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第十四話 蜘蛛の呪い

事態はどんどん悪化していきます!

森の中の死闘は続く!

( ̄Д ̄)ノ

第十四話 蜘蛛の呪い



「はぁっ! はぁっ! はぁっ!」


ジルは森の中を全力で駆け抜けている。アルマからの指示を受け、半信半疑ではあるが急ぎアジトに向けて帰還しようとしていた。


(な、何がどうなっているのよ!)


ゴブリン掃討の途中、いきなりのアジトへの帰還命令に戸惑いながらも、ジルは周辺に漂い始めた禍々しい、胸を締め付けるような気配を察知し、その表情には焦りの色が浮かび始めている。何かが背後から迫って来ている、それだけは確信が持てた。しかもそれは人やゴブリン、魔獣が持つ生き物のソレとは違う、全く異質な物だとしか思えない。


その気配はアジトへ向かえば向かうほど強くなっていくのだ。そして一番気になるのは、佐藤に倒された仲間のいた場所から死体が一つ残らず消え去っていた事だ。


ジルの知る限り、それを説明出来る現象は一つしかない。それが杞憂である事を半ば祈る様に願いながら、森の中を走り抜けるジルがやっとの思いでアジトに辿り着いた時ーーその願いが最悪の形で裏切られた事を思い知る事になった。


「……ちょっと…嘘でしょ! どういう事よ!」


ジルの目の前にはーー仲間が居た。いや、かつて仲間だった者達が居た。佐藤に殺された筈の仲間が、群れをなしてアジトに襲い掛かっている。最初は死霊術かとも思ったが全く別の物だとすぐ気がついた。かつて仲間だった物達からは何かが生えている。そう、まるで蜘蛛の脚の様な触手が何本も、何本も生えている。そして、顔や身体の一部から牙を持った口の様な物が生えて、生きている仲間に襲い掛かっているのだ。さしものジルも仲間が仲間を襲う阿鼻叫喚の地獄絵図に呆然と立ち尽くす事しか出来なかった。


「ぎゃあああっ! やめろ! やめてくれえ!」「来るな! くるなあ!」「く、くそお! この、化け物めえ!」


必死に抵抗する仲間達も一人、また一人と蜘蛛に取り憑かれた化け物に襲いかかられ、襲われ命を落とした者はさらに蜘蛛の化け物になり、さらなる血肉を求め仲間を襲い、アジトは壊滅状態に陥っている。少ないとはいえまだ二十人以上は居た筈のアジトはもはや蜘蛛の化け物の巣となり、仲間化け物苗床と化していた。


「……ああっ……ど、どうすれば……」


溢れかえる蜘蛛の化け物はアジトを覆い尽くしている。悲鳴も殆ど聞こえ無くなりつつあった。そう、ここはもう自分達のアジトでは無い。


しかし、そのアジトに爆炎が起こる。その爆炎は蜘蛛の化け物を焼き尽くし、一匹、また一匹と血祭りにしていった。そして、ジルはその爆炎に見覚えがある。それは…


「クリス! クリスなの!」


しかし、砦の中でその魔法を操る者にはジルの声は届いていない様だった。多勢に無勢なのは間違いない無いのだ。ジルはキッと歯を食いしばり、砦を睨みつける。そしてーー大地を蹴り風の様に疾走し始めた。地獄の様相を呈する砦にーー飛び込んで行った。その目には強い意志が宿っている。蜘蛛の化け物への恐怖心は吹き飛んでいた。その想いはーー自分の唯一の肉親であるクリスを救い出す。ただその一点のみに集約されていた。


「待ってなさいよ! クリス! 今助けにいくわよ!」


そして、ジルは佐藤の事を思い出していた。仲間を皆殺しにした佐藤なら、クリスを助け出す事が出来るのでは無いか。しかし、少なくとも今それは叶わ無い。何故なら、佐藤ですら身動き出来ない程の危険な状態に陥っているのだ。


(……私がやるしか無い)


