彼は今日も本を読む
彼は、本が好きだった。
それは、彼を表現する際に必要な言葉が、〝本好き〟の一言で片付くほどに。
本は知識。本は知恵。本は力。本は癒し。本は――
「本は、僕の全て」
例えその地位が、一国の第二王子であろうとも。
例えその姿が、その国一の美女にさえ勝るほどであろうとも。
例えその頭が、次期宰相になれるほどであろうとも。
例えその魔法が、王城魔法使い長に届くものであろうとも。
彼が望むことは、ただ一つ。
本を読むこと。ただ、それだけ。
いかなる名誉も。
いかなる褒賞も。
いかなる賛辞も。
彼が振り向くには値しない。
ただ一言、本、と言う言葉に対してのみ。
その形、その名、その力においてのみ。
彼は自ら動き、そして完璧なる対応をする。
真の国一番の笑顔を満面に浮かべ。
誰もが見惚れるほどの所作でもって。
本へと向かって歩くのだ。
「貴方様は、何故そこまで本に執着を?」
いつだったか、彼にそう問いかける者がいた。
彼は、笑って答えた。
「僕が僕であるために。ただ、必要だから」
自分を好きでいるために。
自分は自分であると、胸を張って生きられるように。
今日も、城の書室に彼はいる。
天井に届く本棚を見上げ、たくさんの本の山に埋もれて。
紙がめくれるかすかな音と、時折響く、積み上げた本の崩れる音を音楽にして。
無邪気な読書家の書室の主は、今日も本を読みあさる。