気にもなら無い。
「うおおとっ!」転けそうになるのを必死で堪えて走り続ける。
俺は森の中を茂みに突っ込み斜面を転げ落ちながら逃走を続けているが、ゴブリンの森の中での移動力は侮れ無い。とても逃げ切れるとは思えなかった。
「アルマ! てめえいつまでかかってるんだ!」『ひぃいいん、まってまってまってまっええ! あ、あと二分……位?』「ならお前が時間を稼げ!」『えっ?』
俺はむんずっとアルマの頭を掴みそのまま背後のゴブリンに投げ付ける。
「どりゃあああっ!」『やめてええええっ!』
「ギギィッ!」びっくりしたのか迫るゴブリンの注意が削がれ脚が止まった。
俺はこの隙を利用して引き離しにかかる。アルマは死ぬ事は無いから活躍して貰わなければ。遠くから『酷いですう』とか聞こえる気がするが空耳だろうと思う。「ざまあみろ」いやいや旅の仲間にそんな酷い事は言ってはいけ無い。次はオークの群れに投げ込んでやろうと心に誓った。
その時
〈キンッ!〉と光が放たれーー俺は虚空に浮かぶ遺跡のような空間に転移していた。
よく見るとアルマが隅っこで『ゴブリンが…ゴブリンが…』とうわ言の様に呟いている。何事も経験する事が大切だとつくづく思った。アルマにはこれからも色々と経験を積んで貰うとしよう。
でっ!
「アルマ、それでどうなったんだ!」
『ううっ、佐藤さん酷いです。アルマはゴブリンに穢されてしまいました。うううっ』
「ばかやろう! 命あっての物種だ! で、これで【魂の器】は起動できたんだな!」
『そ、それが…完全な起動はやはり出来ませんでした』
「で、何かゴブリンを倒せる方法はあるのかか!」
『は、はい。それは何とかーーこちらをご覧下さい』
STATUS
HP30/30
MP50/50
STR 10
DEX 10
VIT 10
STA 10
AGL 10
INT 10
WIZ 10
MND 10
[災厄の渦]
燦然と[災厄の渦]が輝いている……これの所為なのか? この一連の不幸は…
正に初期値って感じだな。
「で、これでゴブリン三十匹にどうやって無双するんだ!」
『当然こんな初期値では相手になりませんから、ここは裏技といきましょう』
「裏技だと?」
色々と美味しい話になるのか?
「で、どうするんだ?」
『は、はい。残念ながらまだジョブシステムは起動出来ません。本体のアガペも分離したままですので、復旧にはかなりかかりますが、生き残ったシステムと緊急措置を利用します』
「で、具体的には?」
『はい、先ず、最初から用意されていたプログラムはもう起動出来ます。元々用意されていましたから、先ずはこれをダウンロードします』
アイテムボックス
•ショートソード
•ナイフ
•ヒールポーション×10
•ショートブレッド×30
ゴールド:ジュエル
[3000G:0J]
『先ずはショートソードとナイフを装備して下さい! で、その後、貴方にゴブリン討伐の緊急クエストを出します! それを利用して一気にレベルアップして下さい! クエストのレベルに応じて受け取れる報酬には縛りが有りますが、今はシステム自体が崩壊寸前なので、緊急管理体制に移行していますので、十分な報酬が受け取れます! ゴブリン五匹毎に受けられます。それ事にレベルアップ出来るので、その時に強力なスキルを取得してしまいましょう! コレはこの混乱した時に発動される秘密の処理です。本来は対象者の知ら無いうちに神の奇跡として執行される上級処理を流用します! ここまでの裏技はこの後も出来るかどうかは分かりませんから、慎重にやって下さい!』
そう言ってアルマはスキルを渡して来た。
[身体能力強化LV3]
[剣技LV3]
[投擲LV3]
『最初に渡せるエントリースキルはこの三つです。これで何とか凌いで下さい!』
「近接戦闘系か」
先ずはゴブリン三十匹を倒すしかない。
『崩壊した部分以外の【魂の器】本来のスキルは全部使える様になりますから、それまでは生き残りを賭けて貰うしかありません。よろしいですか?』
俺はショートソードを振り[身体能力強化LV3]と[剣技LV3]を確かめる。ショートソードを右手に、ナイフを左手に持ちその重さを確かめる様に何度も振るった!
その確かな重みは手の中で確かな攻撃力を感じさせてくれる。俺は大きく息を吸い込みーー現実世界に引き戻されるのを待った。
『タイムアウトを解けば後方に八匹、その後ろに十二匹、さらにその後ろに貴方を包囲するように右手に六匹、左手に九匹が追跡しています。距離は全体でも三十メルしかありません。弓矢をもっているゴブリンアーチャーが五匹います。包囲されたら……多分嬲り殺しです。よろしいですか』
「いいわけないだろ!」と言いたいのをグッと飲み込み、俺は意識を森の中に集中する。
「カウントダウンしてくれ! 戻れば直ぐに戦闘だろうからな」
『は、はい! ではいきます!』
『5』
『4』
『3』
『2』
『1』
『ログアウト!』
俺は森の中に突撃した