ジルは双剣を抜きーー砦にーー蜘蛛の化け物の蠢く修羅場に飛び込んでいった。




「[ファイアーボール]!」

魔法使いであるクリスの放った火球が〈ゴォ!〉という爆炎となり蜘蛛の化け物を燃やし尽くす。あっという間に黒焦げになっていく化け物は、それでも数で押して徐々にクリスを追い詰めて行った。

「キリが無いわね!」

斬り捨てればあっという間に再生していくその化け物は、増殖すると言う点においてはゾンビに近いが、蜘蛛の特殊能力を持ち、さらに協力な再生力の効果で恐るべき難敵となっている。このまま数を増やせば、この国すら危うくする可能性があるだろう。

「[フレイムランス]!」

クリスの放った火槍が複数の蜘蛛の化け物を貫き壁に叩きつけ、その圧倒的な火力で燃やし尽くす! 確かにクリスの火術は効果的だったが、数十匹の蜘蛛の化け物には余りにも寡兵すぎる。魔力も無限では無いのだから。クリスは後退を余儀なくされていた。

「くっ! 盾役も回復役も無しじゃ」

砦の中で追い詰められていくクリスの周りにはもう味方は居なかった。最初は勇敢には戦ったが、その爆発的な感染力に戦力はあっと言う間に削られていき、今はもうクリスしかいない。

「姉さん! 無事なの⁉︎」

それを願うクリスだが魔力は残り僅かだ。たとえ助けに来てくれたとしてもその後は……


砦の中で追い詰められていくクリスに蜘蛛の触手が襲いかかる。「ギギィ!」と人ならざる奇声を発し数匹が飛びついてくるのを[フレイムソード]で切り裂くが、一匹が炎に包まれながらその触手をクリスに直撃させた。吹き飛ばされながら必死に受身を取ろうとするが壁まで叩きつけられ、思わず魔力発動体である杖を飛ばされてしまう。「ぐぐっ! し、しまった!」慌てて手を伸ばすが、無情にも杖は蜘蛛の化け物の足元に転がって行った。「あっ!」確かに魔法が使えなくは無い。しかしこれだけ接近した状態から詠唱とルーンを発動させるのは余りにも危険すぎる。その隙を突かれれば一貫の終わりだった。

間合いを詰められ、クリスが最後の勝負に出ようとしたその時、背後の扉から人影が飛び込んで来た。その影は蜘蛛の化け物の足を両手に持った双剣で斬り捨て動きを止める! あっと言う間に三匹を無力化し、落ちている杖を拾い上げクリスに放り投げた。

「ジル姉! 生きてたの!」

「まだ蜘蛛の脚は生えちゃいないわよ! さあ! 逃げるよ!」

そう、ここからが修羅場なのだ。

「仲間は!」

「……全滅よ」

そう言ってクリスは首を振った。

「……そう…」

もう仲間は居ない。みな化け物に成り果ててしまった。本当なら全て始末をつけて呪縛から解き放ってやりたいところだが

「そんな余裕は無さそうね。いくわよ! クリス! 森を抜ける! 蜘蛛の化け物はさらに増えている! 早く街に知らせ無いとこの辺りは全滅よ! この蜘蛛の化け物は止められ無い」

そう……止められ無い。戦ったクリスにはよく分かった。強力無い騎士団でもなければこの蜘蛛の化け物は止められ無いだろう。しかし、自分達が街に行くことの意味を、ジルもクリスも良く分かっていだ。杖を受け取ったクリスは立ち上がりジルに駆け寄る。

「先ずは生きてここを突破しなければ」

「ああっ、先は無い」

でも……でもその後は

「クリス、実は少し心当たりがあるんだ」

逡巡するクリスにジルはそう言った。そう、この状況でも何か出来そうな男にジルは心当たりがある。そして、その男はまだゴブリンキャンプにいる筈なのだ。苦戦はしていても、その男なら何とかするかもしれ無い。ジルは二人で森を突破するより、佐藤と合流しようと決断していた。しかし、説明する時間も説得する暇も無い。

「……クリス、私を信じて付いてきて!」

そう言ってジルはクリスの手を引き走り始めた。

「じ、ジル姉、どうしたの?」

姉妹は走り始めた。蜘蛛の化け物の包囲網を潜り抜けーー佐藤の元へと、命懸けの逃走を始めたのだ。


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