第十ニ話 ゴブリンメイジ
久しぶりにこっちも!
第十二話 ゴブリンメイジ
ジルと別れ、[スペルバインド]と[スペルブランチ]で足止めされているゴブリンの追撃部隊をチラと見て、佐藤はキャンプに戻っていった。当然のように隠密と忍足を使い森の茂みの中に溶け込んだその姿を捉えられる者はいない。可能性があるとすればーー「ゴブリンメイジだけだな」そう呟いてそっと見張りを掻い潜り、様子を伺う。
事前に超能力で潰したゴブリンは十匹ほど、ジルが始末しているのが最大で二十匹ほどだから、多く見積もって三十匹とゴブリンメイジが一匹の筈だ。
観察するとゴブリンメイジはしきりに一番奥の建物を気にして何度も出入りしている。何かあるのならあの建物しか考えられないだろう。
グルリとキャンプ外周をまわり、一番奥の建物の近くに侵入した佐藤は近くの小屋の背後に回り込み、入り口近くの群れに狙いを定めた。
そっと[サイコブロウ]の間合いに捉えるべく接近していく。本来なら射程の短い[超能力LV3]ではそもそも間合いに捉える事すら困難だし、普通の魔法使いではそこまて近くに行く事は出来無いが、隠密と忍足を組み合わせる事により効果的な運用を可能にしているのだ。そしてその事を実証する様にゴブリンの群れにその無色透明な鉄槌が無慈悲に振り下ろされ始めた。
《ドズン!》隣に居たゴブリンはさっきまで近くに居た仲間が、不自然な形に歪んで地面に崩れ堕ちているのを見た。そして《ドズン!》自らも激しい衝撃を受け崩れ堕ちていった。
その二匹の後ろに居たゴブリンアーチャーが咄嗟に前方へ弓を構えるが、何の気配を捉える事も出来なかった。それもその筈、[サイコブロウ]を放った佐藤はその真横に居たのだ。
佐藤はそっと手前の小屋に狙いを定め[サイコブラスト]を放った。森の中に爆発音が鳴り響く!《ドォンッ!》続けざまに《ドォンッ!》と二発の[サイコブラスト]が小屋とそこにいたゴブリン数匹を吹き飛ばした。しかし、爆発音は[サイコブラスト]がたてた音では無い。それは建物が崩壊する破壊音であり、あくまでも発射音や風切り音では無いのだ。佐藤がそっと放ち移動してもそれを捉える事は余程の手練れか高い魔力感知能力を持たなければ不可能だ。
そして、混乱するゴブリンを尻目に、佐藤は遠間からゴブリンメイジを伺う。そして予測通り、指示を出して群れを爆発した建物の方に向け敵襲に備えさせ、自らは一番奥の建物に戻っていった。
「ビンゴ!」
佐藤はそっと背後に忍びより、ゴブリンメイジが階段を駆け上がり扉を開けた瞬間ーー身体能力強化LV3の飛び蹴りを直撃させると、後方の階段部分に[サイコブラスト]を放ち同じく半壊させーー自らも建物の中に乗り込んでいった。
「!!!ギッギギィ」
不意を突かれ吹き飛んだゴブリンメイジは、それでも魔力のこもった杖を振りかぶって佐藤を捉えた!
「ほお! さすが上位種のゴブリンメイジと言う」
放たれた火球が《ゴオッ! 》と唸りを上げ佐藤に襲いかかるが、この狭い空間の中ではかえって狙いが読まれ易く「悪手だな」そう言って風切り丸を抜いて一閃! 破斬を放つ。風の属性を持つその一撃は火球を造作もなく破壊しーー室内に爆煙を巻き起こした。視界は極端に狭まるが、佐藤には敵の気配を察知する剣技LV3がある。相手を捉えられ無いゴブリンメイジに対して、佐藤は気配を頼りに風斬を放った! その一撃は《ザンッ!》とゴブリンメイジを切り裂き、致命傷を与える。そしてその隙を突き、佐藤は床を蹴って跳躍し、一気に間合いを詰めーー首を跳ね飛ばす。ゴロリと転がる首の上に、力無く崩れ落ちるのを見て佐藤は周囲に警戒を向けた。[ロケイト]と[サーチ]を使い注意深く様子を探るとやはりこの建物と最後のリーダーであるゴブリンメイジの元に集まろうとしている様だった。
しかし、周囲には佐藤か期待した反応は無い。
(おかしい? 本当にたまたまココに強制転移しただけなのか? そんな偶然が【災禍の渦】の所有者に起こるとは思え無い。俺にそんな事が起こったのなら、必ず何か理由がある筈なんだが)
しかし何も捉える事は出来なかった。佐藤には特別な索敵能力や探知能力はまだ無いので完璧では無いが、少なくとも動く物の中には何も無かった。
数十秒後、佐藤は[ロケイト]と[サーチ]を解き、ジルと合流する事にした。まだ数十匹のゴブリンは残っているが、突破する事は容易くだろう。そしてアルマにそう伝えようとしたその時『高エネルギー源! 佐藤、何かがそこに現れようとして居ます! 逃げて!』ハッと背後から殺気を感じ咄嗟に[サイコブラスト]を放った! その殺気の向こうには首の無いゴブリンがユラユラと立ち上がり杖を振りかぶりさっきの数倍する豪火球を放って来る!
「ゾンビか!」
[サイコブラスト]と豪火球が激突し爆発するが、今度は吹き飛ばされたのは佐藤のほうだつた。建物の壁に激突し突き破ると階段の下まで転げ落ちていく。身体能力強化LV3が無ければ即死していただろう事は間違いない。これは人間に耐えられるダメージでは無かった。
「ちっ! 隠れてやがったのか!」
爆煙の中から、ユラユラと歩いてゴブリンメイジだったモノが現れた。その手には佐藤に斬り落とされて転がり落ちた筈の首が握られ、その目がギョロギョロと周りを見ている。
そして佐藤は悟った。俺がココに強制転移したのはこの化物と対峙する為なのだと。
フラフラと立ち上がり佐藤はゴブリンメイジに風切り丸を構える。
周囲のゴブリン達は自らのリーダーの変貌に恐れ慄いていた。そして後退り、敗北を悟ったのか逃げ出し始めた。恐らく眷族支配の効果が死亡により切れたのだ。そして、ゴブリンメイジは別の存在になり、佐藤に対峙しようとしていた。
『うふふ! 流石にお兄ちゃんだけあるわね! 来なくていいところに現れる! 【災禍の渦】の悪名ここに極まれりって感じだね!』
ゴブリンメイジからでは無く、それを支配する存在が、その背後には居た。
禍々しい魔力を伴って