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世界が異世界転生した。  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
他人の不幸は蜜の味。 けれど、甘いのが苦手な人もいる。
8/14

顔に付いている二つの深淵。 決して覗いてはならない。

 僕だけかもしれないけど、道端を歩いていて、あるいは電車で座っていて、深く何も考えずに人を眺め見ることがある。


 そんな時、あの人の顔は犬っぽいな、猫っぽいな、爬虫類っぽいな。 なんて深く考えずに思ったりする。

 それで、猪っぽい人がいる。 ちょっと失礼かもしれないけれど、毛が濃くて目がつぶらで鼻の穴がこちらを向いてその深淵の黒色を見せるような人だ。


 僕が今見たものはそれとは違う。 一線を画す、どころかもはや線ではなく面で画してしまっているような……。

 いや、文字にしたら、同じ特徴ではあるのだ。


 毛が濃くて目がつぶらで鼻の穴が深淵を覗く者は深淵に覗かれてる感じになってしまってる……。

 猪っぽい顔と、言ってしまえば同じ特徴の人なのだけど、その規模が違う。


 電車で見かける猪っぽい人が先輩の腕の毛ほどの毛が首とか顔とかに生えているとしたら、今見ている猪っぽい人は先輩の頭ぐらいは毛が濃い。

 一応断っておくけれど、先輩がハゲている訳ではない。


 目は丸っこくてつぶらなのは似ているけど、電車の人は白眼が見えているけど、この近くにいるお方は白眼が見えていない、犬とかと一緒の黒一色の黒目だけの目だ。


 深淵がこちらを覗いているのは同じだけど、電車の人は深淵がチラ見せしているのに比べ、このお方様はこちらにガン向きしていて深淵の奥底まで見えてしまいそうだ。

 電車の人が風が強い日の女子高生ぐらいの見え方だとすると、目の前にいるこのお方は股下−7cmぐらいの丈みたいなものだ。


 多分、人間だとは思うけど、どちらかと言うと猪っぽい。

 先輩がやってるゲームを横で見たりする時に見たオークにそっくりなのだ。 今風に言うとクリソツである。


 と、脳内で纏めている内にオークさん(仮)が目の前に来ていた。

 何故かオークさんが僕の目の前で止まっていて、スカートを履いていることで女性であることと赤いランドセルで変態であることに予想を付ける。


「あらたおねえちゃん、こんにちはー!」


 突如僕の目の前でオークは口を開いて元気良く挨拶を始める。


「え、あ、はい。 こんにちは、でございます」


 低く唸るような声であるけど、その口使いはあどけなさを残していて、どこか聞き覚えのある声だった。

 近所の小学生からも子供呼ばわりされている僕のことをおねえちゃんと呼んでくれる人物は一人しかいない。


 僕の頭よりも高いところにある名札を見ると「土田」と書かれていて僕の知り合いであることを示していた。


「土田……あぁ、姫ちゃんですか。 ちょっと見ない内(二日間)内に随分と大きくなりましたね……。

もしかして100cmぐらい伸びました?」


 何故か溢れ出てくる涙を拭いながら、いつものように姫ちゃんの頭を撫でてあげようとするが、背伸びしても肩にさえ届かない。


「えぇー? 姫そんなに伸びてないよー」


 いや、超が付くほど伸びてるよ。 昨日まで僕よりちょっと小さかったじゃないか。 今は天高くそびえ立っていて風格さえ漂い始めているじゃないか。


 姫ちゃんが僕に合わせて屈んでくれているので顔を見ることが出来るけど、そうでもしなければ顔を突き合わせて話すことも出来なさそうでまた涙が出てくる。


 そんな僕の様子に、姫ちゃんは顔を覗き込んで「大丈夫?」と尋ねてくれた。


 ああ、こんな姿になっても姫ちゃんは姫ちゃんなのだ。 そう思い俯かせていたいた顔を上げる。

 姫ちゃんの鼻の穴の深淵からニーチェさんが覗き込んで来ていた。 俗に言う鼻ニーチェである。 分かりやすく言うと、鼻の深淵からニーチェさんがひょろっと出てきてた。


 耐えきれずに、俯いて涙を流してしまう。


「あらたおねえちゃん? 大丈夫? お腹いたいの?」


 姫ちゃんが悪い訳ではないけど、あまりの辛さに泣いてしまう。

 さっきまでは、先輩と一緒に入れるから悪くないかもしれないとか思っていたけど、これは早くなんとかしなければならないと確信する。


「大丈夫です。 ちょっと目にゴミが入っちゃっただけです」


 姫ちゃんは変わらず優しいんだけど、それ故に悲しい。


「でも、なんで姫ちゃんはランドセル背負ってるんですか?

