第十七話 罠
無理押し過ぎたかな( ̄ー ̄)
第十七話 罠
☆
「グルルルルッ」
突然吹き飛ばされたゴブリンウォーリアは唸り声を上げ周囲を警戒するが、一体何が自分を吹き飛ばしたのか理解出来無いでいた。まだ理性が残っていれば佐藤の事が想像できたかもしれ無いが蜘蛛の呪詛で狂わされているゴブリンウォーリアにはそんな判断は不可能だった。あるのは命令に従い森から逃げようとする輩を捉え殺すことだけなのだから。
しかし目の前には二人の女が身構え対峙している。
ゴブリンウォーリアは先ずは二人を始末する事を決めた。
「ギギィ! ギギッ!」
〈ガサッ〉
「!!!!!」
突然ゴブリンウォーリアの背後で何かが動く音がした! 咄嗟に振り返ると《ドズンッ》と鈍い音がしてまた吹き飛ばされる。
(イマノハナンダ!)
残り少ない理性で必死に考えるがそれは無理な相談だった。見えない敵からの攻撃に対処する判断能力はこのゴブリンウォーリアにある訳が無いのだ。
(ドコダ! ドコニイル!)
姿さえ見えれば自分には蜘蛛の糸も剛力を誇る脚もある! しかし、見る事も叶わず気配すら捉えられ無い敵に手も足も出ないのだ。
胸の中に沸き起こる怒りの感情を抑えられずゴブリンウォーリアは目の前の二人の女に襲いかかった!ありったけの力で蜘蛛の糸を吐き、二人を拘束するべく全ての力を注ぎ込む!
「きゃああああっ!」「いゃあああっ!」
二人の悲鳴が森の中に響く!
(ヨシ! トラエタ! チマツリニアゲテヤルゾ!)
勝利を確信しその二人の女を八つ裂きにしてやろうと蜘蛛の糸に拘束されている筈の女達に襲いかかったその時、動けな筈の女達がスッと空に舞い上がった。そして自らが吐いた蜘蛛の糸が宙を舞い襲いかかって来る!
(ナ、ナニガ!)
蜘蛛は何種類もの糸を吐くし、自らの糸の上を移動するのだから当然糸の食いつくのを止める術もある。しかし捕食の為の糸と巣網を作る為の糸は全くの別物だ。その糸なら蜘蛛本体にも絡みつくのだ。巣網の糸とは違うその糸は、二人の女に確実に絡みついたかに見えたが、それは佐藤の罠だった。二人を超能力LV3のテレキネシスで覆い、糸を中空のギリギリで止めたのだ。そして二人を抱え、身体能力強化LV3を使い飛び上がり、そのままテレキネシスでゴブリンウォーリアに叩き付けた。予期せぬ反撃を受け絡みつく自ら吐いた蜘蛛の糸に動きを止められ、その移動力を喪失したゴブリンウォーリアに佐藤の追撃が始まる。
「[雷遁 飛雷]」
雷撃をくらい動きを止められたゴブリンウォーリアは蜘蛛の糸の拘束と相まってビクビクと痙攣することしかできない。そこへさらに
「[ハーム]」
念動力で締め上げられ完全に動けなくなったゴブリンウォーリアにジルは最も強い毒針を撃ち込む。いかな蜘蛛の化け物であるとはいえゾンビとは違う。たとえどれほど強力な再生能力を持っていたとしても、その毒は確実に死えと誘うのだ。そこへクリスの魔法が止めをかける。
「[フレイムソード]」
効果時間の長いフレイム系の火術は蜘蛛の糸とハームで厳重に拘束された状態なら確実に致命傷を与え黒焦げにしてしまう。断末魔の呻き声だけが森の中に響いていた。
『こいつには梨花の魔力ドーピングは無かった様だな』
『おそらく何らかの起点があのゴブリンキャンプにあるのでは無いですしょうか? その証拠にあのゴブリンメイジが化けた大蜘蛛は最大の戦力にも関わらず追って来ませんからね』
『……ふむ、起点か』
そして、およそ三分程をかけ、丁寧に焼かれたゴブリンウォーリアはさしもの蜘蛛の呪詛を持ってしても再生が間に合わず、消し炭になっていった。
「……終わったか」
隠密と忍足を解き、ハームを解呪し、佐藤が森の中に現れた。ジルとクリスも駆け寄って来る。
あの時、ゴブリンウォーリアを釘付けにした隙にアルマを再びジルに送り、情報を引き出し、作戦を練り、命令を下した。その為にどうしてもゴブリンウォーリアを足止めしなければならなかったのだ。
「……よく間に合ったわね」
「まさかコッチに向かって来るとは予想外だったな」
『ジルさんが佐藤の言うことを信じたのが脅威ですよ!』
「……女の勘…かな?」
「ええっ! ジル姉、勘? 勘だったの!」
クリスは衝撃を受けていた。勘で蜘蛛の糸の直撃を受けたのかと、今更ながら脚が震えるのだった。
「ハームだけではあのゴブリンウォーリアを抑え込むのはさすがに無理なんだ。しかもあの機動力を森の中で発揮されたら手も足も出ないし、俺の火力では雑魚はやれてもゴブリンウォーリアに蜘蛛の呪詛がついたら流石に渡りあえないからな。クリスが火術のスペシャリストで助かったよ」
そう、ファイアー系だけでは無く炎を自在に操り効果時間の長いフレイム系が無ければ焼き尽くすのは困難だ。しかもあのゴブリンウォーリアに接近するなど魔法使いにできるわけがないのだ。
「ギリギリで命を拾った訳だ」
「ええ、でもまだよ」
「そうだね、まだまだよね」
『そうですね。見事に追いつかれましたね』
佐藤とジル、クリスの周囲には蜘蛛の化け物が迫っていた。それほどゴブリンウォーリアは難敵だったのだが、問題はこれからだ。
「さて、ではこれからの事を相談しようか」
「取り敢えず立ち話もなんだから走りながらにしない?」
「ええっ! また走るの!」
『それは賛成ですが、で、どちらに走りますか? 森の中、つまりゴブリンキャンプのボス戦に挑むか、それとも森の外へ逃げるか』
そう、次が最後の決戦となるのだ。