第5話 打算
妹のシンディを助けてから1週間後、運命の女神マリアンヌが言っていた、今回のイベント? のクリア特典は1週間後の晩、寝ている時にあった。
ちなみに俺の傍らには乳母のボニーさんが看病の為に付き添いして眠っていたが、全く気付かれなかった。
いつもと違う告知の電子音が鳴る。
ピンポパポーン!
『おめでとうございます! 特別イベントである妹の危機を救え! をクリアされました。規定経験値を超えましたのでレベルアップと致します』
パラララララ~
は?
レベルアップのファンファーレ?
『二択の勇者様はLV.がアップしました』
凄いな、LV.1から一気に3に上がったか。
『次のスキルが上がります』
防御E→D、 雷属性魔法E→D
雷属性魔法もいきなりDである。
『次のスキルが加わります』
勇気D、頑健D、魔法耐性E
『特記事項の女神の加護が発動しました』
見ると女神の加護に選択肢が生じている。開いてみると魔法の発動補助というテキストが示されている。
何だろう?
選択してみるとどうやら、マリアンヌによる魔法発動への加護である。
これは魔法を発動する前にマリアンヌの事を思い浮かべるだけで良いらしい。
効果はと言うと発動時間の短縮効果と消費MPの減少、つまり半分になる事だそうだ。
これは良い、素晴らしい、マリアンヌ様々だ。
俺は心の中でマリアンヌにお辞儀をすると、満足し、また眠りについたのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
事件から1ヶ月、まだ俺の身体の傷は完全には癒えない。
雷撃魔法を放出ではなく身に纏ってMPを殆ど消費する勢いで使ったのだから、当然だろう。
生身であんなやり方では3歳児でなくても死ぬ。
確実に死ぬ。
でも魔法耐性の特技はどうすれば上がるんだろうか?
ま・さ・か!?
……俺はMではないし、具体的に考えたくない。
多分、身体回復のスキルか何かが無いと持たないであろう。
そんな事を考えていたら、妹のシンディが乳母のボニーさんに伴われてやって来た。
あれから、シンディは毎日、俺の様子を見に来るのだ。
金髪で碧眼、抜けるように肌の色が白い。
顔は典型的な西洋美人の奥さん似だ。
元日本人の俺から見たら、愛らしいシンディは、まるで可憐なフランス人形である。
とてとてとベッドまで、歩いて来ると寝ている俺の顔を心配そうに覗き込む。
「お兄ちゃん、元気?」
はは、所詮2歳児、気持ちは分るが、ここは言葉が違う。
「し、シンディ、ここは大丈夫? って聞くんだよ」
「ふぇ、ご、ご免、だ、大丈夫?」
「ああ、大丈夫さ、お前は?」
「だ、大丈夫、でもお外怖い、お兄ちゃんが居ないと怖い」
お前は俺が居ないと駄目なのか?
何と可愛い小動物なんだ。
シンディはあれから屋敷の外には一歩も出ないようだ。
当然だろう、俺だってあの時の恐怖が心と身体に染み付いている。
「あれからご主人様が山狩りをされたんですがね」
ボニーさんも震えながら言う。
ザヴィアー男爵は従士5人と村の男達10人で山狩りを行ったそうだが、オークの群れは発見できなかったそうだ。
グランド王国の北部に位置する辺境の地、このザヴィアー男爵領は魔境と呼ばれる魔族や魔物が跋扈する未開の地に接しており、少し離れた山や森にああいった魔物が出現するのは珍しくないらしい。
しかし、いきなり人間の里付近に現れるのは殆ど無かったとの事で、調査も兼ねての山狩りだったのだ。
結局、屋敷や村の近辺では何も異常は無く、あのオークも群れから逸れたオークだろうという結論になったのだった。
異常無しという結果が出てもシンディやボニーさんのショックは無くならなかった。
「大丈夫、今度は父上も守ってくれるし、僕も身体が治れば……」
「駄目ですよ、ジョー様」
ボニーさんが言うのは次期ザヴィアー当主として決して無理をしてはいけないと言う意味であろう。
ザヴィアー男爵夫妻はボニーさんから俺が雷撃魔法を使ったと聞いて、俺の将来性を買ってくれたらしい。
事件後は出してくれる食事の質も格段に上がったし、2人とも俺に満面の笑みで接してくれる。
それほどに魔力が高く強力な魔法を駆使できる魔法使いは重宝される。
簡単な発火や水流など生活魔法を使える魔法使いは星の数ほどいるが、オークを倒せる程の雷撃魔法を使える者はこの世界では希少だからだ。
夫妻が好意的に接してくれるのは、決してシンディを助けただけの理由ではなかったのだ。
まあ、逆に打算的なものが分りやすくて良いかもしれない。
面子と打算で生きる貴族などそんなものなのだ。
俺は何気にステータスオープンしてみる。
称号:【二択の勇者】LV.3
仮称:ザヴィアー家養子(次期当主予定)
名前(本名):タイセイ・ミフネ
名前(仮名):ジョナサン・ザヴィアー
HP:200 / ? 、MP:230 /?、疾走C、スタミナE、防御D、勇気D、頑健D、魔法耐性E
魔法:飛翔C、雷属性魔法D
特記:女神の加護:その1
ステータスは良いとしても何だろう、仮称の次期当主予定って?
俺は苦笑いをしながら、必死に手を握ってくるシンディの手を握り返すしかなかったのだった。