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世界が異世界転生した。  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
他人の不幸は蜜の味。 けれど、甘いのが苦手な人もいる。
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暗黒の取り引き

 そんなことより、と流すのもおかしな話だけど、一先ずその話を置いておく。

 何をするにあたっても、身の回りの物ぐらいは揃えておかないとどうにも不便だろう。 歯磨きなども出来ていないだろうと考えると、午前の間にでも色々揃えたい。


「とりあえず、コンビニで買えるもので必要な物でも買いましょうか。 歯ブラシとか。

他のところは空いてないでしょうし」

「そうだな。 ちょっと口の中が気持ち悪い。 新のを貸してくれたら万事解決なんだけど」

「変な病気移されそうなんで嫌です」


 物のシェアの限界に到達しそうな先輩を睨み、椅子から立ち上がる。

 先輩が少し眠そうにしている間に食器をキッチンに持って行き、パパッと洗ってしまう。

 一人分の食器しかないので、洗っていない食器を溜めていると直ぐに使える分がなくなるので、使うたびにするのも仕方ない。


「じゃあ、コンビニ行くか」


 そう言って立ち上がった先輩について玄関に行く。

 外に出れば、住宅地が浮遊しているせいで日陰になっていて薄暗い。

 元々、洗濯物は乾燥機で乾燥している僕にはそこまで関係がないような気もするが、どうにも妙な感覚は拭えない。


「先輩、今気がついたんですけど。「住宅地が浮いてることが普通」ってことになってるんですよね?」


「たぶんな、予想でしかないけど」

「それなら、浮遊住宅地に行き来する方法とかあるんじゃないですか?

それが普通なら、普通に登り下りぐらい出来そうですよね」


 僕がその事に気づいたということは、先輩も気がついているということだ。

 おかしな話かもしれないが、僕が分かることは先輩も分かっているのは間違いない。 それぐらい僕は頭が悪いし、先輩は頭がいい。

 一瞬だけ間が空き、先輩が少し早口は話す。


「でも、どうやってだ?

