第十六話 ジルの決断
かなり無理展開!( ̄◇ ̄;)!
第十六話 ジルの決断
☆
森の中を疾走する佐藤は周囲をロケイトとサーチで索敵しながらジルのアジトを目指している。今のままでは梨花の大蜘蛛と蜘蛛の呪詛には対抗出来ないと判断したからだ。
(周囲にはまだ蜘蛛の化け物はいない様だ。やはりあそこに何か在るんだな)
そして森の中に結界を敷くということはそこから呪詛を広めるつもりなのだろう。しかし強制転移させられていきなり森の中に叩き込まれた所為でこの森の場所が特定出来ず、梨花の意図を読みかねていた。
だからーー佐藤はジルの元に向かっていたのだ。そこに行けばこの森の情報が得られる筈なのだから。
当然の様に先ほど倒したゴブリンと盗賊達の死体はどこにも無い。ゴブリンキャンプに現れなかったという事は
『当然ジルさん達のアジトでしょうね。ゴブリンウォーリアだけは違うかも知れませんが』
そう、俺より先にジルがゴブリンウォーリアに遭遇したらーー恐らく勝てないだろう。いや俺でもどうなるか分からない。佐藤はそう考えていた。
そして、佐藤のサーチに二つの移動する個体が現れた。その後方には複数の反応があるがおしなべて移動速度は遅い。
(これは蜘蛛の化け物か? これならジルは逃げ通せそうだが。何故森を抜けずこちらに来るんだ?)
そう、佐藤は森の中から逃げ出すジルに合流するつもりだったのだ。
『……ジルさん達は…佐藤さんに助けを求める気なのでは?』
仲間を皆殺しにした俺の元に? 佐藤は有り得ないだろうと流石に困惑したがーーもしもアジトを全滅させられたのなら、その可能性もあり得る気がするとも考えた。しかも、現実にジル達は蜘蛛の化け物に追われながらこちらに向かっている。距離にして二百メルほど
「この丘の向こう側か」
互いに相手の方に移動していた所為で思いの他近い。しかし、兎に角合流してみなければどうにもなら無い。そう思い動き出した時、アルマが叫んだ。
『一つ移動速度の速い個体がいる様です。真っ直ぐにこちらに向かっていますが、このままですと』
そう、先にジル達と遭遇する。そしてあからさまに移動速度が速かった。間違いないだろう、それは
「ちっ! ゴブリンウォーリア蜘蛛もどきだな」
『……おそらくは…いえ、間違いないでしょうね』
「最悪だな」
『もしも同じレベルの大蜘蛛なら確実に足止めされてしまいます。どうしますか? 見捨てて逃げるならここで躱さないと巻き込まれてしまいます。距離はあと百五十メルほど、蜘蛛の化け物も同じくらいの距離、そしてジルさん達の背後には恐らく五十匹程の蜘蛛の化け物がいると思われますが』
佐藤はじっと唇を噛み締め、森の中をーージルの向かっている方に視線を向ける。
♢♢♢
その時、ジルとクリスはアジトに群がる蜘蛛の化け物を突破して、佐藤のいる筈であるゴブリンキャンプに向かっていた。
しかし、これは幸運でもあった。真っ直ぐに森を抜けようとすると、ジル達は気がついていないが、ちょうどゴブリンウォーリアと蜘蛛の化け物に挟み撃ちにされてしまう所だったのだ。ギリギリの決断が功を奏したと言えなくも無いが、それは少しばかりの時間的余裕が出来たに過ぎない。間違いないなくゴブリンウォーリアと思しき個体の移動速度はジル達を上回っており、この森の中にいる限り必ず捕まるのは確実なのだ。そしてゴブリンウォーリアとの距離はあと百メルを切っていた。
「はぁっ、はぁっ、ま、まってよ! 私はジル姉みたいには走れ無いんだから!」
「急がないと追いつかれてみんなまとめて血祭りにされるわよ!」
そう、ジルは焦っていた。少しでも距離を稼いで合流しなければ佐藤だってどんな状態になっているかは分からないのだから。
森の中を疾走するジルとクリスは息も絶え絶えになりながらそれでも佐藤の元に必死に向かっていた。その側面からゴブリンウォーリアがせまって来ているのも知らずに。
しかし、流石にその禍々しい気配に、先ずはジルが気がついた。盗賊でもあるジルはある程度は生体感知ができるのだが、この気配はただの生き物では無い。そう、自分達の背後から追い掛けて来る奴等と同じものだ。そう直感していた。しかもその移動速度は明らかに自分達よりも速い。
急に立ち止まるジルにクリスは驚き
「どうしたのよ! 急ぐんじゃ無いの!」
振り返るとジルは悔しそうな顔で妹にこう告げる。
「……間に合わなかったみたい」
そしてクリスも遅ればせながら気がついたようだ。その気配は明らかにさっきまでアジトで対峙していた奴等とは桁違いだった。どちらかを犠牲にして逃げるなんていう生易しいレベルでは無い。それほどの禍々しい魔力を携えその化け物はあっと言うまに追いついて来た。
ジルは双剣を構え、クリスは残り少ない魔力を迫り来る化け物に向けようと杖を構えた。しかしその化け物は現れ無い。あと数十メルには来ている筈なのにその方向には何も見えなかった。
(……おかしい! いる筈なのに!)
