第十五話 激突する殺意
森の中は忙しい!
( ̄◇ ̄;)
第十五話 激突する殺意
☆
「囲まれたか」
『囲まれましたね』
「そして正面には二つに分裂した分別の無いゴブリンメイジ蜘蛛もどき」
『そして魔力ドーピングする魔女が背後から手ぐすね引いてます。しかもまた佐藤さんの関係者です。余りにも濃いい人間関係なんですね。思わず同情してしまいます』
「心遣い痛み入るよ」
『社交辞令ですけどね』
「つまり『巻き込まれる私の身になってみろ』と?」
『言いたい事は山ほどありますが先ずは……』
「逃げようか!」
『激しく同意します!』
「[火遁 炎弾]!」
朔弥は正面のゴブリンメイジ蜘蛛もどきの分裂した二体に向かって[忍術LV3]を放った。物理攻撃ではラチがあかないと即座に判断し足止めを掛けたのだ。[忍術LV3]の特徴は火力こそ低いものの[超能力LV3]ほどでは無いが発動が短く、属性効果がある事だ。そして消費MPが低いのも強味となる。
一瞬怯んだ隙に佐藤は身を翻し包囲網を突破に掛かった。
強力な蜘蛛の呪詛はザコであるゴブリンを危険な敵に変えた。既に数十匹にまで膨れ上がっている奴等はさらに数を増やしている可能性が高い。そう判断していた。しかも、さらにゴブリンウォーリアまで控えている可能性が高いのだ。
「『逃げるが勝ち』とはこの事だな」
『正確には『逃げれれば勝ち』ですがね』
「確かに!」
そう言って朔弥は森からの突破を計る。
「そういや、ジルのアジトはどっちだったかな?」
『!!! 佐藤さん! まさかさっきの続きをするつもりんですか!』
「馬鹿野郎! 人助けにきまってるだろ!」
『……あれほど命を狙われてもまだ懲りて無いんですね。本当ならヒロインを救うヒーローの立ち位置なのに、邪な意思しか感じ取れ無いとは』
「これも運命と言うヤツだな」
『なんでも運命のせいにされたら運命もさぞかし迷惑な事でしょうね』
『あらあ☆ 逃がして貰えるとでも思ったのかしら☆』
「……梨花…暫しの別れだ!」
二つに別れたゴブリンメイジを操りさらなる魔力を注入して襲い掛かろうとしたその時佐藤はありったけの魔力を込めて[雷遁 飛雷]を放つ。
『!!! よく気がついたわね!』
「勘には自信があるんだよ!」
至近距離からの直撃を喰らいゴブリンメイジの動きが止まる!いかな傀儡とは言え完全に操る訳では無い。あくまでも再生能力と精神支配、それを魔力を注ぎ込む事により成り立たせているのだ。当然いずれは再生は可能だが暫くまともには動けない。そして雷撃は圧倒的に到達速度が速いのが特徴だ(かわりに耐性を持つ者も多い)。
「どうせ全部の蜘蛛もどきを操れる訳じゃ無いみたいだしな! そのゴブリンメイジが核になって周囲に呪詛を撒き散らしているのか?」
『ふんっ! 甘いわね!』
『アルマ、どう見る?』『やはりこの近くに魔力の起点があるようです。ただ蜘蛛の呪詛そのものはゾンビの様に感染するタイプなのは間違いないです! ゴブリンメイジ程の個体はさすがに魔力ドーピングが必要なんですね』『ならば』『そうです! 目の前のゴブリンメイジを躱せばグッと逃げおおせる可能性が高くなります。ただし…』『ただし?』『あの蜘蛛の呪詛が広まれば大変な事になるでしょうね。物理攻撃が効かないという事は魔法使いが激突するか火計しか有りませんが、余りにもも数が増えると被害の拡大を止める前に国の一つや二つは壊滅するかも知れません。今なら高位の魔法使いがいれば解呪する事も出来るかも知れませんが』
佐藤は一瞬悩んだ。このままここで対峙してゴブリンウォーリアまで現れたら手の付けようが無い。次はさっきの様に油断する訳が無いのだ。
(梨花の隠し球だった可能性も高いしな)
とは言え逃げても後から手がつけられ無い可能性もある。桐子と雪代の例から考えると目の前の梨花もとんでも無い秘密をもっている可能性も高い。
「……何気に転生直後からラスボスクラスが目白押しなんだけど」
『さすが[災厄の渦]ですね。単に巡り合わせだけでもこの死亡フラグの連発は驚きの高性能ギフトですね』
(決して自慢にはなら無いな)
『相談してる場合じゃ無いわよ!』
「ギャオオオオオオオオオッ!」
「!!!!!」
『!!!!!』
梨花の魔力がさらに収斂し、二つに別れていたゴブリンメイジの身体が無理矢理接合していくと、そこからさらに蜘蛛の脚が伸び巨大な銀色と漆黒のマダラの躰がズルリと抜け落ちて来た。ゴブリンメイジと融合しているのか顔が醜く歪み蜘蛛のそれとは一線を画している。
「……つまり」
そして膨れ上がる魔力が巨大な爆炎となって襲いかかる!
「やっぱり魔法が使えるのか!」
逆巻く炎がまるで津波の様に襲いかかって来た。あっと言う間に直撃した場所を燃やし尽くしていく。
『!!! これは単なる魔法では有りません! 炎のブレスに何らかの燃焼剤が混入しています! 魔力はその火力を底上げしているんです!』
炎を躱しさらに周囲に群がる蜘蛛の化け物を牽制しながら森の中を転げ回る佐藤はそれでも諦めてはいない。しかし森の中は蜘蛛のフィールドでもある。この上魔力を込めた糸の結界でも張られれば危険度は格段に上がる事は間違いない。
「フボオオオオッ!」
当然の様に大蜘蛛は蜘蛛の糸を撒き散らし結界を作り上げようとしている。しかし蜘蛛の化け物達はーー「同じ蜘蛛の仲間なら奴等は動ける訳だ」『最低ですね』「同感だ」そう、徐々に空間を占有されていくのだ。しかし蜘蛛の化け物は動ける。
「最悪の展開だな」
『どうにもなら無いですね』
既に周囲数十メルには撒き散らされた蜘蛛の糸で覆い尽くされている。
「よし! やっぱり逃げよう!」
『なっ! 本気ですか!』
「命あっての物種だ!」
『そ、そのせいで多くの民が死ぬ事になるかも知れないんですよ!』
「じゃあアルマがやるか?」
『!!! 最低です! 佐藤さんは本当に最低ですね!』
「懸命だと言ってくれないか?」
そう言うと佐藤はありったけの魔力を込めて[火遁 豪火球]を放ち目の前の蜘蛛の糸と群がる蜘蛛の化け物を燃やし尽くし包囲網の一端を突破して行った。
「じゃあな! 梨花!」
そして隠密と忍足を使い森の中に消えて行く。
梨花は巨大な蜘蛛を操りながら佐藤を見送る。
『……逃げた…の?』
完全に気配を消した佐藤を探ろうとしたが、さすがに距離もあり、膨大な魔力を注ぎ込んでいるため、流石の梨花といえども追跡は困難だった。
しかし蜘蛛の呪詛は着実にその効果を増している。