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第十一話 強襲

やっぱり風水術!

第十一話 強襲



「はぁっ」


ゴブリンキャンプを前にーージルは深い溜息を吐いた。


これから事もあろうに五十匹近いゴブリンにゴブリンメイジまでいる場所に、たった二人で挑もうと言うのだ。とても正気の沙汰とは思え無かった。


それでもジルは従うしかなかった。それ以外に自分とアジトにいる仲間を守る事は出来ない。そう思い、気の進ま無いまま森の中をゴブリンキャンプに接近していた。


(本当についで来てるんでしょうね!)


既に隠密と忍足を使っている佐藤は気配も殆ど感じ取れ無い。作戦ではジルが逃げ出すまでは佐藤が守る事になってはいるが、捨て駒にされる可能性も当然ある。それでもジルは従うしか無い。


その時〈ポン〉とジルの肩を叩くと、佐藤はそっと囁く。


「そろそろだ。心の準備はいいか?」

「ええ、気は進ま無いけどね」


優れた盗賊であるジルは気配を巧みに隠し、あと十メルの距離まで詰めていた。そして、佐藤は真後ろにいたのだ。


(ちっ! やっぱり私では佐藤を捉えられ無い)


ここまで近い場所で完全に潜伏状態をつくる佐藤に、ジルは驚くよりも呆れてしまった。しかし、こうも思っていた。あのまま佐藤ならこの森から余裕で抜け出せるのでは無いのか。わざわざ戻ってまでゴブリンキャンプを襲撃するのは、もしかして壊滅した私達の集団の為なのでは無いかーーと。もしも壊滅した今の状態でゴブリンの襲撃を受ければ、今度こそ全滅する事になるのだがら。その為には先にゴブリンを全滅しなければなら無い。そして今それができるのは佐藤だけなのだ。この森の中では。しかし、佐藤は何も言わ無いし、確かめるのも躊躇われた。先ずはこの死線を生きて潜り抜けなければーーそうジルは思い、深く息を吸い込み、双剣に触れた。



あと五メル


その先は戦場だ。



♢♢♢


ガサッ


森の中を佐藤が隠密と忍足を使い、その外周をそっと移動している。既に[ロケイト]と[サーチ]を駆使してゴブリンの布陣を掴んでいる佐藤ではあるが、絶えず動き回るゴブリンを目の前で確実に処理する為に、そっとその外周からその牙を徐々に剥こうと迫っていた。そしてジルもじっと合図をまっている。離れても意思の疎通ができるアムルを伝言役に伴い、その時をまっている。


「…そろそろかな」


外周から接近し、ゴブリンを目の前に捉えた佐藤がそう呟くと[ロケイト]と[サーチ]を用い最後の選別を行う。


(ふむ、外周には八匹ほどか)


そしてそっと精神を集中する。



《ドズン》


それは不思議な音から始まった。一匹のゴブリンが地面に崩れ落ちている。首があらぬ方向に曲がり、ピクピクと痙攣しているが、どうやら死んではいないようだ。たがーー回復できるとは思え無い。醜く歪んだゴブリンは、「…ギッ」と微かに呻くだけだ。


《ドズン》


そしてまた一匹。


今度は倒れている仲間を不審に思ったゴブリンが近寄って来た所にーーほぼ垂直に鉄槌が振り下ろされた。


(だいぶ慣れて来たな)


佐藤は少しづつ外周を移動しながら、間合いに捉えたゴブリンをことごとく叩き伏せていく。少しづつ異変に気がつくゴブリンが騒ぎ始めるその直前


『ジルさん、出番ですよ♡』


佐藤から合図を受け取ったアムルがそう伝えて来るとーー「…わかったわ」そう言ってすっと立ち上がり、ゆっくりとゴブリンキャンプに向かって歩き始めた。


(本当に近くに戻ってるんでしょうね!)


そしてそれに数匹のゴブリンが気がついた。


「ギギィ?」「…ギッ!」


もともとゴブリンは人族の女性に大変な執着を持つ種族で、被害に遭う女性は後を絶たない。しかも、目の前に無防備に現れ、しかもリーダーが飛び出して行ったこの混乱した状況でならーー釣り出されてもそれはおかしな事では無い。


ゆっくりと後ずさり、距離を取ろうとするジルをゴブリンキャンプから十匹以上もが襲いかからんと間合いを詰めていた。


その時


ジルの背後から声がかかる。


「(人気ものだな。だいぶ釣れたよ)」「(そっちはどうだったのよ!)」「(十匹ほどかな)」


ふっとキャンプの奥を見ると、周辺に倒れているゴブリンが見える。そして仲間を呼ぼうと声を掛けあいはじめていた。


「じゃあ、行くわよ」「了解!」


二人は森を駆け戻る!


そしてそれを合図にゴブリンが追いすがり始めた。十五、六匹が一斉に声を上げ走り出す。


「いつ聞いても感に触る声ね!」

「確かに!」


ジルと佐藤は森を駆け抜け、ゴブリンキャンプから死角になる様に丘を越え、深い茂みを目指した。狙いは一つだ。


ジルが丘を超えると佐藤はそっと茂みに身を隠した。そして少し距離をとり、隠密と忍足を使い、五メルほど横にずれて疾走していた。ジルはそれを確認したかの様に深い茂みに飛び出し込みさらに加速する! まるで野生の雌鹿が森の中でを跳ね回るかの様に巧みに茂みの中を駆け抜けるジルに流石に追いつけないのかゴブリンの列がバラけてきた時、佐藤が動いた。


「[リーフフォール]」


佐藤の放った[風水術LV3]がジルの真後ろにいる一団に視覚阻害を起こさせた。「ギッ?」と戸惑うゴブリンにーージルの双剣が舞う。逆手に握り振り向きざまに切り裂き、そのまま身をかわし戸惑っているゴブリンにその刃を突き立てる。


「[スペルバインド]!」


そしてその後方の集団に行動阻害呪文が絡み付いて行く。突然森に襲われ戸惑うゴブリン達にさらなる追撃が加わる。


「[スペルブランチ]!」


そしてーー最後方のゴブリン達に森の木々が襲いかかる。振り下ろされる枝や蔦の攻撃が次々とゴブリンを打ち据えていく中ーージルが一匹、また一匹とその双剣でゴブリンを切り刻んでいた。ジルは「風水術が発動している間だけ攻撃を加えろ」とだけ伝えられていた。ゴブリンキャンプから三分の一を引きつけて膠着させるのが目的だった。


そしてそれは効果時間の長い佐藤の[風水術LV3]により着々とその役割を果たしている。それを確認したかの様にーー一瞬だけ隠蔽の効果を解いた佐藤がジルに合図を送りーー再び森の中に溶け込みーー再度ゴブリンキャンプに向かって行った。


「本物に行く気なのね」


《ドシュ》とゴブリンの首に双剣を突き刺してまた一匹を始末し、目線を送ったのも束の間、そっと、毒針を手に取り、[スペルバインド]に囚われ身動きの取れ無いゴブリンに向かった。


「これは中々シュールな光景ね」


蠢くゴブリンを前にボソっと呟くと、その毒針をそっと放っていく。


森の中の強襲は次の段階に移っていた。

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