焦るジルは周囲を隈なく探すが何処からも現れ無い。しかしこのままでは追い縋る蜘蛛の化け物に挟み撃ちにされてしまう。
「ジル姉、何処にいるの!」
「分からない! いる筈なのよ!」
その時〈ガサッ〉と頭上から音がした。
「「!!!!!」」
恐る恐る上を見上げるとそこには
「ゴブリンウォーリア!」
佐藤が倒した筈のゴブリンウォーリアが身体から巨大な脚を何本もはやし樹々の中を頭上にまで接近していた。
「こいつ! 気配を消せるの!」
圧倒的な気配で前方に集中させて直ぐに気配を消し、樹々を移動していつの間にか頭上にまで接近していたのだ。
(まずい!)ジルはせめてクリスだけでもと声をかけるが呆然とする妹は虚を突かれ微動だにし無い。
そしてゴブリンウォーリアはその無数の触手を二人に向けーー頭上から襲いかかって来た。ゴブリンメイジとは違い炎のブレスや蜘蛛の糸では無くあくまでも直接攻撃でケリをつけるべくその触手を振るうその時、そのゴブリンウォーリアが真横から弾き飛ばされた!
《ドズンッ》と鈍い音がゴブリンウォーリアに炸裂しその身体が有り得無い程に折れ曲がって吹き飛ばされていった。
それはジルの見た事がある魔術だった。
「……佐藤? いるの⁉︎…」
しかし佐藤の気配は無い。しかしジルは確信していた。この森の中、私達の背後の何処かに、佐藤はいると。そして私達を守るべくその刃をじっと構えていると! そう確信した。
なら、自分の取るべき道は一つしか無い。ここでゴブリンウォーリアと対峙し、佐藤のためにあの化け物を釘付けにするのだ。
そして再び双剣を構え、吹き飛ばされた化け物と対峙した。
そして決断した。ここでこの化け物を倒すと! でなければ次は無い。一人ででも逃げられる佐藤が二人の為に危険をおかして助けに来てくれたのだ。それに答えなければなら無い。でなければこの蜘蛛の呪詛を止める事は出来無い。そう判断したからこその決断だった。
「……ジル姉…」
「……クリス、覚悟なさい! ここであの化け物を足止めするわよ!」
ジルの気迫にクリスは諦めたかの様に従う。
「……で、そのサトウとやらは見つけたのね?」
コクリと頷くジルにクリスは半ば呆れた様にこう言った。
「はぁ…またとんでも無い奴を信頼したもんだね」
二人の姉妹は蠢く化け物を見据えジッとその動向を注視した。
♢
『またえらく信頼されたもんですね』
『それが人徳というやつだな』
『バカな事を! このままなら二人は死亡確定なんですよ!』
『……それはさせん!』
『……まさか…佐藤さん』
『二人はもう俺の物だからな!』
『……本当に佐藤さんて懲りないんですね』
佐藤はそっと森の中を移動し、二人の背後から周り込みゴブリンウォーリアと間合いを詰めていく。
死闘が始まろうとしていた。