今日は休日ですよね?」


「えへへー、姫ね、間違えちゃった」


 あぁ、ドジっ子かわいい。 あざとかわいい。 学校でロリコン疑惑が浮上している先輩には見せることが出来ない存在である。 元の姿ならば。


 屈んでくれたおかげで撫でられる頭を撫で、姫ちゃんの服装を見る。

 大きな女児用の服というどこか妙な服装は、いつもならばどこにも売っていないような代物である。

 世界がおかしくなった、ならば服やら何やらも代わっているものなのだろうか


「気を付けた方がいいですよ。 一人で帰れますか? 家まで一緒に行ってあげますよ」


 姫ちゃんは放っておくと猫を追いかけだしたりするので、少し心配になってしまう。 色々と動いている先輩には少し悪いけど、家もそんなに遠くはないので問題はないだろう。


 いつものように姫ちゃんと手を繋ぐと、関節が引っこ抜かれそうになってしまったので手を放して歩く。


「じゃーねー、あらたおねえちゃん!」


 家の前まで送り届けたところで、変化している可能性が高いと思われる服屋さんに行くことにする。 多分、先輩はそういうところにはいかないと思うので、丁度いい。



 そろそろ日差しが強くなってきた。 梅雨が近いからか風がちょっと湿ってきた。 なんて、一人で歩いていると色々なことに目がいく。

 暖かなひなたは過ごしやすく、さっきの姫ちゃんのことを思い出さなかったらいい気分だ。


 いや、あの姫ちゃんもあの姫ちゃんでかわいいけど(愛玩動物的な意味で)やっぱりいつもの姫ちゃんに戻ってもらいたいのだ。


 いい天気の中、服屋さんに向かって歩いていると、身体が疲れていることに気がつく。

 なんだかんだ言って、朝から動きっぱなしだったから疲れているのかもしれない。


 先輩が喫茶店に寄るとは思えないし、少しそこの喫茶店でコーヒーでも飲んでゆっくり休んで行こうかな。


 からんからん。 と品の良い音が扉を開けるのとともに開いた。

 子供に見えるせいか店員さんに不思議な目で見られるが、いつものことなので気にも留めず、連れられて席に着く。


 メニューを開けば、どうやらコーヒーに力を入れているらしく驚くべきほど種類が多い。

 どれを選んで良いのか分からないが、元々味なんて分からないのでどれでもいいかと安いのに決める。


 ケーキなどは晩御飯が入らなくなるといけないので止めて、コーヒーだけにすることにして店員さんを呼ぶ。


「このコーヒーください」


「はい。 サイズはどうする……します?

ショート、トール、グランデ、ベンディがありますが」


 え。 しょ、しよーと? とーる、 ぐら……ぐら? ウッディ?

 店員さんの口から訳の分からない言葉が出てきた。 コーヒーの大きさの話なのだろうが、ちょっと訳の分からない。 ここにも異世界化の影響が来ていたらしい。

 いつまでも固まっていたら迷惑かと思い、仕方なく適当に答えることにする。

 えっと、何があったっけ、しょ、なんだっけ。 ウッディってのがあったよね。


「じゃ、じゃあ、ウッディでお願いします」


「ベンディでしょうか?


「……? あっはい、 それでお願いします」


 異界の言語を操る店員さんがどこかに行き、僕はメニューを置く。 一息吐いて少し体勢を緩める。


 休むつもりなのに、余計疲れてしまったような気がする。


 ウッディのコーヒーが来るまで外を眺めていると変な髪色の人が沢山通っているのが分かる。

 金色や白、茶色いのはまだ元の世界にもいたけど、赤黄青と、明らかに自然な色ではない不思議ない髪色の人を見ると少し目がチカチカする。


 緑色の人とか、もしかして光合成したりするんじゃないだろうか。


 そんなことを思っていると、店員さんが僕の前にコーヒーとそれ用の砂糖と小分けのミルクを置いていった。


「お待たせしました。 ごゆっくりどうぞー」


 それを持つ。 えっ、なんかデカくないですか。

 1リットルは入りそうな大きなコップに、その大きさのコップに入るには順当な量のコーヒーが入れられていた。


 これはやばい。 適当に言うべきではなかった。

 後悔するが、仕方ないと手を上げて持ち上げようとする。


 重い。 おおよそコップが持っていい質量というものを超える圧倒的な重量。 アメリカ人がポテトチップスとともに飲むコーラと同じぐらいの量(偏見)。

 これが、異世界ってやつか。 異世界ってやつなのか。


 先輩は異世界が好きだったなと思うと、先輩は飲み物が多いのが好きなのかもしれない。

 ご飯も沢山食べるし。


 あまりのインパクトに支離滅裂になってしまった思考を、高い空を見上げることでなんとか持ち直して、両手でコップを持って口に付ける。


 コーヒーのいい匂いが口に広がる。 なんというか、悪くはないけど。 これだけ飲んだら胃に悪そうだ。


 ゆっくりとコキュコキュと飲み。 お腹がタプンタプンになってきても飲み。 残り少なくなってきたコップを机に置く。


 もう日が暮れそうだ。 僕は何をしているのだろうか。

 先輩は鍵を持っていないので、早く帰らないと先輩が家の前で立ち尽くす変な人になってしまう。

 それは分かっているが、お腹にはもう入らない。 でも残すのは、と思い悩んでいる内にもう少し入りそうになったので飲み干す。


 店員さんにお金を払って急ぎ気味で家に戻るが、先輩はまだ帰ってきていないようで、ちょっと損した気分になった。


 少しゆっくりして、そろそろご飯の用意でもしようかと思った頃になって当初の目的を思い出す。


「あっ、買い物に行くの忘れてた」


 冷蔵庫の中はほとんどすっからかんで、どんなにかき集めたところで料理が二人分作れる程ない。

 今から買い物をしに行ったら、絶対先輩が家の外で待ち惚けになることは間違いないだろう。


 これはまずいと思い、僕はとりあえず先輩に連絡を取ろうと急いで携帯電話を取り出す。




 先輩が座ってた椅子がぶーぶーって揺れた。



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