第十三話 第三の刺客
災難は続く!( ̄Д ̄)ノ
第十三話 第三の刺客
☆
「……その声は…」
ゴブリンメイジだったモノを操るその禍々しい魔力の塊は、実に親しげに語りかけて来た。
『な、何してるんですが! 早く逃げて下さい! 高エネルギーを保持していますがかなり遠くから仕掛けている様です。場所を離れれば影響力は限定的になる筈です。てかまたお知り合いなんですか!』
呆れるアルマだが言い訳の余地は無い。俺はジルに伝言を送らせる。
『ジルをアジトに向かわせて皆を連れて逃げろと伝えろ。コイツは手強いぞ』
『わかっているなら佐藤も逃げなさい! ここで死んだら元も子もないんですよ!』
『いや、簡単には逃してくれそうも無い。少なくともーー俺の事はな』
『……佐藤さん…分かりました。ジルさんにはそう伝えます』
アルマが渋々ながらも了承したのを確認し、俺はそっとショートソードを抜いた。風切り丸を構え、フラフラと前に出る。
「……久しぶりだな梨花……」
俺はずっとお兄ちゃんと呼ばせ続けてきたかつてのセフレと対峙した。
目の前には自ら斬り落とされた首を持って立ち上がるゴブリンメイジがゆっくりと前に歩を進めている。
そして背後には
『んふふ、お久しぶりだね♥︎ さて、どうする? お茶でもゆっくりって訳には行かないんだよね。私もコッチでは結構忙しいんだよ♡』
そう、かつて俺のセフレだった美少女は、俺と同じく捕まってこの世界に堕とされたようだ。
姿は見えないが間違い無くそこに梨花は居た。
「……こんな森の中で忙しいとは殊勝な事だ。久し振りの再開を祝してなんならお手伝いしても構わないんだぜ(不味い…こいつにも勝てる気がしない。あの二人の勇者と魔王もどきのコンビといい、なんで俺の周りの女共はチート持ちなんだよ!)」
梨花は「はぁっ…」と溜息をついた。そしてゴブリンメイジを操り戯けてみせる。全然可愛くは無いが
「……セフレの私まで裏切って逃げ出して、本当にしょうがないお兄ちゃんだね♡ おかけで私は変態オヤジの慰み者にされてたんだよ。少しは悪いとは思わないのかな」
そう、俺は逃げ出して多くの仲間や大切な人達を裏切ったのだ。とても言い訳は出来ない。最後の最後に異世界堕ちなんだから救いようはない。しかも堕とされた世界にさらに元の世界から放逐された[災厄の渦]を持った俺が飛び込んで来たんだから、それは俺を殺したくなっても無理からぬところだろう。
「……梨花…俺はお前がどんな目に遭ったとしても気にしないぜ! なんなら俺がもっと凄い事をしてやるぜ! この世界に来たのも何かの縁だ! さあ、また俺のものになれ! また愉しくやろうじゃないか!」
「……お兄ちゃん…気は確か?」
「……多分な」
「……そう…ならーーそれでいいわ!」
そう言って梨花の魔力がゴブリンメイジを突き動かした!
「ウギイイイイイッ!」
梨花の魔力を受け取ったゴブリンメイジの身体が跳ね上がり、ゴギンッゴギンッと蜘蛛の脚の様な黒い触手が這い出て来た。蠢くそれはおぞましい魔力を放ちウネウネとその数を増していくのが見える。
(召喚? いや……呪詛なのか?)
魔法使い系では無く物理攻撃を思わせるその形状はゴブリンメイジを食い破る様にその姿を露わにしてきた。
「シュアアアアアアッ!」
激しくこちらを威嚇して来るその蜘蛛の化物はグッと息を吸い込みーー糸の網を放って来た。
「!!!!!」
咄嗟に身を翻し[サイコブラスト]で相殺すると佐藤は距離を取り直す。
(あの蜘蛛の糸に絡まれたら終わりだ!)
完全では無い蜘蛛の形状のせいで動きが鈍いのと遠距離からのリモートなのか反応も鈍い。
『……さすがお兄ちゃん…珍しい魔術を使うわね』
「俺も色々と世間の荒波に揉まれてるんでな!」
俺は超能力から[ハーム]を選択し蜘蛛の化物を締め上げる。《ギシギシ》と虫の外骨格か軋む音が響くが、それでもアンデッド化しているせいだろうその破壊衝動を止める事は出来なかった。ゆっくりと俺に迫ってくるその姿はさらに蜘蛛の脚が増え、原型をとどめてはいなかった。
(ハームではやはり無理か)
得体の知れぬ敵に接近戦は危険だと判断し、俺は[ハーム]を解き風切り丸を一閃し[風斬]を放った。十メルの距離から放たれた大気の刃が蜘蛛の化物を斬り刻む。《ザシュッ! ザシュッ! ザシュッ!》という切断音と共に数本の脚が吹き飛んでいく。しかしーー斬られたところからまたゴキンゴキンと伸びて来る。
「……きりが無いな…」
『当たり前です! 佐藤! 何やってるんですか! あれほど逃げなさいと!』
アルムが怒鳴りつけて来る。そういやそんな事を言ってたな。
「中々に深い縁があってな。離してくれなくて困ってたんだよ」
アルムが呆れ顔でーーいや諦め顏で思念を送って来た。
『……本当にアホですね。命あっての物種なのに…いいですか、単純な回復力だけならボスクラスなアンデッドプラス謎の魔法使いからの魔力ドーピング付きなんですからね! まともにやったら必ず負けます』
『奇遇だな。俺もそう思っていたよ』
深い溜息を吐いて『それでも逃げなかったんですね』と肩を落としたアルムはジッと探り始めた。目の前の禍々しい蜘蛛の化物を。しかし、それを待つつもりは無い様だ。
『うふふ、そんな余裕は与え無いわよ!』
蜘蛛の化物は巨大な火球を放って来る。直撃は死亡確実な一撃を俺は右に飛んで躱すと[サイコブロウ]で牽制を入れーー魔力放出の隙を突いて[剣技LV3]と[身体能力強化LV3]を発揮し、襲いかかる!
風切り丸の一閃が胴体を斬り飛ばし、ほとばしる鮮血と共に両断された胴体が宙を舞った。
(手応えはあった!)
そう、核を斬り裂いた手応えはあったが、その両断された胴体からもさらに蜘蛛の脚が伸び
「……増えたな」
『……増えましたね』
どうやらお約束設定の無限再生と無限増殖が発動しているようだ。
『遠距離からのリモートだろうに、よくそんな魔力が送り込める……まって、佐藤さん、周囲を確認して下さい!』
「周囲だって? こんな森の中に何がーー!!!!!」
そこには蜘蛛の脚を生やした化物が何匹も現れていた。森の中からゆらりゆらりとこちらを向かっている。
「……あいつらは」
『……そうです。さっき倒した奴らですね』
そう、それはさっき倒したゴブリン達が蜘蛛の呪詛を受け、俺達に向かっていた。意志の無いアンデッド特有の目を向けて来ているのが分かる。
咄嗟に身を翻し森に飛び込むと、それを合図にしたかの様に蜘蛛の化物は俺に一勢に襲いかかって来る。
「ちぃっ! また逃げるのかよ!」
『よほど追われる運命なんですね。前世で余程逃げる場面が多かったんですかね? 心当たりがありますか』
「心当たりしか無いな!」
『はぁ…やっぱり』
俺は再び逃走を始める。