そりゃ探せば上がる方法ぐらいあるだろうが、それを見つけるのは容易ではないだろ。 予備知識なんてないんだしさ」

「その携帯で調べるなりなんなり出来ましたよね。 交番とか、道行きの人に聞いたりも」


 口から出るのは問い詰めるような言葉。 そんなつもりはないと言い直そうとした時に先輩の言葉が先に出た。


「いや、新が怒っていないことは分かってるから気にするな。

普通に、飯を食って風呂に入ってから出るのが面倒だっただけだ」


 それでもおかしなところは幾つも残っている。 それを説明しないということは、言えないか言いたくないことなのだろう。

 それなら、無理に追求は出来ない。


「何にせよ、あんないつ落ちるか分からない高いところに向かうにはちょいと勇気がいるよな」

「……突然浮き上がるなら、突然落ちてもおかしくないですもんね」


 落ちたら、まず死ぬだろう。 少し近くにあるこの家も地面から伝わる振動で被害が出るかもしれないけど、死にはしないと思う。


「……そういうことだ」


 ならば仕方ない。

 僕は先輩の方を見ないようにして、少し早足で歩く。


 おかしくなった世界でも、街並みに小さな変化は存在しないらしい。

 一箇所が浮遊していること以外には昨日の朝とそう変わりのない景色ばかりである。 それが妙に不自然に感じる。


 コンビニにさえたどり着けないとなると困るので、この状態は悪くないのだけど。


「そういえば、まだお金持ってるんですか?」


 あと数mというところで、先輩の持っているお金が手持ちのものだけであることを思い出す。


「ああ、まだ結構あるよ。 崩そうと思って一万円札入れてたから」


 学生としてはあまり持ち歩かない額ではあるけれど、これから先輩が生活するための備品を揃えるとなれば明らかに不足しいる。

 どうしたものか、先程飛んでる土地はヤバイと決めた手前、取りに行くのも気が引ける。

 今、生きているかも分からない親のお金を使うことに抵抗はないけれど、それはよくないことだろう。


「……必要な物は、先輩の家から取って来ましょう」

「え、落ちる可能性が……」

「浮き上がったときも振動はなかったんですから、多分落ちても大丈夫です」

「……いや、まぁ……取りに行ったときに限って落ちるとかないよな!」

「……はい」


 薄暗い会話が成立した。


 そうなると、コンビニで必要な物はほとんどない。

 ここに来て引き返すのも、行き当たりばったりぽさが多くて嫌である。

 そのまま入る。 昼間に来たのならば、暑くてアイスでも欲しくなったと思うけど、今は食べたい気分でもない。


「買うもんねえな」

「飲み物でも買ってから向かいましょうか」


 コーヒーを一本、適当な物を選んで手に取る。

 先輩はそれを乱雑に引ったくり、自分は炭酸ジュースを選んだ。


「ん、ども……です」



 缶コーヒーを手に、空に浮く街の一角を眺めながら歩く。


「これからどうしたらいいんですかね」

「分からないな」

「先輩って、こういうの得意じゃないですか。 ほら、よくドラマとかアニメとか映画とかで、「俺ならここでーー」とか言うじゃないですか。

その妄想力の活躍の場ですよ」

「あれは関係ないから言えるんだよ。 おっさんがプロのアスリートにぐちぐち言うのと一緒なんだよ」


 先輩と話ながら歩くのは少し疲れる。

 まず歩幅が違うので、どうしても早歩きになる。 それに話しながら歩くこと事態が少ないのも一つの理由か。

 息が少し苦しくなってきた頃になると、涼しい日陰になっている地域に着いた。


 もう浮いている場所を見るためには首を上げる必要があり、浮いている場所の下の土地も見えるぐらいだ。 本当に落ちてきたとしたら、ひとたまりもないだろう。


「下にも、建物ありますね」


 都会にも近いベッドタウンであり、仕事場に行くためアクセスやインフラもしっかりと整っているこの街では、所狭しと家が並ぶのは当然ではある。

 けれど、おかしなことには変わりはない。


「一日でここまで建物建てるとかどんだけ突貫工事だよ」

「それどころか、人まで住み始めてますよ。 流石ですね」


 明らかにおかしいが。 なんか突っ込んだら負けな気すらしてきた。

 根本からしておかしなことが起こっているのだから、仕方ないことでもあるような気もする。 やっぱり勘違いである。


 僕がキョロキョロと周りを見渡していた間に、人に上に行く方法を聞いてきたらしい先輩が指を前に向けた。


「あそこのところにワープ装置があるらしい」


 やはり突っ込みは野暮である。


「ところであらたんよ」

「あらたんって言わないでください」

「新よ。 ワープ出来る場所はボタンで選べるみたいでさ。

俺の家の近くにもワープ場所があるみたいなんだよ」


 ああ、エレベーター方式ですね。

 その場所まで来て、ボタンを押そうとする手が止まる。


「だ、ダンジョン……!?」


 ボタンの一つにダンジョンがあった。 これはダンジョンまでワープするということだろうか。


「とりあえず俺の家の近くまでいくか」

「まさかのスルーですか」


 僕の手の横から入り込んできた先輩の指がボタンを押し、それからすぐにふわっと身体が浮き上がる感覚。

 それが収まったと同時に違うところに移動していた。

 見まわせば、見覚えのある場所。 というか、先輩の家の周辺である。


 殆ど変わりのない風景の中、雲がやけに近い気がするのは恐らく気のせいというわけではなく、実際に普段よりも近いのだろう。


 特別、高所が苦手ではないが、それでも何故かも分からず浮いている土地の上に立っているのは勇気がいる。


「パパッと終わらせて帰りましょうか」


 僕がそう言いながら先輩の家の前まで行くと、先輩が遮る。


「ちょっと汚れてるから、掃除してくるから待ってて」

「どう考えても長居する流れですよね。 それ。

ちょっとなら汚れててもいいから入らせてくださいよ」

「俺が気にするんだけど……まぁいいか」


 少々強引に先輩の後ろから入るが、あまり嫌な顔はしていない。

 年頃の異性の家で二人きりになるというのは警戒心が足りないが、昨日泊めたりしたので今更である。

 そもそも、自分より40cm近くも小さいチビ女に欲情するような人もいないだろうので警戒するだけ馬鹿らしい話だ。

 そうすれば、ただの先輩と後輩であり不純なことなど何もないのだ。


 中まで入ったことはなかったので、キョロキョロと見回したくなったがそれは礼を欠いていると自制する。

 それでも普通に家の中は分かる。

 先輩の目の位置からしたらちゃんと掃除出来てるのかもしれないが、僕の目線では少し埃が溜まっているのが目に付く。


 それでも男の人の一人暮らしでも、綺麗な方であることは分かる。 僕の家とは違って人一人住む為だけの大きくない家なのもあって、先輩の生活ブリというのがよく分かる。

 少し離れたところに見えるキッチンには、小さい冷蔵庫に、ほとんど使われていなさそうなコンロ、ゴミ箱には冷凍食品やコンビニのお弁当の容器。

 自炊はせずに買ってきたもので済ましているのだろう。


 他にも色々と気になるところはあるが、口喧しく人の生活に文句を言うのは気が引けるので黙って先輩が必要な物を鞄に詰め込むのを見る。



 ……そういえば、こういう場所に来たらベッドの下を確認する必要があるのだったか。

 昔何かで習ったような気がする。

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