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「絶対、何かあったでしょ?……」
夏海はしつこく、修一に訊いた。
「もう、ほっといてくれよ!」
修一は怒り、車椅子を自ら押し、夏海から離れようとしたが
修一の車椅子は地面に開いた小さな穴に躓き、転びそうになった。
「あ、危ない!」
夏海は倒れそうになる修一の車椅子を受け止めた。
「僕のことはほっといてくれ!」
修一は夏海のことを払い除けると再び車椅子を押し、
夏海のもとから走り去った。
それ以来、夏海は修一と顔を合わせていなかった。
それから数日後。
修一は退院の日を迎えた。
だが、修一の顔色は以前、晴れていなかった。
修一の母親が病院の医師や看護士などにお礼の挨拶を
している横で背を向け、まるで子供がすねるように
携帯電話を見詰めていた。
何だが、修一はとにかく、誰かに八つ当たりしたい気分だった。
その時、修一の携帯電話が突然、鳴り響いた。
修一はびっくりして、携帯を落としそうにながらも
「はい。もしもし……」
電話に出ると
「もう遅い!」
夏海の声が携帯電話の向こうから聴こえてきた。
「いきなり、びっくりするじゃないか…… 何か、用か?」
修一は本当は夏海の電話が嬉しかったが照れ臭さを隠すために
わざと夏海に喧嘩を吹っかけた。
「いや…… 別に用事って言うほどじゃないんだけど……
今日、退院だと聞いていたから。 ちょっと、気になってさ……」
夏海はいつもとは違って、修一に優しい言葉を返した。
ちょっと、拍子抜けをした修一は
「じゃあ。用がないなら(電話を)切るぞ!」
冷たく、夏海に言い、携帯電話を切ろうとした。
「ちょ、ちょっと待って!……」
夏海は慌てて、修一に話しかけた。
「だから、何だよ!」
「……」
夏海は本当は修一と仲直りをしたかったが
なんて言ったら良いのかわからず、押し黙った。
その時、修一の携帯電話の向こうから
『夏海ちゃん。そろそろ、出番です!』
夏海を呼ぶテレビドラマのADの声が
聴こえてきた。
「ごめん。私、(仕事に)行かないと……」
夏海が悲しげな声で携帯電話を切ろうとしたが
夏海の携帯電話が切れる瞬間、
「ごめんなぁ…… 夏海」
修一の声が聴こえ、電話が切れた。
そんな修一の言葉に夏海は涙が溢れそうになった。
久しぶりに休みが取れた夏海は家に篭りがちの修一を
デートでも誘うと飛び切りのおしゃれをし、修一の家に向かった。
ドキドキしながら、夏海は修一の家の呼び鈴を押すと
「は~い……」
軽快な声と共に修一の母親が家の中から出てきた。
「あれ? 夏海ちゃん。 どうしたの?……」
修一の母親は驚いた顔で夏海の顔を見詰めた。
夏海は幼い時から自分の家のように頻繁に修一の家に
訪れていたから修一の母親も慣れてしまい、夏海のことを
自分の娘のように接していた。
だが、今日の修一の母親の様子はいつもと違っていた。
明らかに夏海の訪問にびっくりしていた。
「あの…… 修一、いますか?」
夏海がいつものように修一の母親に修一がいるか訊くと
修一の母親は首を傾げながら
「修一ならいないわよ! あれ? 夏海ちゃんと
デートじゃなかったの?」
逆に夏海に訊いてきた。
「いいえ……」
夏海が首を横に振ると
「おかしいわね…… じゃあ。あの子、あんな朝早くから
何処に言ったのかしら?」
修一の母親は不思議そうに更に首を傾げた。
「じゃあ。私、そこいら辺を探してみます!」
夏海はそう言うと修一を探すために修一の家を飛び出した。




