第一話 マグロ漁船か異世界転生か
序章
第一話 マグロ漁船か異世界か
その時俺は、究極の選択を迫られていた。
俺の周りを如何にもマフィアの様な危なそうな奴等が取り囲んでいる。
そして
頰に大きな切傷のある一人の男がこう言った。
「お前の選択肢は三つある。
①今すぐ借金を全部返すか、②マグロ漁船に乗るか、③異世界に転生して借金の方に働くか、さて、どれが良い?」
無理だ。今すぐ借金が返せる位なら逃げたりし無い。
マグロ漁船? 一体何年乗れば解放されるんだ!
異世界? 異世界…異世界か……
男達はニヤニヤと俺の事を見ている。彼等にしてみれば別にどれでも同じ事なんだろう。でも内臓を売れとか言われるよりはマシなのか?
くそ、くそ! あの女に騙されたりしなければこんな事に腹をならなかったのに!
「決まったか? お兄さん、残念だが借金は返すのが大人のルールだからな。俺達はどんな事があっても回収させて貰うんだよ。例え非合法な手段を取ってもな。ああ、心配するな。あの女も、お前の所為で破産した奴等も全員支払って貰ったからな? お前はよく逃げたよ。かなり手こずらせてくれたからな。でももう最後だな。でーーどれにする? それ位なら選ばせてやるぜ。因みに、選ばなかったら少し痛い手術を受けて貰うからな。なに、ちゃんと麻酔位なら使ってやるからな。まあ、その後の心配はもう要らなくなるから安心しろよ」
終始にこやかに応対する男は本当に嬉しそうだった。
迷える余地はなかった。
それが何を意味するのかは全く理解出来なかったが、俺は運命を賭けてみる事にした。
そう、人生の土壇場で俺は勝負を賭ける事を余儀なくさせられたのだ。
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「佐藤 義信さんですね」
「は、はい」
借金の方に異世界に行く事になった俺は、いつの間にかこの白い部屋に送り込まれていた。白い机の前には如何にも公務員の様なお姉さんが書類を見ている。
「それでは確認させて頂きますね。こちらをご確認下さい」
債務総額
755,145,258円
連帯保証人/佐藤 義信
「は、はい。間違い有りません」
それにしても七億か! くそお! あの女狐め! 絶対に許さ無いぞ
「それではこちらが契約になりますのでお確かめ下さい。お分りとは思いますがご質問にはお答え致しますが、契約内容の変更はお受け出来かねますのでご了承下さい」
こわ! なんかこわ!
その契約内容って結局一体何なんだよ?
①期間は最大十年
②提示されるクエストを達成すると借金が減っていき、全て返し終えたら終了
③魔王を倒したら終了
④勇者を倒したら終了
⑤十年経った後は債務残高によりその後の運命を決定
「…………」
「ご理解頂けましたか?」
「…………」
その笑顔は鉄の様に揺るぎないものだった。
「補足では有りますが、貴方は債務のカタに身売りさせられた補欠要員ですので、選ばれて召喚される勇者になる事は出来ません。所詮人身売買の捨値で底売りなんですから。でも、余りにも哀れなので貴方には天職と言う特別なクラスと、ギフトと言うスキルを授けられます。後はそれを駆使して生き残り、債務の返済を目指して下さいね」
魔王を倒したら終了なのは分かるが、勇者も倒したら終了ってのは少し下剋上過ぎ無いか? 期間も結局十年なのか。いや、マグロ漁船で死ぬ思いしながら生きるのなら、溺れる心配の無い異世界の方がまだマシだろう。
さっぱり分からないし聞いても無駄っぽいが、ここが人生の再起を賭けた粘りどころかも知れない。
「因みに貴方が向かう世界はユグドラシルと言われる剣と魔法のファンタジー世界ですね。しかし、残念な事にこの世界はあと持っても十年だと言われていますので、その事を念頭に置いて行動して下さいね。ユグドラシル崩壊の場合は強制終了となります」
「ほ、滅びそうなんですか!」
「あくまでもその未来も有り得ると言う事ですから、その辺よろしくお願いしますね? 」
「…………」
「なお、貴方のサポートも専属で付きますので細かな事はその都度確認して下さい。直接のサポートはこの空間までとなりますから、後は貴方次第となります」
「因みにユグドラシル崩壊の原因は?」
「ではこちらの石板に手を乗せて下さいね」
「いやいや、崩壊の原因を教えて下さいよ」
「いいから手を出しなさいよ!」
言うが早いか俺の手を強引に握り石板に押し付けて来た!
「ま、まって下さいよ! なんで教えてくれ無いんですか! それが分らないとヤバイでしよ!」
ギリギリと俺の手を石板に押し付け様とするその力はとてもホワイカラーのものとは思えない圧倒的な力だった!
「いでででっ! な、なんだあんた! どんな馬鹿力なんだよ! や、やめろ! 俺は断固拒否するぞ! 死亡確定じゃ無いか!」
「いい加減に観念しなさい! 原因はあなたなんだから!」
「えっ! 今なんと⁉︎」
〈バヂンッ〉その時無理矢理押し付けられた手と石板から火花が飛び散るのが見えた。
それがこの世界で俺が見た最後の光景となりーー俺は光に包まれーーそして意識を手放した。
最後の言葉が気になるが、もはや手遅れだと俺は光の奔流に押し流されるのを感じていた。
あれ?
今…原因が俺って言わなかったか?
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白い部屋の中から佐藤が光に包まれるのをジッと見つめていた女性は席を立つとーーボソッと呟いた。
「ふう、まさかあんなギフトを持って今まで生きていたなんて……何がどうなっているのかしら」
その時
背後から声が直接精神に語りかけて来る。
『急ぎ世界を繋ぐ通路を閉じよ。そのエリアは全て第九位階の天使による浄化を行い、その後に封鎖する!』
「は、はい。分かりました。で、でも、佐藤のサポートに着いたアカシックレコードはどうなさいますか?」
『残念ながら転生終了後は切り離す。それだけの力わ与えておるからの。あとは佐藤次第じゃな』
「……はい。分かりました」
そしてこの白いフロアは光に包まれ始めた。そこには最高位と言われる天使の光が満ちていた。六枚の羽根を持つセラフィムの持つ神の奇跡力が発動していた。
「ユグドラシルも大変ね」
そう呟くと斎藤を異世界に転生させた神の使徒は掻き消す様に消えて行った。
その神の奇跡力溢れる光の奔流と共に